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うつせみ血風録  作者: 三畳紀
急ノ段
21/21

おまけ 人物一覧

 本筋の補足と要約を兼ねた人物一覧表、ネタバレ要素を含むので本編を読了していない方は注意。

主要人物


来栖託人くるすたくと:人間とウツセミの社会の調和を保ち、その均衡を崩す恐れのある御門の街に出没した吸血鬼の駆除を請け負っているウワバミの少年。16歳、御門市内の公立校くいな橋高校の1年に在籍中。

 遠い祖先が吸血鬼を追って来日した西洋人のエクソシストであり、彫りの深い顔立ちと長身で恵まれた体躯をしている。しかし陰影を濃く刻む顔立ちは端整というよりも威圧的な凄味を与えることが多く、粗暴な言動も合わせて同級生から敬遠され、街を歩けば不良に因縁をつけられる原因となっている。

 吸血鬼の監視、追撃が主となるウワバミとしての活動は当然夜間が中心になるため、慢性的な寝不足であり遅刻と居眠りの常習犯である上、特徴的な容姿で絡まれた不良との喧嘩が絶えないため問題児として生徒指導の教員たちから目をつけられている。

 しかしウワバミとしての仕事に誇りを持って取り組み、自分の信じたポリシーは貫き通す筋の通った剛毅な性格をしていて、ウツセミの有力者たちや下宿先の家長である斎からも信用されている。また不器用ながらも他人への思いやりや施された恩に応えようとする義理堅い面も持ち合わせていて、奥底にあるその人柄に丹や葵は好感を抱いている。

 特に丹とは幼少期から数奇な縁で繋がっており、ウワバミの立場だけでなく個人的な感情からも気にかけていて、丹の精気の渇きを癒すために自分の生き血を与えている。『血風録』とその前日譚『たゆたう』を通して、来栖にとって丹が何にも換えがたい存在になっていく過程が個人的には『うつせみシリーズ』の見所の一つ。

 ウワバミの任務でウツセミやナレノハテとの交戦する時は目標から距離を取り、剣気を拡散状態で放つ撥で牽制しつつ、剣気を一点に集束させて威力を高めた斂で仕留めるスタイルを基本としている。これは運動能力や肉体の頑健さで人間を凌駕する吸血鬼との取っ組み合いが不利であるためであり、対象を始末する確率を上げるための吸血鬼への正攻法である。しかし素手や武器を用いた格闘戦の鍛錬も充分に積んでおり、相手が人間ならば大抵の場合殴り合いでも遅れをとることはない。

 作中の序盤までは上記の戦闘スタイルで敵を退けてきたが、紫水小路の有力なウツセミに匹敵する力を持った他所から流れてきたウツセミ義仲や剣気と同質の能力である聖火を用いるハライソの使徒との戦闘を経て自分の剣気に力不足を感じるようになり、ハライソ最強の使徒天連の前にとうとう敗れ去ってしまう。

 しかし『たゆたう』で丹がウツセミに転化することになった一連の騒動や、彼女の家に居候してから交流を重ねたことで、丹との間に深い絆を結ぶことができ、互いに相手を思いあう情愛によって剣気の出力を高める奥義、合を会得する。合で増幅された剣気の色は通常の青白いものから紫に変化し、撥の状態で強力なウツセミである常時や平輔にダメージを与え、制御は難しくなったものの斂は一撃で彼らを葬り去るほどの威力となった。

 人物像を一言で表すと正義のツッパリ、80年代の少年漫画の主人公っぽいパーソナリティで造詣しました。もともと来栖は『うつせみシリーズ』の主人公ではなくネタ的な意味で吸血鬼よりも強い人間、丹の高校の番長でニンニクを使ったスープが売りのラーメン屋でバイトしており体に染み付いたニンニク臭と気合で吸血鬼を素手で叩きのめすというコメディーリリーフでした(笑)

しかし丹がウツセミに転化する過程を描いた『たゆたう』の設定を煮詰めているうちに割とシリアスな扱いで吸血鬼に対抗できる人間になっていき、当時は剣気と銘打っていなかった能力を発動させて吸血鬼を倒すたびに背中に小さな十字の傷を負って最終的に背中が十字の傷で埋め尽くされると失血死してしまうというほど重いキャラクターになってしまいました(汗)

 それではあまりにも重過ぎると感じたので、街の闇に吸血鬼が潜んでいることを知りながら彼らを無闇に駆逐しようとせず、人間と吸血鬼の棲み分けを図りながら平凡な日常を守っていくという現行のウワバミの責務を担ったキャラクターに落ち着きました。

 学園を舞台にしたファンタジーの主人公として典型的な要素ばかりですが、強いて特徴的な部分を挙げるのならば人間のために同胞と戦う吸血鬼は多くても、吸血鬼のために人間と戦う人間っていう所にあるでしょう。それが特別売りになっている訳ではないんですが……

 イメージカラーは人間とウツセミという陰陽の両極にある存在を結びつけるものということで灰色、来栖自身は人間なので白っぽい灰色を考えています。

 名前の元は『たゆたう』でも書いた通り『十字架を背負う人』で、『血風録』では来栖の背負っている十字架の重さを念入りに描いたつもりです。地の文の表記や作中においても託人と呼ばれることが少なく、霧島姉妹からはクーくんと言われているところに少々哀愁を感じております(笑)

もうちょっとクールで口数が少ない性格にしたかったのですが、粗野な熱血漢として描いた来栖もなかなか面白いキャラクターでした。来栖をコメディーリリーフから主役に昇華させてよかったと自負しております。


霧島丹きりしままこと:来栖と行動を共にするウツセミの少女。二ヶ月ほど前に巻き込まれた事件が原因でウツセミに転化させられたばかりなので、実際も外見通りの女子高生である。来栖とは高校だけでなく小学校入学時もクラスメイトであり、幼少期の渾名であるクーくんと彼のことを呼ぶ。

 10年近く前にウツセミに転化してしまったため現世を離れて紫水小路に留まらなければならなくなった母親の紅子に代わり家事を一手に引き受けているため、言動が所帯じみており身嗜みにもほとんど時間がかけられずに登校しているせいで野暮ったい印象を持たれているが、きちんとした身なりをすればお約束の美少女である。

