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3. 交渉
ダメもとではあるが、僕の預金残高を医者に伝え、じっくり永眠コースを選べないか訊いてみた。
すると医者は顔を伏せて首を振り、ため息をついた。
「ダメですね。その予算ではせいぜい半月、駐車場で寝泊まりしていただいてカロリーメイトが一日一本支給されるコースになります」
【じわじわ衰弱死コース】、といったところか。
患者の支持は得られそうにない。
「他の方法はないんですか?もっと大きな病院に行くとか・・・」
「村雨さんっ」
強い口調で僕の名字が呼ばれた。ちょっと失礼だったかもしれない。
医者は険しい表情をしており、診察室の空気を緊張させた。
そしてふっと表情を緩め、どこか遠くを見ながら語り掛けてきた。
「死に方を決めるってことは、生き方を決めるってことなんじゃないかな」
返す言葉が見つからず、不思議な沈黙が流れた。
意味不明な発言をした医者は何故だか満足そうに、奥の看護婦の方を見た。看護婦は自分の爪を見ていた。
「では即死コースということで・・・」
「ま、待って、少し電話させてください」
最終手段だ。彼女に金の無心をすることにした。