星
空を見上げていた。
暗い夜空。
淀んだ空気に遮られ、不浄な光に乱されて。
疎らな煌めきが辛うじて見えるだけ。
だけど、見えない先には輝かしい世界がある。
何者も遮ることのない、悠久の空間。
拡がり続ける無限の可能性。
僕の居場所は、きっとそこにある。
こんな窮屈な地上世界に、僕の居場所はない。
あの星に仲間入りするのが、正しい在り方だ。
いつからか、そう、信じていた。
少しでもそこへ近づこうと、潜り込んだ超高層マンションの屋上。
それでも、見上げる空はまだまだ果てしなく遠くて。
手を伸ばす。
届くわけなどない。
天との距離の誤差にもならない。
無限とも思える距離を自覚しただけ。
己の小ささに、笑いたくなる。
手を降ろし、ふと、気付いた。
そうか、そうなのだ。
発想を逆転すればいい。
屋上の縁から、地上を見下ろす。
吸い込まれそうな、景色。
何もかもがミニチュアじみて。
人波は蠢くダニのよう。
全てが遥か遠くに見える。
だけど、あの空よりはずっと近い。
迷わず、飛び降りる。
近づいてくる、穢れた世界。
だけど、遠ざかるのが、星への近道。
僕は歓喜に震える。
これは、ワープに等しい。
このまま、地上に叩きつけられることが。
この肉体を損なうことが。
人は死ぬと何になる?
そう。
僕は、間もなく星になるのだ。
- Happy End! -