 短くしている髪の癖は強く、髪のセットに時間を裂けない事もあって乱れていることが多いが、動きのあるボリュームを出したスタイルとしてクラスメイトたちには好意的に認識されている。本人は若干コンプレックスに感じているが170cmほどある比較的長身の手足はすらりと長く伸び、体の線の起伏もはっきりしていてスタイルもよく、妹の葵は密かに自分の未成熟な体型と比較して憧れを抱いている。

 来栖が主人公なら丹は『うつせみシリーズ』を通してのメインヒロインであり、前作『たゆたう』がかなりの部分丹の視点で語られていたが、群像劇となった『血風録』では出番は控えめである。また現世で生活するために背中に刻んだ烙印の影響で昼の日差しから受ける影響を軽減できた代償としてウツセミとしての身体能力が低下し、人間並みの運動能力しか持たないことから戦闘能力は極めて低く殺陣がこなせないことも、比較的戦闘シーンの多い『血風録』での出番の現象に繋がった……結果的に来栖の切り札となった合体技、合の登場は丹のヒロインとしてのスポットライトを浴びせるためのテコ入れとなった。

 かなりのお人好しで押しが弱く、加えて甘さの目立つ性格だが、大切な存在のためならば自分が危険に曝されることも厭わない度胸も併せ持つ。窮地に陥った時によくも悪くも思い切りのいい性格で、危うく感じつつも丹の大胆さに救われていることを来栖も認めている。

 長年続けている甲斐あって丹が作る料理の味は上手いが、おっとりとした性格が足を引いて仕事にできるほどの手際のよさはない。要領はあまりよくないが、動作の反復による慣れで作業効率を上げていく努力家であり、家事の切り盛りも長年の経験に基づくもの。

 人物像を一言で表すとネンネちゃん、人間よりも弱く不甲斐ない吸血鬼というコンセプトで造形したキャラクター。本来『うつせみシリーズ』は丹を主役にしたコメディーを予定していましたが、丹がウツセミに転化するプロセスや紅子が失踪した事件を考えているうちにシリアスな雰囲気になってしまいました……しかし来栖が大幅な設定改変を施したこととは対照的に、丹は初期案からほとんど変更せずに登場させることができ、人間関係もあまり悩まず決めることができました。

 イメージカラーは名前に因んでチャイニーズレッド、神社の鳥居の朱色が風景に際立つような存在感を読者の方に持ってもらえたことを望んでおります。

 名前の由来は『切支丹』ですが、実をいうとこれは後付でもともと丹の苗字は霧島ではありませんでした。丹という名前を先に決めて一旦別の苗字をつけた後、語呂合わせで現在の霧島に変えました。

 正直強面の来栖を年甲斐もなくクーくんと呼ぶのはどうかと作者も思いますが、丹自身は親しみを込める以上の意図は持っていない天然と思っていただければ幸いです。



主要登場人物の家族


霧島葵きりしまあおい:丹の妹、芳志社女学院中等部2年。顔立ちは姉と同じく母親似だが、攻撃的な性格を反映して姉よりも活発で勝気な印象を覚える。丹とは対照的に小柄で年齢の割には未成熟な体型をしており、牛乳を愛飲して成長を促進しようとしているが成果はあまり見られない。髪の色は薄く茶色がかっているが、脱色や染髪している訳ではなく地毛である。

 姉の丹に一切の家事を押し付け、忙しい朝も自分の身嗜みを整えるのに充分な時間をかけており、姉と比べて社交的な性格のため外面はいい。丹のことを体のいい家政婦代わりにこき使っているが、内心では幼少期に失踪した母親の代わりとして彼女のことを慕っており好意を素直に表現できないだけである。

 突然失踪していた母が姿を現したり、丹の同級生というきな臭い空気を纏った男が居候したりするという状況に不満を募らせていて、作中でその鬱積を爆発させて家出や隠し事をしている姉や父親に当り散らすなど荒んだ状態に陥る。しかし姉と母親が吸血鬼に転化したという真相を明かされ、吸血鬼を殲滅しようとするハライソの襲撃に巻き込まれた経験を通し、人でなくなってしまっても彼女たちが自分の家族であることには変わりないと理解して精神的な安定を得る。

 ハライソの追撃を避けるために避難した紫水小路で、ウツセミに育てられている幼女蘇芳のベビーシッターを受ける破目になり、次第に蘇芳のことを妹のように思い始める。丹があれこれ身の回りのことをやってくれていたせいで分からなかったが、意外と葵自身も世話好きな性格である。

 人物像を一言で表すとツンデレに尽きます(笑) 初期設定では存在しませんでしたが、霧島家の日常を描く上で斎や丹との掛け合いにスパイスを加える役割を担って次第に重宝するようになり、『血風録』では序盤のサブヒロインという立場にまで出世した娘。動きがコミカルで感情を剥き出しに出来る分、肩の力を抜いて書けるキャラクターでした。丹を清純派ヒロインとして扱った分、葵はいじりやすく個人的には書いていて楽しいキャラクターでした。

 イメージカラーはターコイズブルー、明るく華やかそれでいて優しさも感じられるところを葵の性格になぞらえています。


霧島紅子きりしまべにこ:霧島姉妹の母親で斎の妻であるウツセミ。二十代後半でウツセミに転化しており、現在も若々しい容姿を保っている。背中に届く髪の先が膨らんでおり、おっとりした雰囲気をしている癒し系の美女。

 彼女の娘たちは母親の似の容姿をしているが、特に丹は顔立ちだけでなく立ち居振る舞いも似ている。二十代の容姿を留めているため、丹と並ぶと歳の離れた姉妹に見える。

 紅子自身の落ち度はないものの、ウツセミに転化して紫水小路での暮らしを余儀なくされたために家を空けてしまったことを負い目に感じていたが、丹がウツセミに転化した事件を通して約10年ぶりに家族と再会を果たし、関係を修復しつつある。

 全編を通して登場頻度は高くないが、彼女の失踪が丹たちに与えた影響は大きく物語の展開を語る上で欠かせないキャラクターの1人。紅子が失踪しなければ丹が来栖と片親同士という共感を抱かず彼と親密になることもなかっただろうし、高校に進学して来栖と再会しナレノハテやウツセミの存在を知っても深入りすることはなかったはずである。

