魔女の268日目
時刻:ローツ(6時) 時間の魔女シペリシ・ヴォルトウリス
現在地:レアティア
火の魔女が最も恐れた魔女の一人。生命の魔女アプロカカ・アルエファ。この世界でトレース、ティグリスの次にこの世界に来たと言われている魔女。そして今まで魔女として生き続けた。言わば、魔女の中で最古であるということ。
勿論触れられたら終わり。逆に触れたら命の時間を縮めて終了。どちらも一瞬で勝負がつく、そんな殺し合いだろう。
あちらは既に禁忌の魔法を使っている。周囲の物全てを擬人化させる魔法。家も、木も、土も、何もかもを擬人化する魔法。
1つ1つが強くないことは知っているが、一掃できる魔法がないことをあちらも知っているだろう。
こちらが可能なのはただ一つ。時間を左右するだけだ。
『時間隔離』
全体ではなく、一部の時間だけを止める魔法。止めたのは生命の魔女以外の全て。
「あーあ。止められた。『戻っていいよ』」
時間を止めた擬人化達がその場に元に戻った。すごく冷静で切り返しが早い。
「随分と余裕そうだね」
「え?そう見える?結構やばいな~って思ってるよ?」
「そうは見えないけどね『固定時間』」
秒針が止まった。禁忌の一つ。時間を止める魔法。時間停止とは違い、自分以外を止めるのではなく、自分含め、全ての時間が止まる。
「さぁ。これで死ぬまで時間は進まないよ」
「進めた方が身のためだと思うけどね。それ、長時間は持たないでしょ」
やはり見破られていた。生命の魔女の言う通り、この魔法には制限時間がある。長時間使用していると疲労が溜まり、死ぬだろう。
「全部。知ってるんだね」
「そうでもないよ。なんで私がこの世界に来たのか。それが一番の謎だよ」
「それは、同感だね」
「今、楽にしてあげる。『二重の命:連鎖』」
生命の魔女が1人から2人。2人から4人とどんどん増えていった。気付けば100人以上に増えていた。その間僅か一瞬だった。
「これが私の禁忌。どこまでも増えるから注意してね」
「時間を戻せば変わりはないことをお忘れ?『過去移動』」
「それは過去の魔女の魔法だよ」
魔法を使った、いや、使った後のほんの僅かの間に後ろからうなじを思いっきり殴られた。
「この魔法。一人一人別行動が可能なの。あと、これも禁忌なんだけど、見た魔法をコピーできる魔法。これは生命の魔女特有の魔法かな。そして今のは空間の魔女プトゥマティ・イルクアースの『空間移動』」
数多くの魔女を見てきて、その1人1人の魔法を見てきている相手に、どう勝てばいいのか。この時点で勝機を失った。
「因みに過去の魔女が使った『過去移動』は私も使えるからね」
「......降参」
「そう。『戻って』」
無限に増えていた生命の魔女が最初の生命の魔女に戻っていく。そして1人になった。
「火の魔女が恐れる理由が分かったわ」
「そうだね。あの時に殺しておくべきだったかもね」
「死んでも生き返るでしょ」
「それは、そうだけどね」
時間を制するのか。生命を制するのか。どちらも同じようで全く違った。実質魔法をすべて使える魔女なのに、火の魔女はそれ以上に眠りの魔女を優先した。
「なんで、シュロシルなんだろうって思ってるでしょ」
動けない私の隣に生命の魔女が来て座り込んだ。お互いやることが終わった身だった。
「生命の魔女以上に強い魔女なんていないんじゃない?」
「どんなに長生きしても、あの2人は私以上。そしてあの2人はああいう結果を毎回生み出す」
時刻:レアル(8時) 生命の魔女アプロカカ・アルエファ
現在地:レアティア
「毎回生み出す?」
「ええ、最初は過去の魔女と未来の魔女。次に砂の魔女と鏡の魔女。黒の魔女に箱の魔女。そして良く知られている破壊の魔女と幻影の魔女」
過去に何度もあった。これは今に始まった事じゃない。永遠と受け継がれているお話だ。それを全部見てきた......
「時間が経つたび被害は悪化した。それが表沙汰になったのは破壊の魔女の時。あの時は街1つで済んだけど、今となっては世界規模遺。最初は些細な喧嘩だったんだけどね」
「知ってるの?」
「何年生きてると思ってるのさ」
「そうだったね。最初の喧嘩って何?」
「聞いたら笑うと思うよ」
過去と未来。それは同じようでかけ離れた存在だった。だからこそ、この喧嘩は生まれたのだろう。
「未来にも過去にも行ける者が争う理由。それは単純なんだ。どっちが幸せか。それだけだよ」
「え?」
「笑わないんだね。まぁ最初は私もそうだったけど、しっかり聞いたら笑えてきたよ。過去の魔女は戻れば未来を変えれる。けれど、それは本当の幸せか。逆に未来の魔女は未来を見て今を変え、未来を変える。けれど、それは過去の魔女と同じで本当の幸せなのか。そんなくだらないお話から始まった、ただの子供喧嘩なんだよ」
時間の魔女は小さく笑った。
見ていただきありがとうございます!
生命の魔女vs時間の魔女。今回は時間の魔女目線でしたが、どうだったでしょうか。そして最後の生命の魔女視点で述べたこの戦争の始まり。
そして、いよいよクライマックスへ!