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九話、ご来艦二人、イベント盛りたくさん!

 「一人で行くやつがどこにいる!」

「ではあのまま、CICの中でじっとしていろと言うのですか!何もせずに!?」

ドック入りしている青葉。その艦内に、二人の怒号が響き渡っている。

 「現場責任者である士官が出て行くとは、規律破りも甚だしい!貴様はそれでも少佐なのか!?」

「ええ少佐ですよ!何もわかってない石頭様とは違いますけどね!」

「何をぉー!」

声の出所の士官室、その外では野次馬クルーたちが集まっている。狭い士官室前に50人はいるようだ。

「おいおい、一体何が起こっているんだ?」

野次馬を見て驚いた様子の男性が一人。歳は…40歳?

「あ、三竹少佐ではないですか。いつものことですよ。」

出遅れて野次馬の後ろの位置になってしまった武が、笑顔で返した。ただごとではない様子にもかかわらず、笑顔の武にさらに混乱する男性。

「い、いつものことって…え!?」

見れば野次馬は、誰も深刻そうな顔をしていない。むしろ楽しそうにしている者さえいた。

 ちなみにこの男性は、負傷し艦を降りることとなった遠山航海長兼船務長、その後任である士官である。船務科、三竹豊次郎みたけ とよじろう少佐だ。

「副長と橋本さんの対決ですよ~。艦内きってのエリート同士の対決ですぅ~♪」

三竹に気づいた千早が、面白そうな声で説明する。

「た、対決!?」

 青葉、いや日本海軍内でもエリートの部類に入る和田中佐と橋本少佐。実はこの二人、異常なほど反りが合わない。だから話題を問わず、週に一回くらいのペースでこうして衝突が起きるのだ。今回は、どうやら青葉事件での橋本少佐の行動らしかった。

「いつもは艦長あたりが止めに入るんですけどね。上陸していないんですよ。」

武も笑顔で説明する。この対決というか衝突というかは、青葉のクルーにとってお祭りのようなものだ。日頃、石頭の和田に溜まっている鬱憤を晴らしてくれる気持ちのよいイベントなのだ。

「おお、何か面白いことやってるじゃないか。」

もう一人、士官が近づいてきた。こちらも遠山少佐の後任である、小倉おぐら 冬間とうま少佐だ。航海長の役割がまわってきたらしい。

「和田中佐と橋本少佐の対決、だそうだ。」

困ったような顔で説明をいれる三竹。

「橋本少佐って…、ああーあの女性の少佐か!面白そうじゃないか。」

面白そうな顔をして、野次馬の中に混ざっていく小倉。はぁ…とため息の三竹。小倉の方が年上らしく、咎めるのも気が引けるらしい。

「艦橋で震えてたじゃない!この萎びたせんべい!」

「きっ貴様ぁ…、上官に向かって何を言うか!この口だけ女!」


 7月の海を滑るように、太平洋を駆ける青葉。ドックから出渠したあと、新たに着任した二名の慣熟のための演習が始められた。

 午前中は救助訓練や各種機器の点検をかねての艦内演習。エレナ指示の下、艦内戦闘の練習も行われた。実戦を意識しようとペイント弾を使用したら、あっという間に艦内はカラフルになってしまった。