 紅子がウツセミに転化した原因は、約10年前に同胞を現世へ連れ出すことを画策し、体制に反旗を翻したとして粛清されかかった平輔が現世に逃れた際、左腕を切り落とされたことで失った精気を補うために血を吸われ瀕死の状態に陥ったことによる。平輔に襲われた紅子を延命することで彼の足取りを追う手懸かりを掴もうとした源司によって紫水小路に連れ去られるが、その場面を目撃した丹は源司が母親を攫った犯人と誤解した。

 人物像を一言で表すとやや心配性な天然気味の奥さん。イメージカラーは薄紅色、優しい色合いで彼女の人格をイメージ。丹と紅子、それに斎の3人は初期設定からあまり変更せずに登場させており、霧島一家のイメージは初めからかなり固まっていました。ただし初期案では紅子は家事能力皆無の、天然でドジなお母さんでしたが(汗) 現行の設定では人並み程度に家事はこなせることになっています。


霧島斎きりしまいつき:霧島姉妹の父親、結婚して20年近くになる今も妻の紅子に首っ丈。昔気質の真面目実直な性格で妻が不在でも娘たちを厳しく育てているが、妻の若い頃によく似た丹には若干甘く、強情な性格が共通している次女の葵にはことあるごとに反発されている。しかし娘たちを思う気持ちに偽りはなく、紅子を追って紫水小路に迷い込んだ丹が行方不明になった時には彼女の失踪の原因を作った疑惑をかけられた来栖を問答無用で殴り倒し、葵が家出した時は汗みずくになって近所を探し回った。そんな姉妹も父親を信頼しており、母親がいないことを除けば家庭環境に深刻な問題はない。

 人物像を一言で表すと堅物の愛妻家、反感は抱いても尊敬も出来るいい父親。イメージカラーは中年の男の象徴である燻し銀(笑)

 斎は良識的な人物として設定しているが、葵との親子喧嘩はコミカルに描いており、奇跡的な再会を果たした妻の紅子にはベタ惚れであり甘い顔をする。恋人から夫婦になり、突然の離別を経てまた恋人に戻ったというサイクルを辿らせており、現在の紅子との付き合いは夫婦というよりも恋人気分に近い。

 来栖と丹は血を与える際に交感を覚えるだけで一応プラトニックな関係だが、作中では言及していないものの斎は紅子に自分の血を吸わせる際に肌を重ねて夫婦の営みもしています(笑)


先代 / 来栖護通くるすもりみち:御門市北部に聳える鞍田山の山中に隠居している来栖の母方の祖父。来栖の前にウワバミの職務に当たっていた人物で、母親を亡くした来栖を引き取りウワバミの後継者としての修行を積ませた。

 来栖は先代の若い頃と瓜二つであり、当時を知るウツセミたちは来栖に先代の姿を重ねて彼に比類する成果を求めている。

 歴代のウワバミの中で最も親しくウツセミと関わった人物であり、ウワバミとしての卓越した能力に加えて人間と同じようにウツセミと接する人柄から源司や平輔といった有力者からも畏敬の念を持たれていた。

 また朱美と恋仲だったこともあり、その頃互いに想い合うことで剣気を限界以上に増幅する合を編み出した。人間の妻を娶ってからも朱美とは円満な関係を続けており、族長の座を退いた彼女は余生を妻を亡くした先代と共に現世で過ごそうとしてその背に烙印を刻むほどだった。

 ウツセミからの人望は厚かった一方で来栖の母で実の娘である都とは、ウワバミの責務に邁進したことが原因で擦れ違いが続いていた。疎遠だった娘が孫を連れて鞍田山に顔を見せてくれたことを非常に喜んだ出来事は、滅多に笑わない彼の笑顔として平輔の記憶に刻まれている。

一言で人物像を表現すると頑固爺。イメージカラーは濃い灰色、人生の甘いも辛いも知り尽くして老成した人格を表しています。

名前の由来は大切なものを『護り通す』ことですが、関係がぎこちなくても愛していた娘やその恋人を結果として守れなかったという皮肉が発想のきっかけです(汗) 機会があれば先代の全盛期の頃、平輔や朱美と親しく関わっていた短編を書いてみたいなと思っております。


来栖都くるすみやこ:来栖の母親で先代の1人娘。婚約していた恋人弓弦をナレノハテに殺害された後、彼との間に出来た子どもを看護師として働きながら女手ひとつで育てていた。しかし息子の来栖が小学校に入学した年の夏に、過労が祟って急逝してしまう。

 作中では故人として語られるだけであり名前を決める必要もありませんでしたが、来栖の背景を詰める目的と作品舞台のモデルである京都にちなんで都と名付けました。

 多分葵に似た勝気で活発な、けれどどこか肉親の愛情を求める寂しさを抱えたキャラクターではないかと思っております。


赤城弓弦あかぎゆずる:来栖の生物学上の父親で、先代と親交のあった丸和町にある赤城医院の院長の次男。真理亜の親戚のくいな橋高校の保険医紗英子は弓弦の兄の娘にあたり、血縁上彼女の叔父になる。

 縁談を勧められていた女性を袖にして父の病院で働いている都と婚約したが、鞍田山の先代に挨拶をしにいった帰りにナレノハテに襲われ帰らぬ人となる。

 赤城家は執筆中に構想に浮かんだ家で、弓弦の肩書きや名前は登場する回の執筆直前までありませんでした(汗) 恋人の都ともどもおさなりな扱いになっていますが、その分彼らの息子は全編に渡って大暴れしています。

 おそらく粗暴な息子とは似ても似つかない、温厚な好青年だったことでしょう。



代永よなが氏族とその関係者 :代永は夜長にちなんだ氏族名。


源司げんじ:代永氏族の族長を務めるウツセミ。上質のスーツを粋に着崩して、髪を動きのあるスタイルにセットしているホスト風の美青年。

 約10年前、丹の前から紅子を攫っていった誘拐犯としてその端整な容姿と共に記憶されていたが、実際は紅子を延命させるためにやむなくウツセミの掟を破っただけで害意はなかった。また丹を平穏に暮らさせようとウツセミや紫水小路に関することをはぐらかそうとしたこともあり、ウツセミとなって母親の失踪の真相を知った今も丹は源司にあまりいい印象を抱いていない。

