#14.意識
負けるまで敗けじゃない。
天使に与えられたものは2つ。
人を裁く知識と、人を見極める心だけ。
「痛みなんてものは無いんだ、俺は。残念だったな、植物人間…」頬が腫れている天使が、地面に倒れている羽遊に語りかける。
まるで死んでいるかのように、そいつは動かなかった。
「―――だが、お前の…勝ちだ。」
そう、天使が呟いた。
羽遊は覚えていた。天使は今まで一度たりとも、
背後以外からの攻撃をしていないことを。
おそらくそれは、奴のスピードの恐るべき速さ故のもの。思えば、最初に現れたときも。そして今も、必ず背後に天使はいた。
「…人間ってのはバカだよな。勝ち目のない戦いでも、思いが勝てば勝てるとか幻想を抱いてよ。力の差は絶対だって…いうのにな!」
ということは……この戦いの始まり方は、きっと………
「そこだぁぁ!」
天使が視界から消える、と同時に羽遊は、
真後ろに向き直って拳を振り上げた。
そしてそこには天使が、
いなかった。
「だからな?お前の考えは俺に…突き抜けなんだよ。」
そう、だった。浅はかだった。
俺の心は。考えてることは全て、奴に読み取られているんだった。
で、当たり前のように背後から俺に攻撃してきた。
振り向いた俺の背後、
つまり元々正面だった方から。
「開始5秒KO。カウントはいらねぇよな、神様。だから止めろっていったのに。」
俺は
崩れ
落ちる。
…なるほど、「天使は最強。どんなに頑張っても勝てない」か。
分かってたけど、それでも“可能性ゼロ”かよ。
現実は悲しいや。ああ、痛てぇ。痛い。
…………でも。
…………でも、
その現実を楽しむために、
生き返ろうとしてるもんでね。
「まだ…あきらめねぇ!!」
………と、そこで、
俺は意識をどこかへ飛ばした。
「……………勝つ」
「!?」
うっすら。うっすら思考が浮かぶ。
立ち上がった俺の目の前で天使が驚いている。
そりゃ、そうだ。あいつは俺の心も行動も読めないだろ。
だって俺は多分 無意識 だし。
「……………勝つ」
俺は天使に。
「薄気味悪いぜ、植物人間…」
「……………俺は生き返る。お前を倒して。」
俺は天使に近付いていく。
「一体どうしてそんなに必死になれる?俺にはとんと見当がつかないんだがな」
「約束……したから。あいつと」
俺は天使に近付いていく。
誰かに押されるように。
「恐ろしいぜ、今のお前。何かが横に憑いてるみたい」
「約束……したんだ」
「!」
天使はそこまで言って気付いた。
こいつの横に、いや後ろには…確かに。
見覚えのある影がついている。
「背負ったわけだな」
「ああ」
「……俺を倒す自信は?」
「ああ」
「答えになってねーな。」
「ああ」
「話しても無駄か。…来な!」
「……………ああ!」
俺は思いっきり力を込めて、天使を殴った。
なぜか、天使は避けなかった。
「…………勝った…」
と、ここで…飛んでた意識が暗転した。
起き上がると、そこは…
「おはよう、羽遊」
自分のベッドの上。