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七話、血塗れた青葉

 “コンコン”

「失礼します。」

大木少尉は参謀公室のドアを開けた。大滝の言葉に疑問を持ちながらも、ゆっくりと。

 が、ドアを開け切る前に聞こえたのは銃声だった。

“タァーン!”

恐ろしいほど気持ちのよい銃声が響き、銃弾が大木少尉の胸部を貫通していった。

「!!」

大木少尉に何が起こったのか。それを知らされぬまま、彼は倒れた。


 「銃声だと!?」

艦橋にも聞こえた銃声に、驚く和田。さすがの大滝も笑顔ではなかった。

「艦長より全艦に通達する。」

素早く艦内放送用のマイクをとる大滝。

「総員持ち場を離れるな。全通路を迅速に閉鎖せよ。以上!」

喋りながら、大滝が身振り手振りで艦橋員にも指示を出す。ラッタルを閉めろ、だ。

『CIC、了解。』

「やつら、世界政府の人間じゃないのか!?」

「これではっきりした。世界政府の人間か否かは知らないが、俺を狙った可能性がある。」

ラッタルを閉める水兵。直後、ふたたび銃声。

「ダメコンルーム(応急監視制御室)には誰かいるか?」

大滝が訊く。

「先任伍長と機関科員数名がいると思いますが…。」

「なんとかして連絡を取れ。どこの隔壁が開いてるかわかれば、やつらの居場所を知ることができる。」

とは言っても、艦内放送を使えば向こうにもまる聞こえだ。

「航海長、最大戦速で横須賀に帰投する。」

「はっ。面舵30度!機関最大戦速!」

珍しく、和田が指示を出す。

「面ー舵!」

「機関、最大戦ー速!」

“パンッ”

また銃声。今度は近い。

「このすぐ下か?やつら、扉を打ち抜くつもりだな。」

「いや、午前中の調査でここの厚さが拳銃で撃ちぬけないことはわかっている。」

「…。」

うーんと伸びをする大滝。

「こちら艦橋、こちら艦橋どうぞ。」

『…ガ…ガガ…。』

「?」

ひとりごとのような声と、妙な雑音のする方向には

『ガ…こ…ら、は…ガガ…ちょう。ガガガ…お…とう…ガ…います…ガッ』

「無線機を試していますが…、なかなか聞こえが悪いですね。」

元木上等水兵がしゃがみこんで無線をあれこれいじっていた。雑音の出るもの、いや、通信できるものなど無線機しかない。

「周波数合わせたか?」

「ええ、もちろん。」

元木がいじる姿に、何名かが近づく。

「これが周波数つまみで、こっちが音量…」

「バカ、そっちが音量だ。上等水兵にもなって無線機も扱えんのか。」

遠山が元木から無線機をひったくり、つまみを回す。

「こちら艦橋、遠山。どうぞ。」

ほどなく、返事が聞こえた。

『ガガ…あー、こちら先任伍長。どうぞ。』

「なんだ繋がるじゃないか。まったく…。」

大滝は無線機を受け取ると、送信ボタンを押し込んだ。


 「今開いている扉ですか?参謀公室から艦首側はCIC二箇所手前まで、艦尾側は…ああ、ここのすぐ前までですね。上甲板以外ですと…、艦橋を登ってますね。そちらのすぐ下までです。」

ダメコンルームでは、原田と機関科員2名が制御盤をじっと見つめていた。扉は消火器のホースでグルグル巻きにしてある。

 無線機は通信性能調査で使ったやつの電源を切り忘れていたものだった。運よく艦橋からの通信に気づいた、というわけである。

『わかった。何か変化あったら教えてくれ。おっと、そっちに武器はあるか?』

「武器…ですか。」

原田は室内を見渡す。が、

「武器といえば、私の自衛用の拳銃のみですね。なんせダメコンルームですし。」

『あー…、了解。混乱しないようにしてくれ。今対応策を考えている。』

「了解です。2名は少し手荒く落ち着かせておきます。」

そう言うと、原田はガチガチ震えている二名に向かって…。


 「どうなってるのよ、もお~!」

千早がコンソールの前で叫んだ。状況がわからず、混乱しかけているのは武も同じだ。

「静かに!艦が帰投ルートにのっているということは、異常事態が起きていることに違いないわ。全員、現状把握に努めて。余計なことは喋らないこと!」

そうテキパキと指示をする橋本自身も、先の銃声から不安を感じていた。

「砲雷長、蒼龍から連絡がきました。夕雲が今、横須賀港を出港したようです。」

「了解。さてと…。」

腰のホルダーから拳銃を取り出し、トリガーを引く橋本。カラン、という薬莢の落ちる音がCIC中に聞こえた。

「砲雷長?」

「様子を見てくる。仁科大尉、私が帰るまであなたが指揮を執って。」

「は…。」

残念ながら武と千早を含むCICの科員が期待していた返答は、仁科にはできなかった。

“ガチャ”

ドアの脇へと立ち、ロックを外す。

「…。」

緊張の面持ちのまま、ドアをゆっくりと開ける橋本。

 が、最初に見えたのは銃口を構えた女性の姿。

“タンッ”

銃声と共に、女性の持つ拳銃が火を噴く。刹那、橋本はドアを閉めた。

 間一髪、銃弾はドアの端に弾痕をつける。閉まるドアの音と、落ちる薬莢の音が同時に聞こえた。

「ハァッ…ハァッ…。」

息を荒げる橋本。CICの空気は、一瞬で重苦しくなった。千早は顔を青くしている。

「緊急連絡用の無線はどこ?」

緊急事態を一瞬で理解した橋本が最初に発した言葉だった。

“パチッ”

『…うかい。5分後に突入する。オーバー。』

武がスイッチを入れた瞬間、大滝の声が飛び込んできた。

「こちらCIC、こちらCIC!応答願います、どうぞ!」

橋本が受け取り、高ぶった声で叫んだ。ほどなく、返答が入った。

『こちら艦橋、CIC状況を報告せよ。どうぞ。』


 「よし…、突入!」

大滝の声で、艦橋の幹部が拳銃を片手に頷いた。元木がラッタルへのドアを引き上げる。

 開いた瞬間、銃弾が飛んできた。予想通りとばかりに遠山がかわし、すかさず反撃の引き金を引く。

“タンッ”

腹部に当たった銃弾は、床に鮮血を広げる。ラッタルからは、士官3人と大滝が下りてきた。

 CICの方をのぞくと、男女4人がこちらを認めるなり発砲してきた。

「うぁっ!」

士官の一人が倒れこむ。肩からは真っ赤な血がにじみ出ている。

「扉を閉めろ!早く!」

士官を引っ張りつつ、大滝が叫んだ。遠山がドアを力任せに閉める。

「原田!CIC前にCO2放出!」

『了解。』

“パンッ”

「ぐっ!」

扉の向こうでシューという音がした直後、後ろから銃声。同時に遠山が腰を押さえて倒れる。

 参謀公室にいた調査官らが、気づいて射撃したらしい。とっさに大滝は、振り向きざま拳銃を発砲する。

“タンタンッ”

銃口を向けていた二人が倒れる。さらに、奥の扉が開いた。ダメコンルームにいた原田だ。

「吹田、森!大木少尉を救出しろ!」

「ハッ!」

原田は参謀公室の横へと張り付く。同時に、大滝も張り付いた。

「1,2の…3!」

息を合わせて室内の方へと向く。同時に、二人の銃口から弾が放たれた。

“パンパンッ”

8発の銃声が同時に聞こえた。それぞれの銃弾は空気を切り裂きながら交差していった…。

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