 何でもそつなくこなし族長の職務も円滑に行っているが、器用貧乏で誤解を招きやすい性格をしており、案外トラブルを抱え込みやすい。また同期で自分よりも有能だった平輔に強いコンプレックスを持っており、自分が族長である事に疑問を抱くような愚痴を零すこともある。

 ウツセミとしての特殊能力は千里眼。半径2kmほどの広さである紫水小路の中ならば隈なく見通せるほど効果範囲は広いが、自分よりも格上のウツセミには探査をジャミングされてしまって動きが正確には見通せない。このため平輔や常時を現世に取り逃がしてしまう失態を犯している。

前日譚である『たゆたう』から核心を握っている人物のように描写されているが、見通しの甘さのせいでイレギュラーな事態に振り回され続け、天連や平輔相手に善戦はしても勝利は収められないことからあまり威厳は感じられない。むしろ器用に立ち回っているつもりで結構気苦労をしているような面が見られる。

一言で表すと意外と真面目なチャラ男。イメージカラーの白は堅気でない人の着用するスーツにちなんだほか、源平合戦の源氏の旗にちなんでおります。

名前の由来は稀代のプレイボーイ光源氏にちなんでいますが、作中で源司が女性をまともに口説いている場面は見られません(汗) 軽薄な格好や整った容姿をしているけれど本当は奥手…ってことはさすがにないはずです(笑)


忠将ただまさ:代永氏族のウツセミで、紫水小路に迷い込んだ人間や街の住民をもてなす歓楽街『花街』の支配人を務めている。花街の蓮っ葉な女性たちや男娼を宥めすかして仕事に従事させつつ、源司のお目付け役として奔放な彼のフォローに回り、非常に気苦労が多い。しかしその実直な仕事ぶりは花街のウツセミたちからも評価されていて、族長の源司からの信頼も厚く実質的に代永氏族の二番手である。

 源司と同じくスーツ姿を基本としているが、忠将は折り目正しく着用しておりネクタイもきっちり締めているのでホストというよりもビジネスマン的な印象を受ける。

 紅子がウツセミに転化した直後、恋人に捨てられた失意に沈み紫水小路に迷い込んだ真実を介抱したことが縁で彼女と恋仲になるが、真実の胎内には別れた恋人との間に出来た子どもが身籠っていた。忠将も真実もそのことを知らずに過ごしていたが、通常の胎児の成育からは大幅に遅れたものの3年経つ頃には真実の妊娠が明らかになり、以後忠将は彼女から精気を摂取することを止める。

 忠将が精気を摂取しなくなってからしばらくすると真実は女の子を出産したが、胎児が無事に生まれたのと引き換えに真実は命を落としてしまう。真実の死に責任を覚えた忠将はそれ以降人間から精気を一切摂取しなくなり、亡くなった母親に代わって蘇芳と名付けた赤子を育てることを決める。

 忠将の庇護の下、蘇芳は紫水小路ですくすくと成長したが、彼女を人として生かしたい忠将は蘇芳を現世へ送り出す方法を模索していた。そんな時、紅子の実の娘である丹もウツセミに転化した一件で紅子の家族のことを知った忠将は、紅子の夫の家に蘇芳を養子にしてもらうことを思いつく。

 紅子や丹の人柄や斎と直に話をしてみて蘇芳の養育を任せられる人物と判断した忠将は、蘇芳をどうにか彼の養子に迎えてもらおうと交渉を進めた。そして来栖がハライソの依頼を受ける条件として蘇芳に適合する戸籍を用意させ、忠将の願いは叶えられる。

ウツセミとしての特殊能力は体を灰にして、物理的なダメージを受け流したり小さな隙間からその奥に侵入したりすること。応用範囲は広いが多用すると元の姿に戻れなくなるリスクがあるため、極力忠将はこの能力を使わないように自重している。

一言で表すと陰のある苦労人、貧乏くじを引きやすい人。イメージカラーは濃紺、忠将が愛用している落ち着いた色合いのスーツにちなみます。ネーミングの由来は源氏物語で光源氏と親交の深い頭中将。忠将の名前は中将の中を忠に置き換えて、訓読みにしたものです。

前日譚『たゆたう』では出番が少なかったですが、個人的には思い入れのあるキャラクターなので『血風録』ではピックアップできるように設定を詰めてみました。ある意味人間よりも人間臭い吸血鬼です(笑)


朱美あけみ:代永氏族の先代族長、ウツセミが紫水小路に入植した時から存在している古参のウツセミ。族長の座を退いた現在は紫水小路の住民全体の庶務を執行する政所の長官に就いており、同胞からは尊敬の念を込めて政所様と呼ばれることも多い。

 肩書きだけみれば威厳に満ちた女傑をイメージするが、実際の見た目は振袖姿の十代前半の少女である。加えて政所の長官の仕事を蔑ろにしており、仕事を滞らせては紅子を始め多くの職員の頭を悩ませている。

 紫水小路のウツセミの長老であり、本来ならば丹ははるかに格下の存在であるが、意図的に自分の素性を伏せて彼女に接触し対等な友人として付き合うことを許している。また必要に応じて長老としての貫禄を発揮することもあり、傲岸不遜な反逆者の平輔すら彼女には敬意を見せる。基本的にウツセミたちは彼女を軽んじて扱うことはなく現在も影響力を持っている。

少女の姿をしているがこれは本来の姿ではなく、20年ほど前に先代のウワバミと現世で暮らすために背中に刻んだ烙印のせいで大量の妖気を喪失したためにエネルギー効率を高めるために少女に擬態しているからである。そのため一定量の精気を取り込み、力を回復すると一時的に元の艶やかな妙齢の美女の姿に戻ることが出来る。

チンタを大量に煽って酔っ払っていることが多いが、これは人間から精気を摂取せずにチンタで必要な精気を補っているため。縮小しても未だに巨大な蝕をその身に内包しており、相当量のチンタを摂取しなければ渇きを癒せない。チンタに含まれる不純物のせいで酔っ払ってしまうのである。

一言で表すとロリババア、一粒で二度美味しいお約束の大人バージョン。イメージカラーは臙脂色、年季を重ねて色合いの落ち着いた感じ。朱美だけでなく代永の女性のウツセミは赤系統の色を意味する単語を名前に用いています。

