コンビネーション
天国から七色境へとやってきた藤堂和真は……
現在、この世界にいてはならない敵と戦っている。
目の前にいるのはクリエイターと呼ばれている怪物。
見た目は巨大蜥蜴。全長はおよそ五メートル。
特徴があるのは背中だろうか。
針のような鋭さを伴った銀色の突起が無数あり、それが尻尾の先まで続いている。
「グギャアアアアアアア」
耳を押さえたくなるほどの雄叫びを上げる巨大蜥蜴。
巨大蜥蜴の脚部からは緑色の液体が流れている。
(……やっと本気になりやがったか)
その雄叫びを聞いて、姿勢を整える和真
そして和真が右足を動かした瞬間―――
「ガアアアアア」
巨大蜥蜴が怒りに任せて尻尾を振り上げてきた。
「くっ……こっちか!?」
和真は瞬時に判断し、左側へ跳ぼうとするが―――
『左はダメです。右に跳んでください』
和真の右手に握っている白銀の剣――ユイの警告により、和真は咄嗟に反転。
右へ跳ぶ。
ドゴォォォン
巨大蜥蜴の渾身の一撃により、和真の左側数メートル先に大きなクレーターができた。
砂埃が舞い上がり、巨大蜥蜴の姿が見えなくなる。
(ここは行くべきか……?)
もうもうと舞い上がる砂埃に、和真は攻めるか否かを迷っていると……
「グガアアアア」
本来当たるはずだった攻撃を回避されたことにより、巨大蜥蜴が怒り狂った声を上げた。
(よし、今なら行ける……!)
和真はそれを聞いて、瞬時に駆け出した。
(冷静さを失っている今なら―――)
『ちょっと待ってください、カズマ』
キキキキッ。
ユイの声に和真は急ブレーキ。
(……おいおい、今がチャンスだろ)
せっかくのチャンスを潰されたため、胸中でユイに不満を訴えると、
『いえ、あれは罠です』
(……罠? どう見ても体勢を崩しているようにしか―――)
バシンッ
「うお!?」
ユイの言う通り、和真の数メートル手前で巨大蜥蜴の舌が鞭のように振るわれた。
巨大蜥蜴が、和真が突っ込んでくると予想して攻撃したのだ。
どうやら怒り狂って冷静さを失っているように見せたのは巨大蜥蜴の作戦だったらしい。
(ふぅ……助かったぜ)
和真が攻撃を受けなかったことに安堵していると、
『……カズマ、これからですよ』
バシン、バシン。
バシン、バシン。
巨大蜥蜴が続けて長い舌を鞭のように扱ってきた。紫色の舌が地面を抉り続ける。
どうやら脚部の傷が回復するまで和真に攻撃をさせないつもりらしい。
「厄介だなこれは……」
巨大蜥蜴の行動を見て、和真は小さな舌打ちをする。
まるで隙がない。防御も兼ね備えた攻撃に和真は攻めあぐねてしまう。
(これじゃあ【神速剣舞】が使えない……)
巨大蜥蜴の脚部を切裂いた時に扱った【神速剣舞】は和真の十八番。
この剣技は瞬時に移動して敵の脚部を切裂くものだ。
速度こそ最大の武器だが、軌道が一直線という問題点がある。
だから今行われている奴の攻撃にこれは使えない。こちらの攻撃が届く前に舌で弾き飛ばされてしまうだろう。
(どうする。どうすれば……)
和真はどうやって攻めたものかと思案する。
あの攻撃を躱しながら接近するためには、巨大蜥蜴の攻撃パターンを読まなければならないだろう。もちろん、攻撃を受け流しながら懐に入るという方法もあるが……
(さすがに受け流すのは危険だよな……)
巨大蜥蜴の攻撃の威力を見て、和真は考え直す。
『カズマ、あと三分ほどで回復してしまいますよ』
(あぁ、それまでに何とかしないといけないよな……)
クリエイターの回復力は凄まじい。
ユイの言う通り、あと三分もすれば脚部にある傷が塞がってしまうだろう。
せっかくダメージを与えたのに完全に回復されたら堪らない。だからすぐさま攻め立てて、巨大蜥蜴の動きが鈍いうちに屠りたいところだが……
(ユイ、何かいい方法はないか?)
『そうですね……あのクリエイターの舌を切裂くのはどうでしょうか』
(奴の舌を切裂く……か。別に不可能ではないが―――)
ユイのアドバイスを聞いて、和真は巨大蜥蜴の舌捌きを見る。
バシン、バシン。
バシン、バシン。
右、左下。
前方、右下。
様々な方向へ向けて紫色の舌は放たれ―――その度に地面が抉れ、砂埃が舞っている。
和真は数秒間、巨大蜥蜴の行動を見続けるが……
「………ちっ」
全く規則性を見つけられなかった。
和真に読まれないように巨大蜥蜴が行動しているのだ。
(時間がないな……ユイ、奴の心を読んでくれ)
『わかりました。……右、斜め右上―――その次、前方です』
澄んだ声が和真の脳に響き渡る。
和真はユイの言葉を聴きながら巨大蜥蜴の行動を見て……
バシン、バシン―――今だ!
右、斜め右上……ユイの言葉通りに振るわれた舌を見た後、和真は一気に駆け出した。
『着地点は五メートル先です』
キキキキッ。
寸前で急ブレーキをかけ、ギリギリのところで巨大蜥蜴の攻撃を躱し―――
「はあっ!」
舌が引き戻される寸前に横一閃。
ぶしゃぁっ……と、気持ちの悪い音が鳴り、紫色の舌が地面を転がった。
「ギュゥアアアアア」
悲痛な声を上げる巨大蜥蜴。
和真はそれを聞き流しながら体勢を立て直す。
『チャンスです。押し切りましょう』
(あぁ、わかってる!)
巨大蜥蜴が怯んでいるのを見逃さず、和真はすぐさま巨大蜥蜴の懐へ飛び込んだ。