#17.羽遊
行き着いたのは変わらぬ日常。
オレは転落畤羽遊。15歳だ。
オレはよく転ぶ。しかも、みんなの前で。
しかしそれは――昔の話。
オレは最近、転ばなくなった。
地盤が不安定だと、人は転ぶ。
凹凸。邪魔な物。ときには、何もないところ。自分の足。
でも、それ。実際に不安定なのは、俺達の心の方だって、この前気付いたんだ。
心が不安定だと、体もふらふら。ゆらゆらしていると、転ぶ。
目的がない人は、人生で転んでばかり。
目的を実行する勇気がない人は、人生で道を踏み外してばかり。
でも―――俺はもう、転ばない。
なぜかって?
「約束したからだよ、あいつと。」
人生を楽しむってさ。
なあ、絵眠。
「早く学校行きなさいよー!」
台所から聞こえてくる母さんの声。いつもと変わらない朝。
だるかったやりとりが、楽しく思えてくる。
「起きるのは早くなったのにこれだからあんたは…早くしなさい!」
「こえーって…」
……そういえば俺、起き上がったときになぜか崎原センターじゃなくて自分の家に居たんだよな。
父さんや母さんに聞いたら、崎原センターに入院してたらしいんだけど。
「もうアンタ、退院2日目でしょ」って言われたし。どういうことだ!?
しかもそこから家に帰ってくる間、意識もちゃんとあったみたいだし。でも、覚えてないもんはないんだよな。
ま、いいか。
「行ってきまーす!!」
「やけに元気ね、羽遊。なんかあったの?」
「人生、楽しまなきゃいけないだろ?だからだよ!じゃ行ってきます」
「全く…事故には気を付けるのよー!」
「分かってる。大丈夫だって!」
家を出て、
羽遊は、学校へ向かった。
「よし。今日もいい天気。」
上を向いて歩いても、ほら、転ばない。
さて。楽しもうか、人生。
踏み出した足には、確かに力が宿っていて―――
「待ってるからね、羽遊君」
声が聞こえた、気がした。
――憑いてきてくれてんのか?
「……聞こえたよ。」
返事は帰ってこなかった。
「……………。」
絵眠、聞いてたら聞いてくれ。
人生は――平等だったよ。
あ、あともう一つ言いたいことがあるんだけどさ…
それは俺がそっちに行ってからにしてくれ。恥ずかしいし。
いや…言おうか。
「俺は、君が――――――。」
『主人公は植物人間』…END.
生き憑いたのは待たせてる人。