1、 50年前の私
話は約、50年程前に遡る。
まだ妖怪というものを信じていなかった私が初めて妖怪という存在を認識する一週間前。
学校の放課後いつものグループの美琴と祥太に遊ばないかと誘われ、なら圭介も…と彼を誘いに行ったのが物語の始まりだった。
あの日も今日のように蒸し暑くどこからか風鈴の音が風と共に耳元を通り過ぎていくのを感じていた。
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「圭介!」
いつもの様に給食で残したパンを持って校門を出ようとしていた圭介の背中に声を掛けた。圭介は少しぎこちなく振り返って「なに?」とだけ言い、持っていたパンを背中に隠すように立っていた。
「今日さ、美琴と祥太が遊ぼうって。ほら、最近出来たデパートあったでしょ?みんなで行こうって話してて…圭介も行くよね?」
私達グループはいつも一緒で行動を共にしていた。でも中学校入学当初はなんの関わりもない他人状態だったんだけど中学1年の時、偶然にもみんな同じクラスで席もそれなりに近かったためお互い仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。
それから中学2生になりクラスも離れてしまった。でもこの関係は壊れる事もなく学校が終わるたびに遊んでいた。
そして今日は最近出来たデパートに行く事になった。ここは田舎で若者が好きそうなお店がなく、新しく出来た建物には大人も子供も興味深いのだ。
「行けない。」
そう言い放った圭介の言葉に戸惑い目を泳がせる。
「何か…用事があるの?」
圭介は私に背を向け街の外れにある山を見つめ少し間をあけてからぶっきらぼうに
「あいつが待ってるから…」
とだけ言った。
圭介が見ているあの山の奥には神社があり、給食で残したパンなどを圭介はお供えしているのだろうと特に気にはしていなかったけど
あそこには誰もいない。
動物でさえいないし、いるとすれば虫だけというほどだった。
そんな場所で圭介を待っている人などいるのだろうか?
そんな疑問を浮かばせ、圭介に尋ねてみた。
「誰が待ってるの?」
でも圭介は何も言わず立ち去ってしまった。
残された私はわけの分からぬままとりあえず美琴達に伝える事にし、また美琴達が待ってるクラスに戻った。