#16.楽しかったな
たとえ きえても それまでは。
「渡さないよ〜?この体は僕のものだからね〜」
口調がむかつく。
「黙りな・・死なない内にその体から出ろ、歪魂。」
それでも慈悲を与えるのが天使だ…。
「やだよ〜。せっかーく手に入れた肉体だもん。僕はこいつの体で、新たな人生をエンジョイするんだも〜ん。」
全く、むしずが走る。
天使は羽遊の部屋で、羽遊と対峙していた。
実際にはこいつは、羽遊の体に入り込んだ邪な魂…『歪魂ユガミタマ』という、帰る場所を失った魂だ。
普通霊は自分の体にしか入れない。入れ物と魂の形が合わないからだ。…が、こいつならそれが可能。
魂の形が歪みきり、原型を保っていないため…どんな入れ物にも対応できる魂。
腐った水の様な存在。
「もう言い残したことはないか?俺にも時間がない。死ぬ前に語れ。1分くれてやる。」
いまだに、肩に担いだ植物人間は意識を取り戻さない。
早くしなければ意識の限界を越えて、消滅してしまうかもしれない。それに……罪を犯した天使を捕まえようとする天使の一群も、近くまで来ていた。
俺の空間認識はかなりのものだから間違いない。
「言い残したこととかふざけないでよな〜。知ってるよ〜?天使は勝手に人から魂を引き剥がしたり、魂を殺しちゃいけないんだろ〜?バカも休みやすみ」
「1分…過ぎたな」
―――瞬速で近付き、肉体から魂を引き剥がす。
「言いなってえええ〜!?」
空いた肉体に本当の魂…転落畤羽遊の魂を詰める。
これでとりあえずは成功。
「てめぇ〜!?なになに!?ど〜ゆうこと!?そんなことできるはずが」
「黙って消えろ屑」
どうせだからこいつも。
歪魂に手を添え、握り潰して霧散させる。
「〜〜!!」
断末魔を上げる暇もなく…歪魂は消えた。
「ああ、楽しいな。楽しいぜ。」
そう、呟く。嘘偽りは無い。
「お前は、ちゃんと…生きるんだぜ?植物人間。」
なに、俺も楽しかったから、心配すんな。
「―――そこまでだ、No154。」
羽遊の部屋のドアが開いた。追っ手の皆さまが、どうやら到着したようだ。
「おお、来た。速いねぇ、さすが大天使」
天使をまとめる存在、大天使…しかも15人か。ああ楽しい。逃げ場ねぇ。
その中でも目立つ金色の羽――最高権限の大天使、が俺に問いてきた。
「血迷ったな、No154よ。信頼できる部下を一人失って誠に遺憾だ。お前は今から消えることになるが……覚悟は?」
「ああ、できたぜ?」
当たり前のように、俺は答える。そして、叫ぶ。
「お前らを倒して………生き延びてやるよ!」
「……そうか」
叫んだときには俺の存在はなかったかもしれない。
でも、やりたいことは終えた。
「じゃあな…」
死ぬんじゃねぇぞ植物人間。
俺の分も背負わせてやるから、
絶対………転ぶな!
「No154、削除完了。しかしすでに罪人は天国と現実へ。もう戻せません、神よ。」
楽しかったな、本当よ。