表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

三話、電撃、空へと走る

 そろそろ6月になろうかというこの日、青葉はフィリピンの東沖にいた。僚艦の「朝霜」、「早波」、「夕雲」(いずれも駆逐艦)を連れている。空には入道雲がそびえたっている。

 テロリストの警戒、というのが任務だが、東南アジアのテロリストといえば主に陸上行動であり、稀に世代遅れの戦闘機がふらついている程度である。大滝ですら、なぜ行かねばならないのかと不思議がっていた。

 武はCICの扉を開けた。

「ご苦労さん。何かあったか?」

「お疲れ様です、真田一曹。特に異常はありません。」

「そうか。どうせ敵艦はいないだろうよ。」

一言二言の会話を交わし、ミサイル菅制員の席へと座る。

 程なくして、あくびをしながら千早が入ってきた。

「お疲れ様です、西園寺一曹。」

「うん、後はやるから。」

そう言って隣に座る千早。

「写真、部屋に置いといたぞ。」

「うん。」

「あれで満足したか?」

「…うん。」

「なんか満足してないような言い方だな。」

「…。」

「…千早?」

見ると寝落ちしている。スースーといかにも心地よさそうな寝息が聞こえた。

「…はぁ。」

橋本がいないのを確認する。まあ敵がいないのに、武器菅制員にやることがあるはずもない。


 “ジリリリリ…”

「!?」

けたたましいベルの音に武は飛び起きた。あわてて周りを見渡す。

「千早!起きて!」

「むにゃむにゃ…やっぱりけーきはいちごしょーとが…」

『方位1-9-0より艦艇3、接近。距離40キロ、速度15ノット前後にて進路0-0-0に航行中。』

「距離40キロ?やけに近いじゃないか、なぜ探知できなかったんだ?」

『対水上戦闘用ー意。』

状況がわからぬまま、事態はどんどん進んでゆく。

「ふぇぇ?」

ようやく千早が起きた。

「千早、戦闘だぞ。しっかり起きて。」

「ええ~!」

オーバーにびっくりする千早。つっこんでるヒマはないので放置する。

“バン!”

「状況は?」

CICのドアから、派手な音と共に橋本が出てきた。先の上陸のときの面影は微塵もない。

「本艦ほぼ正面に敵艦3。島影で探知が遅れ、40キロまで接近しています。相対速度30ノットで接近中です。」

「よし、警告が済み次第攻撃できる準備を。レールガンの発射に備え、キャパシタの充電を完了しておいて。…真田!」

「はっ。」

急に呼ばれる武。

「対空ミサイルの発射準備をしておいて。向こうから先手が飛んでくる。」

「わかりました。」

 世界政府の方針で「テロリストへの無用な刺激を防ぐため、最初に警告を行うこと」が例外を除いて義務付けられている。まず「例外」には当てはまらない為、警告したのち即攻撃、というのが暗黙の了解となっていた。

 「敵艦隊、進路を変えます。2-7-0に向かって転進中。」

「これは…。」

武が予想を口に出す前に、結果発表となってしまう。

「飛行物体…、ミサイル1接近!距離35キロ!」

「迎撃する!短SAM、発射始め!」

橋本の高い声に、武が“FIRE”の表示を押す。

 後方のVLSから発射煙をあげつつ2発のESSMが打ち上げられていく。目標を捉えた2羽のスズメが、あざやかな動きで飛翔していく。

 「短SAM発射!命中まで30秒!」

徐々にレーダーディスプレイ上で光点が近づいてゆく。

「今…弾着!」

 2発のESSMは対艦ミサイルに突入する。だが、対艦ミサイルは回避機動でそれをすり抜けた。万事休す。

 それでも2羽のスズメは目標を逃がさなかった。近接信管を作動させ、高温の炎と爆風で対艦ミサイルを襲う。

“ゴオオオ…”

爆風で体勢を崩した対艦ミサイル。その先には海面が待っていた。

“ザバァ!”

 「反応消失!迎撃、成功です。」

「ふぅ。」

青葉の危機を救った武は一息ついた。

「ミサイル3、接近!」

「なっ!?」

武はあわてて諸元入力を始める。間に合うか…。

「レールガン、AA弾装填。発射用意。」

橋本が落ち着いた声で命令を下す。

「前部主砲、撃ち方用ー意。」

「方位1-9-5、仰角5度…発射準備よし。」

レーダーディスプレイ上の新たな光点がグングン近づいてくる。すでに20キロを切ったか。

「撃ち方始め。」

「主砲、撃ち方始め!」

 砲身のない独特の形をした電磁投射砲から、“ヒュウン!”というこれまた独特の音を出して、57mmの砲弾が飛んでゆく。

 砲弾は正確にミサイルを打ち抜いた。

『ミサイル1、撃墜!』

「そのまま残りを撃破。」

また“ヒュウン!”という音と共に、2発の砲弾が飛んでいく。電撃の衣を脱ぎながら、砲弾はミサイルに襲いかかる。

『ミサイル2、撃墜!迎撃成功!』

5km/sという圧倒的な初速を得た砲弾は、その正確さも恐ろしい。

「これがレールガン…か。」

「すごい…。」

精度に驚く武と千早。

「敵艦隊、反転します。進路2-0-0。」

「続いて対艦ミサイル用意。」

再び橋本が凛とした声を発したときだった。

『CIC、艦橋。戦闘を切り上げる。周囲を警戒せよ。』

追撃命令は出なかった。艦長大滝としての判断なのだろう。

「…了解。引き続き、周囲の警戒にあたります。」

橋本は声のトーンを下げ、返答した。


 結局、敵艦隊は再び島影へと消え姿を現すことはなかった。もう夕方だ。

 「また、僚艦を放り出してしまったな。」

艦長に定例の報告をしにいくと、こんなことを言われた。

「本艦が先頭でしたし、仕方がありません。それに僚艦が周囲の警戒をしていてくれたからこそ、本艦は眼前の艦との戦闘に集中できたわけでもありますし。」

「ふむ。そういう考え方もあるか。」

 大滝は以前、「操艦の神様」とまで言われた海軍きっての精鋭である。自分のみが先行してしまう、そんな大滝ならではの悩みであろう。

「ともあれ、ご苦労だったね。」

一礼すると、武は艦橋から下りていった。

 自分の部屋の前まで行ったところで、突然後ろから抱きつかれ目を塞がれた。

「だーれだっ♪」

どうせこんな行動をしてくるのは、青葉に270人もの乗員が乗っていようと一人しかいない。

「千早、なんだいきなり…。」

「もうっ、こんな美少女が声をかけてきたってのに無粋ねぇ…。」

あきれ返ったような千早。

「ただ会ったから声をかけただけなのに。スキンシップよスキンシップ。」

「どこに目を隠して「だーれだ♪」なんてスキンシップとるやつがいるんだ…。」

もう~と千早が武の背中をポコポコ叩いていると、

『総員、配置につけ。繰り返す、総員配置につけ。』

「な、なんだ?」

「なんなのよ…。」

愚痴をこぼしながらも、二人はCICへと走った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