ファンタジーにありがちな設定のキャラクターですが、個人的には初めての試みだったので新鮮な面白さがありました。


あかね:召人となる人間の売買を含めた、紫水小路での取引を管轄する部著『置屋』の主人を女だてらに取り仕切る女傑。羽振りのよさを誇示するため典雅なドレスを纏い、髪を夜会に赴くように結い上げている。

 気風のいい姉御肌のウツセミだが、はっきりとした意思表示を好み、曖昧な回答をする優柔不断な人物を毛嫌いしている。またよくも悪くもウツセミの掟を重んじる性格で、イレギュラーな事情によってウツセミに転化した紅子やその娘の丹のことを好ましく思っていない。

 一言で表すと小姑。茜のパーソナリティを掘り下げるエピソードも設けられなかったため、小言の多い辛辣な物言いの嫌味な女と読者から思われただろうなと反省しています。紫水小路の経済を円滑に回すという役目を果たそうと抜け目のなく的確な判断を下していける有能な女性で、その行動理念には茜なりに同胞のためを思っているという背景はありますが、それを表現しきれませんでした……

 自立して芯の強い女性というイメージはあっても扱いに悩んだキャラクターで、終盤ウツセミ同士で戦った政所を巡る攻防では平輔や酒蔵の側につかせるかどうか執筆直前まで決められませんでした(汗) 規律を重んじる性格に従って現行の体制側である政所を守る側につかせたことで行動の整合性は取れたと思いますが、その分葛藤や苦悩などの心理描写が出来ずに結果的に無難な扱いで終わってしまいました(泣)

 茜が置屋の運営に辣腕を振るう姿は前日譚の『たゆたう』に描写しており、『血風録』での印象の薄さを幾分補えるはずです。


緋奈ひな:花街の酒場『林檎の樹』の売れっ子キャスト。肉感的な肢体や派手で化粧映えのする顔に輝くような営業スマイルを浮かべ、陽気で快活な性格から多くの客から指名を受けている。

 楽天的であまり物事を深く考えない分、不必要に悩みを引き摺らず割り切った考え方ができる。また酒場の仕事をキャストとしての誇りを持って務めており、仕事を貶された時は断固として反論した。

 同胞の丹を介してウワバミの来栖とも面識があるが、所属している組織が違うこともあってそれほど親交がある訳ではない。

一言で表すと能天気なキャバ嬢、職業に貴賎はないということを体現させたキャラクター。使徒の十文字に襲われた時、恒に命を救われたことでフラグが立つように煽っておきながら結局、何の進展もありませんでした(笑) 花街の様子を表すために登場させたモブキャラなので仕方ないといえばそれまでですが……


蘇芳すおう:忠将が過去に関係を持っていた女性、真実が紫水小路に迷い込んだ時に既に身籠っていた子ども。産後間もなく母親の真実が亡くなり、真実から精気を吸っていたことでその死期を早めたと自責の念を抱いた忠将によって育てられ、彼を父親のように慕っている。

 しかし嬰児だった蘇芳を現世に放り出す訳にもいかず、彼女を現世に連れ出すタイミングを忠将が計りかねていたせいで生まれた時から一度も紫水小路の外に出たことがない。そのため親子や兄弟といった家庭の存在や成長して年老いることなど人間として必要な知識を得る機会がなく、基本的に成人しかいない紫水小路で暮らしているために同世代の友人もいない。蘇芳の成長に歪みが生じかねない状況である事を懸念した忠将は、彼女を信用の置ける霧島家に預けることを画策し始めた。

 ハライソの襲撃と前後して霧島家の次女葵が蘇芳のベビーシッターとなり、平輔の煽動によって起こった内乱から逃れるために現世へ霧島姉妹と共に赴き、最終的には忠将の願い通り霧島家の養子となった。

 一言で表すと無垢な子ども。食べ物の好き嫌いや少しわがままなところがあっても、作者としてはこのまま自分の複雑な背景に囚われることなく真っ直ぐに育って欲しいと思っております(笑)

 初期案では所謂人間と吸血鬼のハーフとして設定していましたが、現状ではほぼ普通の人間という設定にしております。常人より蘇芳は皮膚が弱いとか夜目が利くという特徴はあっても、ウツセミのように精気を自給できず渇きを覚えることはありません。


真実まみ:蘇芳の母親。同棲していた恋人に捨てられた失意で紫水小路に迷い込み、忠将に解放されたことが縁で彼と恋仲になる。忠将に精気を与える代わりに、彼の寵愛を受けて悲しみを癒しつつあったが、その腹には捨てられた恋人との間に出来た子どもが宿っていた。

忠将に精気を摂取されることは、自分と胎内の子ども2人分の精気を吸われることであり通常よりもお腹の子どもの成育は遅れていたが、紫水小路にやってきて3年経つ頃には妊娠が明らかになる。彼女の妊娠が発覚して以降、忠将は彼女から精気を吸うことを止めて、子どもは無事に生まれてきた。しかし真実自身は産後の肥立ちが悪く死亡してしまい、その死に責任を感じて忠将は蘇芳と名付けた娘を彼女に代わって育てる。

名前の由来は、蘇芳の出生における皮肉な真実を意味しています。忠将のパーソナリティに肉付けをする目的で考えたエピソードに名前のみ登場するキャラクターですが、あまりの薄幸ぶりに作者自身も泣けてきます(汗)

先代の若い頃と並んで、忠将と彼女の馴れ初めを短編として書いてみたいです。



富士見ふじみ氏族と召人:富士見は不死身にちなんだ氏族名。


千歳ちとせ:富士見氏族の族長と務めるウツセミ。氷の彫像のように玲瓏とした深雪のような美貌を、長く濡れたように艶やかな黒髪で縁取る絶世の美女。あまり表情に変化はないが、時折浮かべる微笑は美しいと思う以上に凄味を感じさせるほどである。

 美形揃いのウツセミの中でも群を抜いて秀麗な容姿の半面、政治的能力は皆無であり本来目下の存在である潮や茜からは軽んじられている。族長の役割も先代の族長が突然消滅した後、周囲の適格者が彼女の代わりに就任することを面倒くさがったために押し付けられた厄介ごととしか思っておらず、代永の族長である源司のように責任感を持っていない。

