一六話、一泊二日のドライブ旅行
ベンガル湾での戦いから数日後、当初の予定を変更してマニラに寄港した巡洋艦青葉以下二隻。
巡洋艦青葉甲板
この日も、業務を終えた橋本は潮風に当たりながら体育座りをして、茫然と海を眺めていた。
「…」
「…隣、座りますよ。」
武は、一声掛けて橋本の隣にあぐらをかいて座る。
「…。」
「…。」
暫く、二人の間には会話がない。
「砲雷長。明日、一緒に陸に上がりませんか?」
「…私はいい。どうせ、私は休暇を取る資格は無い。」
「そうですか…。」
武は、ポケットからメモを取り出して橋本に渡す。
「砲雷長、艦長からメモを渡されました。」
「そうか…。」
橋本はメモを一読すると、立ち上がった。
「…。」
そして、そのまま艦橋へと入っていった。
「戻ってようかな。」
武も艦橋へと入っていった。
艦長室
「失礼します。」
「うむ。砲雷長、早速だが…」
大滝は机の引出しから用紙を取り出して、橋本に渡す。
「…まあ、一読してくれ。」
「艦長…。」
「これは命令だ。私なりの考えで…だ。」
「…了解しました。」
橋本は艦長室を退室した。
「…今度はお前の番だ。真田一曹…。」
翌日11:30・マニラ港
「今日明日の二日間、頼む。」
「はい。それに、今回は艦長から休暇を貰ったんですから堅苦しいことは無しですよ。」
「そうですよ~♪」
「…そうだな。」
武・千早・橋本はレンタカー(インプレッサ)に乗り込む。
三人は一泊二日のドライブを楽しむことになったのだ。
「しかし、艦長は粋なことをしてくれますね。」
「何がだ?」
「一泊二日のドライブ旅行…。国際免許はこの三人で私しか居ない。それに…」
丁度、峠の入り口に差し掛かった。
「俺、ステアリングホイールを握るとちょっと危険ですよ。」
武は三速から四速にシフトアップして、アクセルを踏み込む。
「…」
「…驚かないんですね。」
「…まあ、噂には聞いていたよ。」
橋本は、窓に寄り掛かって景色を眺める。
「だが、趣味が悪いな。走り屋が趣味とはな。」
「いえ。走るのが好きなだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。」
武はそう言ってカーブに突っ込んで行く。
「ただ…」
ヒール&トゥを使って四速から三速にシフトダウンし、カーブに対する切れ角以上にステアリングホイールを回す。
「…ちょっとばかり、クレイジーなだけです。」
そして直ぐ様逆方向にステアリングホイールを大きく切る。
「これがドリフトか…。中から見ると、綺麗だな。」
「そうですか…。」
「わ、私はまだ慣れない…。」
後ろに座っている千早は顔を少し蒼くしていた。
山頂
「はぁ~。」
山頂の駐車場に到着したが、千早は直ぐにドアを開いて外の空気を吸う。
「…。」
橋本は対照的に平然と降りた。
「武~私はここで休憩している~。」
ダウンした千早は、インプレッサの直ぐ隣にあるベンチにぐったりとなった。
「分かった。先に行ってる。」
武は仕方ないと、橋本を連れて山道を歩く。
「…。」
「…。」
武と橋本の間に会話が無く、黙々と山道を突き進む。
十分ほど歩いただろうか。開けた所に出て、武は歩みを止めた。
「…橋本さん。ここです。」
そして、武が指を指した方向を橋本がスーと振り向く。
「…これは…。」
そこには、自然の景色に混じって廃棄された兵器の残骸が見え隠れしていた。
「峯風時代のフィリピンに寄港した時、ドライブでここに立ち寄ったんですよ。」
「こんなところに…。」
橋本は柵に寄り掛かって見入っている。
「…俺達はまだ、こんな風になっちゃあいけないんですよ。」
「…。」
「俺達、巡洋艦青葉と青葉のクルーにしか出来ないことが沢山有ると思います。俺はそう思いますよ。橋本少佐…。」
「…。」
武は景色を背にして空を見上げる。
「…親父もこんなこと思っていたのかな?」
「…確か…」
「中学卒業前に亡くなりました。」
武は橋本が口にしようとした先を途切らせる。
「誰だって、こういうのは悲しい気持ちにはなります。ですが、それじゃあ駄目なんですよ。今を生き、前を向いて進めないと…顔向け出来ませんよ。」
「…。」
「…。」
武は、黙り込んでしまった橋本の後ろから優しく抱く。
「!?」
「後で処分は受けます…」
驚く橋本に断りを入れる。遅いと思うが…。
「私は、橋本さんの力になりたいと、あの日の夜に声を掛けようとしたんですよ。」
「…。」
「結局、千早が腕を掴んで顔を横に振ったので止めました。やっぱり、女性同士って分かるんですね…。」
「…うぅっ…。」
橋本は目を閉じて涙を堪えている。
「大丈夫ですよ。私はあなたに着いて行きますよ。何処までもね…。」
「…千早も同じか?」
「…ええ。あの日、確認しましたから。」
「そうか…そうか…。」
橋本は啜り泣きをした。そして、決意を固めたように静かに頷く。
数分後、千早が上がって来て景色を楽しみながら、千早自慢の弁当に舌鼓を打つ。
その後、三人は別の峠に移動して峠を〝攻めたり〟景色を眺めたりして楽しく時間を過ごしていた。
21:55・とあるホテルの一室
予約をしておいたホテルにチェックインした三人は、夕食を食べ終え風呂に入って部屋に戻っていた。
「今日は楽しかったですね。」
「私は辛かったけど…。」
千早は武の運転で、酔いはしないが恐怖心を煽られて、心臓が縮むような思いをしたのであろう。
「それよりも…」
「?」
橋本は目を閉じて後ろ方向に親指を立てる。千早はピンと来ないようだが…。
「…セミダブルベット一つだぞ?」
「あ…。」
「…どうする。」
千早はやっと気付き、武は頭を抱える。
「仕方ない。三人一緒に寝るぞ。」
「…え?マジっすか?」
「マジだ。」
「わぁ~い!」
目を点にする武とは対照的に、千早は嬉しそうだ。
22:00
「…おやすみなさい。」
何故か武を真ん中にして、右に千早で左に橋本が寝ていた。
「武…。」
「真田…。」
千早と橋本は、武に迫ってくる。まるで、肉食動物がジワジワと詰め寄るように…。
「…。」
武の体は、硬直して冷や汗が沢山だった。
「武…。」
「真田…。」
千早と橋本は、更に武に迫って体を密着させる。
そして、そのまま朝を迎え、海岸線沿いの道を走ってマニラ港へと戻る。




