#15.心
傷の痛みは感じない。だけどそれでも痛いんだ。
「お、No154じゃねーか。元気してたか?誰だ、そこで倒れてるやつ…ってお前怪我してんじゃねーか!誰にやられた!?」
「こいつにだ。…ってかNo149お前見てただろ。俺の空間認識なめてんのかよ、死ね」
「あちゃー、バレてたのな。じゃあさっきまでNo168が居たのもバレてんのか?」
「当たり前だ。全く…少しは仕事しろ、おめぇら」
「ところで………『どうするつもり』だ?」
「いきなり質問するなよ…だからてめぇは天使に向いてねぇんだ」
「それとこれとは話が別。俺が聞きたいのはこいつの後始末。………大体お前、【なんで天使会合なんて嘘をついた】んだ?天使会合は2時間後だろ?」
「………別に。トイレ行ってただけだ。」
「もう一つ。【蟹山絵眠になぜ送り羽をつけた】んだ?『送り羽』は、罪人を許して天国に送る浄化の羽だろ?使用許可はおりてねぇはずだけど。」
「……関係ねぇだろ」
「関係あるな。お前は、そこにいる植物人間の手助けをしてるようにしか見えない。No154お前…神様を誤魔化そうってんじゃねぇだ」
「俺は…こいつに負けたんだよ」
「はぁ?さっきのはどう見ても…」
「確かに俺は、いや俺達天使は痛みを感じない。…だがそれは体にだ。」
「………」
「俺は心に傷をつけられた。」
そう。
あの二人に初めて出会ったときからずっと、イライラが止まらなかった。
こいつらが楽しそうだったから。それを壊そうとする自分にイライラしていた。
でも、神様には逆らえない。
だけど壊すたび、
壊すたび、俺の心の方がダメージを受けていく。
本当に正しいのは――どっちなんだ?
「俺の信念はこいつに負けたんだ。ズタズタにやられた。砕かれた。だから俺はこいつに…報酬を与える」
「おい、待てよ、それって!?」
転落畤羽遊を肩に担ぐ。わりと重い気がしたが、俺が支えきれてないだけだろう。
「そいつを生き返らすなんてことしたらお前!神様に殺されちまうぞ!」
天使はただ、裁くだけの存在でいなければならない。
だが、疲れた。
疲れたから、もうやめる。
「悪いな、No149。神様に伝えといてくれ…【心をくれてありがとう。】ってよ。」
「おい!!」
「じゃあな」
天使No154は、No149に別れを告げると、走り出した。
夜の町。
今、こいつ――転落畤羽遊の体は――っと。
「…………。」
空間認識を働かせ、転落畤羽遊の体を探す。見つけた……ん?動いてるだと?まさか……おいおい厄介。また、つくづく運のない奴だなこいつも。
もう一つ仕事が増えたか。
まぁ、一つや二つ罪が増えたところでなんでもないけどよ。
なんでもない。
「……楽しい、ってのはこれか?植物人間。」
天使は“転落畤家”へと方向を変え、走り始めた。