 また千歳がウツセミに転化してからは20年強しか経っていないため、蝕の大きさも並のウツセミ程度であり特殊能力も持っていない。戦後の混乱期と重なった幼少期に紫水小路に迷い込み先代の族長常時に育てられ、成人に至ると四半世紀ほど前にウツセミに転化させられるまで常時に召人として仕えていたことがその理由。

 忠将が蘇芳の世話をしたようにウツセミが人間の子どもを養育した前例ではあるが、忠将が蘇芳を人間として現世で暮らすことを望んでいたことに対し、常時は初めから千歳を自分の召人とする目的で彼女を育てていた。

人間としての倫理規範を身につける前に、義父である常時によって従順な奴隷に仕立て上げられ、何の疑問も抱かず常時の望むように心身を弄ばれていた。しかし精気を搾取され続けた千歳の肉体が限界を迎えようとすると、恒や他のウツセミから勧められて常時は渋々彼女をウツセミに転化させた。そしてウツセミに転化し、依存していた常時から見捨てられて初めて千歳は自分の境遇の歪さを自覚する。

知らないうちに過ぎ去っていた青春や常時の玩具以外の生き方を知らないことの空しさに苛まれつつ、ウツセミになってしまったことで容易に死ぬこともできなくなった日々を惰性で過ごしていた。だが紫水小路に迷い込んだ青年、晨との偶然の出会いが千歳の心境に変化をもたらし始める。

当初は自分の渇きを癒すために接触した晨から、人形ではなく血肉の通った女として扱ってもらえたことで千歳の中に人間的な情愛の念が芽生えていった。しかし大学卒業が迫り、地元に就職するために御門を離れる晨から別れを切り出されると、彼を失うくらいならいっそ自分が壊してしまおうと千歳は致死量の血を晨から摂取する。

半狂乱で晨を蹂躙する千歳から彼を引き離した恒によって、晨はウツセミに転化させられ一命を取り留めるが、千歳と晨の間に刻まれた亀裂は深く関係は結局壊れてしまった。

晨にさえ離れられてしまった千歳は自分に絶対服従する存在を求めるようになり、思春期の少年少女を召人として抱えるようになる。皮肉にも千歳が常時に強いられていた隷属を彼女自身も行うようになっていたが、その矛盾に気付かぬまま族長としての肩書きを笠に着て千歳は我侭三昧の退廃的な生活を送り続けた。

ハライソの襲撃や酒蔵のウツセミの蜂起を経て、晨との関係を修復すると同時に自分が族長に相応しい器ではないことを実感した千歳は族長の座を恒に譲位し、朱美の誘いをもらって政所で働くようになる。居丈高な性格は相変わらずだが、族長をしていた時よりは仕事への責任感やプライドを持っているようであり、晨との仲も良好である。

一言で表すと高慢な箱入り娘、世間知らずで大人気ない人物として描写しています。ただ屈折した性格になった原因は千歳自身の過失だけでなく、周囲の大人たちの責任もあって恵まれない環境の被害者という側面も持っております。

イメージカラーは黒。子どもっぽく無責任で人間的な魅力も浅いけれど衆目を集めてやまない外見を表すあらゆるものを引き込む底知れない魔性の魅力と、千歳の抱えている深い絶望感や自分の空虚さを表しています。

千歳だけでなく富士見氏族のウツセミのネーミングは、基本的に時間を表す単語に因んでおります。

人生経験が乏しいために薄っぺらで上辺だけの存在に思えるけれど案外複雑な過去を持っているキャラクターとして設定し、作中でもそれなりに優遇したつもりです。ただ本編で言及していない設定の多さを、この項目を記しながら痛感しました(汗)


あきら:酒蔵に勤めている青年の姿をウツセミ、20年ほど前にウツセミに転化する前は千歳の召人だった。千歳の召人でなくなりウツセミになった経緯にひと悶着あり、彼女に対して負い目を感じている。

 芸術家を志して御門の美術大学に入学したが、同じ野心を抱く学友と接しているうちに自分は特別な存在ではなく凡百の絵描きにしかなれないと絵画で身を立てる夢を断念する。理想に挫折した失望感で街を彷徨っているうちに紫水小路に足を踏み入れ、幻のような美貌のウツセミ千歳に召人として見初められる。

 晨自身は絵を描くことがそれなりに上手いという以外に取り立てて目立つことのない凡庸な青年だったが、愛玩動物として扱われていた千歳が人間性を知るにはちょうどいい相手であった。晨も当初は千歳の類稀な美貌に圧倒されていたが、その顔に見慣れてくると色眼鏡を通さずに彼女の世間ずれしていない素直な本性に気付くようになって、次第に千歳を放っておけなくなる。

 しかし地元に残る家族のことを思い地元に帰って就職することを決心し、千歳に別れを告げにくるが、義父から心身ともに虐待を受けていた千歳は家族という組織を恨んでおり、恋人である自分ではなく家族を取ろうとした晨を手にかけようとする。

 家族という組織に抱く思いの違いから亀裂が生じてしまってしまい、ウツセミとなって紫水小路に晨が残ることになっても彼と千歳の関係は拗れたままであった。だがハライソの襲撃や酒蔵のウツセミたちが謀反を企てることに異を唱え晨が制裁を受けたことがきっかけで想いを確かめ合い、20年あまりの時を経て彼らの関係は修繕された。

一言で言い表すと時代遅れな苦学生。ままならない人生の悲哀を背負う青年というイメージで書いております。イメージカラーも寒色系の濃くて暗い青、恋人との不幸な擦れ違いや職場での蔑ろにされている境遇への憐れみを込めています(笑)

 と、報われない苦労人のように書いてきましたが、蓋を開けてみれば作中一の美女とヨリを戻して相思相愛になっており、最終的には勝ち組と言えるでしょう。もっともいくら美人でもヤンデレ気味の千歳と交際を続けることは心身ともに過酷でしょうし、下手に人間を篭絡して浮気をしようものなら千歳に無理心中を図られかねませんが(汗) 末永くお幸せにと作者からも祝辞を送らせてもらいます。

