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俺は歩く。彼女に会いに行く為に。
どこか遠くの方から、子供達が騒ぐ声が聞こえる。俺は足を止めて、声のする方に目を凝らす。前方から五人、幼い男子の五人組がサッカーボールを蹴りながら、こちらに走ってきていた。俺は何となく足を止めて、太陽を背にしながら近付いてくる彼らを目を細めながら見た。逆光のせいで彼ら一人一人の顔はうまく見えないが、彼らの発する声のトーンと、弾む足音とボールを蹴り合う音のリズムで、彼らは心底楽しんで仲間とサッカー遊びを繰り広げていることが分かる。この推測は、間違いなく、俺の経験則によって導き出されたものだ。俺にもあんな頃があった。仲間がいて、ボールがあって、ただ蹴り合うだけで楽しくて、それだけで満たされていた。ポジション争いもなく、敵味方もなく、ゴールマウスすらなく、したがってシュートもゴールもなく、馬鹿みたいに思い切りボールを蹴るだけだった。それが楽しかった。本っ当に楽しかったんだ。もしこの足が完全に治ったとして、彼らのように再び心底サッカーを楽しめるようになるだろうか。
俺は立ち止まる。爪先をじっと見詰める、真っ白だったギプスが、少し汚れて茶色がかってきている。俺はただじっと爪先を見る。その横を、サッカーボールを蹴る子供達が笑い声と共に擦れ違って行った。俺はようやく顔を上げる。後ろから一段と大きな声が上がった。
さあ、そろそろ俺も歩き出そう。彼らに負けないように前に進もう。その為の助力をくれるかもしれない彼女に会いに行こう。歩こう。歩き出そう。何があっても、何もなくても、結局、前に進むしかないのだから。歩こう。歩き出そう。彼女に会いに行こう。もうすぐ、きっと彼女に会える。
そう思った。まさに、その瞬間だった。