五話、水着だ!砂場だ!海水浴だ!
青葉以下四隻は、夜中にフィリピン・キャビテ港に入港して停泊した。
22:03・下士官兵士休憩所
武と千早は、休憩所でお茶を飲んで一服していた。
「…」
武は一口お茶を飲む。
「武~あまり浮かばない顔してどーしたの~?」
千早が武の顔を覗きこむ。
「ああ。今日の戦闘、ちょっと振り返ってな。千早が気にすることじゃねぇよ。」
「そっか。じゃあ明日上陸日だから、砂浜で思いっきり遊ぼうよ!」
千早はそう言って上陸休暇許可書(二人分)を取り出す。
「…何時許可出した?」
「業務終了間際!!」
「原田さん、大変だな。」
武は苦笑いをした。先任伍長である原田 陽一海曹長を思い浮かべたからであろう。原田先任伍長は、クルーの信頼が厚い先任伍長であり、「青葉」のことを誰よりも知る艦の動く辞書とも言われている。もちろん、武や千早のことも知っている。
「しかし、よく許可出してくれたな?」
「気にしな~い♪気にしな~い♪」
何はともあれ翌日。二人はキャビテ港付近の砂浜にやって来た。
「き~もぉちぃ~!!」
海ではしゃぐビキニ姿の千早。
「全く…。」
波打ち際で仁王立ちしている武。
「武も泳ごうよ~!折角水着を着ているんだからさ~!」
「千早を見るだけでも、俺は別に構わんよ。」
「…え?武、ロリコンなの?」
「ちげぇよ。お前22だろ…。」
千早の素っ頓狂な言葉に、武は呆れつつ否定した。
「おお!お前らも海水浴か!!」
橋本が、クーラーボックスとビーチで使う大きな日傘を持って二人の所へやって来た。
「あ、橋本さん…。」
「今日はやや暑いようだ。ジメジメする。」
「そうですね…。」
武は橋本に近付く。
「橋本さん、ちょっと歩きませんか?」
「ん?…ああ、いいだろう。」
橋本は、クーラーボックスを置き日傘を立てて、武と一緒に波打ち際を歩く。
「昨日の戦闘、御苦労だった。心底疲れているだろう?」
「いえ、私は…。」
「嘘を吐くな。私には分かる。まあ、アスロックの件だな。」
「はい。朝霜にアスロック発射命令が出ていたにも関らずに、自分は青葉のアスロックの諸元入力をしかけました。」
「まあ、焦るな。とりあえず…。」
「はい…。」
武は返事をして下を向く。
「元気出せ…と言っても無理か。真田は余裕が無いからな。」
「否定はしません。まだ未熟ですから…。」
「誘導弾の管制は一流と言ってもいいのだがな…」
「まだまだですよ。焦っているのが良い例ですよ。」
武は自嘲した。
「…自分を蔑むのは良くないぞ。」
「これ位言わないと、自分は…」
「バカ者!」
「…。」
武は橋本に怒鳴られて黙り込む。
「貴様は良い奴だ。少なくとも、私が見る限りではだ。確かに未熟な部分があるだろう。だがな、お前にしか出来ないことがあるのは事実だ。」
橋本は、武の肩に手を置いて真正面から向かい合う。
「お前には自信が無いのか?そんな筈はない!」
「!?」
「お前は行けるさ…真田 武。」
武は、抱きついてきた橋本に驚きつつも、その言葉に閉塞気味の心を打ち砕かれたような思いを感じた。
「千早のところにいくか。今頃あいつはブーたれてるぞ?」
「ですね。」
武は苦笑いをして、橋本の後を追う。
「武~何処行ってたの~。」
案の定ブーたれていた。
「ちょっとな…。」
武は困った顔をして、頬を軽く掻く。
「お前達、喉渇かないか?」
「はい。」
「はい!」
「ならここから好きなの取ってけ。」
橋本はクーラーボックスを開けた。
「おお!」
「ありがとうございます。」
千早と武は自分の好みの飲み物を取った。
「いただきまーす!」
千早は勢いよく飲む。
「千早…それ、チューハイだぞ?」
「ふぇ?…あ。」
武が言った頃は、時既に遅し。
「うわあああ~。」
千早は目を回して倒れた。
「あちゃー…。」
武は額に手を当てる。
「しまった。出る間際に酒保でチューハイや焼酎、ワインも買ってクーラーボックスに入れたのがまずかったな。」
「昼酒は体に毒ですよ。」
「夜飲もうとしてな…。」
「ああ~…。」
武と橋本でダベっていると…
「…ヒック。」
千早が起きた。
「…何か嫌な予感しかないぞ。」
武は千早のオーラを察して、冷や汗をかく。
「確かにな。」
橋本も千早のオーラを察して、組手の構えをして臨戦態勢に入る。
「橋本さ~ん!一緒に良いことしませんか~!」
頬を紅くして千早がヨタヨタと橋本の方へ歩く。
「生憎、そういうのには興味がないからぞ。」
「なら無理矢理でも!」
千早は、目にも止まらぬ速さで橋本に襲い掛かる。が…
「甘い!」
橋本は交わしつつ、千早の腕を掴んで後ろへ投げた。
「おお!一筋縄じゃあいきませんか~。じゃあ、飛び掛かり…」
「来い。また…」
「からの下からダイブ!」
「うお!?」
飛んでいたはずの千早が、急降下して下から上へのダイブで橋本に飛び付いて押し倒す。
「やられた…。」
悔しがる橋本だが、完全に千早が優勢だ。
「では手始めに~。」
千早はニンマリ顔だ。
「千早…そこまでにしとけy」
「武は後だからまだダメ~♪」
「グハッ!?」
武は、千早を止めようと近付いたが、千早の裏拳がクリーンヒットして無様にぶっ倒れる。
「ふ、不幸…だ、ぜ…」
武は暫く動けないようだ。
「橋本さ~ん!」
「うぐっ!?」
千早は橋本とキスをした。深く、そして、激しく…
「んっ!んんんっ!!」
「んっ…ん…ん~…ん…」
嫌がる橋本を抑えて、千早は丹念に丹念をというぐらいに、長いキスをした。
「はあぁ…はあぁ…はあぁ…」
橋本は、色気が出てもおかしくないぐらいになっていた。目はトロンとして、ビキニはポロリ寸前…
「うう…いってぇ~」
「じゃあ次は武~!」
千早は漸く起き上がった武に近付く。
「わは~!」
「うおっ!?」
またもや、橋本の時と同様に押し倒された。
「おいおい…。」
「武~♪武から…キス、ちょうだ~い!」
「…マジ?」
「マジ~♪」
「しかたないな…。」
武は溜め息を吐いて、手を千早の顔に添える。
「今の俺は…。」
「んっ…。」
十数分後、橋本が正気が戻って千早がすうすうと眠りに就いた時に青葉へと帰る。
17:00、青葉艦長室
「え?本国へ帰還ですか?」
「ああ。何でも世界政府の査察官が、戦力把握として青葉に派遣されるらしい。」
橋本は、艦長の大滝に呼ばれて艦長室を訪れていた。
「まあ、予定より早く帰れるのはいいことだろう。」
「不自然と思いますが。」
「北方で何かあったのだろう。まあ、いずれにせよ我々下っ端が決められることではないさ。」
「…そうですね。」
翌日、青葉以下四隻がキャビテ港を出港して日本へと帰投した。