 『教練開始5分前。』

大滝の声が艦内に響いた。艦橋には大滝と和田、航海長となった小倉の姿があった。CICにはいつも通りの橋本、それに船務長である三竹が立っていた。

「ねえ、三竹さんってどんな人に見える?」

となりからヒソヒソ声で千早が話しかけてきた。横目で橋本が三竹と喋っているのを確認し、

「ごく普通の士官にしか見えない。」

と、短く返した。

「ごく普通ってどんな感じよ?」

「あー、特徴がないっていうか…。」

「特徴がない、か…。あの人ね、士官学校の教官だったらしいの。」

へぇ、教官ね。こんな人いたっけか、と思わず見てしまう。

『教練。対水上戦闘用意。』

おいおい、まだ5分たってないぜ。心の中で舌打ちしつつ、ディスプレイに向き合う武。大滝艦長がたまにやる、時間繰上げだ。

「目標補足!方位1-4-0、距離90キロ!速力20ノットで東進中!」

今日はどうやら敵と断定した状況でやるらしい。千早は珍しさを感じ取った。

『面舵一杯。機関第一戦速。』

『面ー舵!機関、第一戦ー速!』

『CIC、艦橋。ハープーンによる攻撃準備。』

早々と出番か。と、手を動かしにかかる武。

「目標転舵!進路2-7-0から2-9-0!」

『CIC、艦橋。対空迎撃に備えよ。』

「CIC了解。対空迎撃に備えます。…真田一曹。」

「はっ。」

短い返事を残して作業をこなす。ハープーンミサイルと対空ミサイル双方の準備。武にとってはお手の物だ。

「イージスシステム展開。多数目標に備え!」

「対空レーダーに感ッ!方位2-9-0!機数2!」

レーダーから転送されてきたデータを打ち込む。スタンダードの表示が“WAIT”に変わった。

「スタンダード、攻撃準備よし。」

「了解。スタンダード、…攻撃開始!」

橋本の声に合わせ、指に力をこめる。レーダースクリーン上に、光点が2つあらわれた。

「ハープーンはまだ?急ぎなさい。」

「はいっ。」

相変わらず容赦のない注文だ。同時進行ができるだけでもありがたいと思え、と心の底で叫びつつ指を慌しく走らせる。

「ハープーン、攻撃準備よし。」

「了解。艦橋、CIC。ハープーン攻撃準備よし。」

ふと隣を見ると、千早が暇そうにしている。武に気づくと意地の悪そうに笑顔を見せる。

『CIC、艦橋。ハープーン、攻撃開始。発射確認ご、第二弾準備せよ。』

「アイサー。ハープーン、攻撃開始!」

「アイサー!ハープーン対艦ミサイル、ファイア!」

またスクリーンに光点が増えた。先の光点は、敵ミサイルの光点と重なりそうだ。

「スタンダード、弾着まであと5秒!」

光点が重なった瞬間、両方ともその姿を消した。まあ武にとってはいつものことだ。

「新たな対空目標、2確認!距離85キロ!方位1-5-0!」

「スタンダード、ハープーン、二次攻撃急いで!」

全神経を使ってデータ入力を急ぐ武。顔は笑っていても、心は鬼の大滝艦長。

「スタンダード、二次攻撃準備よし!」

「すぐに発射して!引き続き、ハープーンの準備急げ!」

「アイサー!スタンダード、攻撃開始!」

レーダースクリーンに映る、また2つの光点。真っ直ぐ目標へと突き進んでいく。

「ハープーン、弾着まで5秒!4…3…2…」

光点が重なるー。重なった瞬間、両者とも綺麗に消えてしまった。

「ふぅ…。」

スタンダードの弾着も確認し、今日は楽だったなと一息ついた直後だった。

「ソナーに感ッ!三時方向!距離5000!」

「ふぇえっ!?」

千早がびっくりして飛び上がる。どうやら大滝は、対潜関連もしっかりと時間をくれたらしい。

「そんなのなしだよぉ~…。」

慌ててアスロックの諸元入力を始める千早。こんなときでもなすべきことがわかっているのは、千早の技量であろう。

『対潜戦闘用意。アスロックの攻撃準備に入れ。』

「今やってまーす!了解!」

つい出てしまった声。橋本がキッとにらんできたのも仕方ない。

「キャビテーションノイズ4、検知!雷速50ノットで魚雷4接近!」

『取舵一杯。進路2-2-0。』

『取ー舵!』

「デ、デコイ用意…。」

初めて三竹の出した言葉がこれだった。

「大丈夫です。本艦は魚雷を迎撃します。」

「げ、迎撃…だと!?」

残念、橋本に速攻で変更されてしまった。

「デコイの方が楽なのに…。」

千早が愚痴りつつ、

「短魚雷、諸元入力完了!迎撃準備よし!」

と声をあげた。

「短魚雷、発射!」

橋本が叫ぶ。横の三竹は開いた口が塞がらないらしい。

『CIC、艦橋。アスロックの準備急げ。』

忙しなく指を動かせる千早。進路、距離、速度…。

「アスロック、用意できました!」

「了解。…艦橋、CIC。アスロックの攻撃準備よし!」

「了解。そのまま待機せよ。」

「短魚雷、弾着5秒前!」

3…2…1…。2つの光点が、4つの光点を跡形もなく消し去った。

「短魚雷、弾着!」

『アスロック、攻撃開始!』

大滝の堂々たる声が響いた。

「アイサー!アスロック、発射!」

千早の指に力が加えられた。

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