 一連の事件を経て壊れていた関係を修復していったことから、個人的には晨と千歳は『血風録』の裏の主役と思っております。


わたる:富士見氏族では最高齢のウツセミ。染色家を生業としており、先生と敬称をつけられることもある。和服に身を包んだ書生風の青年の姿をしている。飄々とした態度とにこやかな表情を崩さない一見すると人畜無害そうなウツセミであり、茜などからは隠居老人扱いされている。

 しかし笑顔の仮面の裏には冷徹な本性を隠し持っており、その片鱗を垣間見た緋奈は彼に恐ろしさを感じている。だが決して体制に抗うことなく日和見主義を貫いており、紫水小路で立て続けに発生した動乱においても中立的な立場を崩すことはなかった。

 ウツセミとしての特殊能力は液体を凍結させること。液体に直接触れる必要はなく、人肌の上から内側にある血液や体液を凍らせることが出来る。この能力を使って人間を殺傷することは、血も心も通わない吸血鬼の恐怖を見せ付けることになる。

 一言で表現するとさわやかそうだけと実は腹黒いキャラクター。イメージカラーは青みがかった紫、ラベンダーカラー。

初期の構想には登場しませんでしたが、話が広がっていくにつれて源司の初期の飄々として謎めいた雰囲気を引き継いだキャラクターです。やればできるのにものぐさな性格から本気を出さない困った人という立ち位置。しかし族長として未熟な千歳の後見人を務めたり、大局を正確に見極めたりと要所は締めるお方。だから最終的には族長に据えて、本気を出してもらうことにしました(笑)


うしお:酒蔵の親方の豪傑。豪放磊落な人物で馬が合えば非常に付き合いやすく親分として慕えるが、繊細な人格の持ち主や押しの弱いものにはその強引さのせいで付き合いにくい。

 吸血鬼というよりも食人鬼という方が適切に思える屈強な体躯をしており、威勢がよく頑固な性格と合わせて荒くれ者揃いの酒蔵を統率する。その戦闘力は高く、ハライソの使徒の1人聖を一蹴するほどである。義に厚く勇猛果敢なウツセミでありハライソの襲撃の際には即座に手下を率いて遊撃に向かったが、思い込みの強さが後に彼を暴動へと走らせてしまう。

 口には出していなかったものの、死体を加工して血液の代用品としてチンタを作る仕事を負担に感じており、自分たちの辛苦を知らずにチンタを浪費している同胞への不満を募らせていた。だが酒蔵の親方としてチンタを作る苦しさを誰よりも理解しており、原料となる亡骸を残した人間への敬意も持ちあわせている。

 ウツセミとしての特殊能力は肉体を硬質化させること。硬質化した肉体は至近距離から放たれた銃弾ですら傷つけられない。局所的ではなく全身を硬化させられるが、大量の陽気を消費するため持久戦には向かない。

一言で表すと現場の豪快な親父。優男が多いウツセミの男性にスパイスを加えるためのキャラクター。ハライソの十文字と同類項なので、書き分けのために彼らの交戦は避けました。

名前の由来は初期案にあった丹の相棒、森永潮の名を踏襲したもの。森永潮は平凡な人間の少年でしたが、実家が牛乳店を営んでおり、飲料を扱う家のものという点のみウツセミの潮親方と共通しております(笑)


永遠とわ:千歳に仕えていた召人の娘。メイド服は主の千歳の要望に基づいて着用している。千歳に心酔しており、彼女のことを庇ってハライソの衛兵の放った凶弾に倒れた。結果として永遠の死が千歳と晨の関係修繕のきっかけとなった。

 召人という概念を描写するために登場させたモブキャラ。千歳との関係は主従の一線を越えて同性愛に近いものだったと設定しております。

 少女の見た目をしておりますが実年齢は二十代半ばほどとしております。これは召人になって精気を搾取されていると、自分の肉体を成長させるのに回す精気が失われてしまい肉体が加齢できなくなってしまうことの副作用です。長年常時の召人をしていながら、千歳が若い姿を保った状態でウツセミに転化できたのもこのためです。


悟郎ごろう:酒蔵に勤めているウツセミで晨の先輩にあたる。酒蔵のウツセミの例に漏れず好戦的な性格をしており、腕っ節も強かったが喧嘩を売った相手が悪く、人間の南部になす術もなく射殺されてしまう。

一言で表すとヤクザの舎弟。南部の銃捌きを際立たせるためのかませ犬であり、名前をつける必要もありませんでしたが、無名のウツセミを殺してもインパクトに欠けそうなのでとりあえず名前を与えてあげました(汗)



夜久野やくの一派とその関係者:夜久野は旅先で見かけた、いかにも怪しげな何かがいそうな地名に因んでいます。


平輔へいすけ:ウツセミを紫水小路から現世に進出させ、捕食者としての本能を鼓舞し吸血鬼として真の自由を掴ませることを目論む夜久野一派を率いるウツセミ。

約10年前にも同様の計画を企てたが、ウツセミと人間の棲み分けを徹底する掟に背く危険思想を唱えたとして謀反人と認定される。源司によって左腕を切り落とされながら、同胞の追跡を振り切って現世に逃亡。失った精気や妖気を補充するため偶然逃走中に見かけた紅子を襲い、彼女から大量の生き血を啜って危篤状態に陥らせる。平輔の被害に遭った紅子を蘇生させ、その足取りを聞き出そうと源司が彼女を紫水小路に連れ去りウツセミに転化させようとする光景を丹が目撃したことから、霧島一家とウツセミの数奇な縁は始まっていく。

かつて次期族長の最右翼に挙げられたほど有能なウツセミであった。しかし族長就任の打診をされた際に紫水小路の抱える裏の事情を朱美に告げられたことで、いつ同胞が紫水小路に取り込まれてしまうか分からないような危険な状況に族長として曝し続けるのではなく、同胞を現世へ連れ出そうと翻意して就任を拒む。平輔が族長の座を蹴ったことで、源司がその代わりに族長を朱美から引き継ぐことになった。

左腕を失った状態で紫水小路を放逐され10年近く現世を徘徊していたものの、その実力は衰えることなく修行を重ねた源司と互角に渡り合えるほどの戦闘力を有している。また計算高さも持ち合わせていて、吸血鬼を殲滅しようとしているハライソを利用し自分が紫水小路に返り咲く足掛かりとし、ウツセミの天敵でかつ守護者であるウワバミを含めた人間への不満を煽ることで同胞に現世への進出を促そうとした。

