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5. 別離
「なんですか、今の電話は。全く本題に入っていない。かけなおしなさい」
医者の的確なアドバイスに従うことにした。
「あ、もしもしレイコちゃ~ん?はいもしもしのチュー。あのね~、やっぱダメなんだって~死ぬらしいの~それでね?、、、え?いいってどういうこと?僕死んでもいいってこと?、、、わ、別れる?それは、死別って意味じゃなくて?、、、なんでそうなるの?、、、立つ鳥跡を濁さず?なにそれ?、、、僕が鳥?わかんないわかんない、、、さよならって、そんな」
さよならのチューは?、っと口を開く前に切れてしまった。もともと白っぽい診察室の輪郭が曖昧にみえた。
全身が汗にまみれているのも、めまいがして何も考えられないのも、すべて癌のせいと思うことにした。
医者も看護婦もさすがに心配そうにこちらをみている。僕は癌なのだから当たり前だ。
ここは病院なんだから、薬でも出してもらって早く楽になろう、回らない頭でそう思った。
「先生」
「はい」
「さっくり即死コースで」
「ご愁傷様です」
哀れ村雨虹太、享年22歳。
思い返すまでもなく、薄っぺらい人生であった。
あの世にいこう