さらに左腕の傷口から妖気が漏出し続けることを逆手にとって、妖気が引き寄せる精気だけでなく他のウツセミの妖気すら吸収してしまう能力、陰を編み出す。平輔の左腕から噴き出た黒い靄に包まれると、人間も動植物もウツセミも関係なく活動に必要なエネルギーを奪われてしまい衰弱してしまう。固有の高い戦闘力に陰を組み合わせることで、ハライソ最強の使徒天連ですら軽くあしらうほどの力を平輔は持つことになった。

一言で表すとカリスマ的な革命家もしくはラスボス。イメージカラーは世界各地で起こった革命のシンボルカラーの深紅、これは源司と紅白のコントラストで源平合戦の隠喩の意図もしています。

圧倒的な力を持ち、私利私欲を満たすためではなく、無自覚のうちに苦境に立たされている同胞を救うために決起した孤高のカリスマとして描き、悪人とは言いづらいスタンスで捉えている平輔ですが、元々は小悪党として設定していました。平輔という名前も好色漢→助平→平輔という流れで決まったものでしたし……

源司に紅子をウツセミにさせた濡れ衣を着せた小悪党として一度プロットを作ってみましたが、話を広げていくうちに頓挫した別の話の敵役に考えていた現行の平輔の雛形にあたるイメージが重なってきました。そうしてなるべく格好良く思える敵役にしようと方向転換を図り、プロットを調整し直して現在の平輔となりました。

平輔が正式に登場したのは『血風録』の破ノ段からですが、前日譚の『たゆたう』の冒頭から存在は示唆されています。『うつせみシリーズ』を通して暗躍し続け、自分を倒した来栖と丹に同胞の未来を託しながら散っていった平輔の生き様はなかなか魅力的ではないかと自負しております。


常時つねとき:千歳の前に富士見の族長の座についていた古参のウツセミ。20年ほど前に突然彼が消滅したことで、形式的に養女としていた千歳がなし崩し的に族長の座を引き継ぐことになった。

しかし実態はウツセミに転化させてしまった千歳に代わる召人を求めて現世へ赴こうと周囲の目を欺くために、代永の次期族長と目されていた平輔に口裏を合わさせて自分の死を偽装させただけであった。同胞を現世へ連れ出す計画の萌芽を抱いていた平輔は、その魁となる同志に加わることで常時の申し出を承諾し、トップを失ったことで富士見氏族の結束は急速に崩れていった。

ウツセミとしての実力は高く手負いの状態だったとは言え来栖を容易く翻弄したが、人間を見下している慢心で詰めを誤ったことと、丹をかけがえのない存在と自覚し合を会得した来栖の反撃を受けて本当に消滅させられてしまう。

一言で表すと嫌味な紳士もしくは中ボス。平輔の初期設定を再利用する形で登場させ、千歳の歪みの元凶となったキャラクター。立場的には夜久野の二番手となりますが、平輔と比べると小者っぽさが際立っています……

中盤の3回のみの登場で、まともに名前を表記したのは最後の1話だけだったことが示すように、来栖の新しい切り札の露払いとして倒される中ボスという位置づけです。


義仲よしなか:御門の外から餌となる人間を求めて流れてきた吸血鬼。平輔が日本各地を放浪していた時に知り合った吸血鬼で、街中に吸血鬼が基本的におらず他人と競合することがない絶好の狩場として御門を教えられ、街にやってきた。

 家出した丹の妹葵に目をつけて彼女の血を吸おうとしたが、前日に御門で義仲が起こしていた事件の調査をしていた来栖に発見され、餌食を妨害される。

 紫水小路のウツセミと同じく蝕の具現化が可能で、牽制で放たれた剣気を相殺し来栖を苦戦させるが、斂のカウンターを叩き込まれ敗北した。競合相手も警戒する外敵もいないという虚報を伝えてきた平輔への恨み言を叫びながら消滅したが、そのことが来栖や源司たちに平輔への警鐘を促すきっかけとなった。

 序盤の2回のみに登場し、来栖に強力なウツセミと戦うことの脅威を与える以外には作中での役目がなかったキャラクター。ネーミングの由来は源平合戦に登場する武将、木曽義仲。後に覇権を握る頼朝や華々しい戦果を上げる義経に先んじて武勲を挙げながら、上皇の反感を買って討伐されてしまい、捨石的なポジションになってしまった彼の姿になぞらえています。


悠久はるひさ:表向きは千歳の従者を務めながら、裏では平輔の陰謀に加担していた内通者。中性的で天使のような美しい顔立ちをしていながら、平輔以外は誰も信用せず腹に一物抱えた裏面を持つ小悪魔的なウツセミ。

 転化して間もなく忘我状態で紫水小路を彷徨っていた丹を隠し持っていた朱印符で現世へ連れ出し教会を嗾けるための騒ぎを彼女に人間を襲わせて起こそうとする、ウワバミに預けていた政所の傍に通じる朱印符を使ってハライソの軍勢が紫水小路に侵攻してきた事実を曲解しウワバミが教会に寝返ったと虚言を流布するなど、策を弄して平輔の計画を遂行しやすくしてきた。

 平輔に恭順な態度を貫いているが、人間だった時に周囲から虐げられていたトラウマから彼と異なり現世や人間にいい印象を抱いていない。そのため人間を見下した発言や、現世での生活に未練はないと度々口にしている。

 一度は利用した丹に何食わぬ顔で初対面として接し、場合によっては彼女に協力をして信頼を得ようとする強かさを持ち合わせている。しかし丹に人間だった時、唯一気の許せる相手だった字は違っても同じ読みをする少女真琴の面影を重ねていて、非情に徹しきれない部分もある。

 ウツセミに転化した後、成長して結婚を控えていた真琴と再会したが、彼女は悠久のことを失踪したクラスメイトとよく似た別人としか認識しなかった。自分は吸血鬼になったから昔と姿は変わっていないと訴えて、どうにか真琴と対面しているのはその失踪したクラスメイトだと分からせようと悠久は試みたが、そんな彼に薄気味悪さを覚えた真琴は冷たく彼をあしらう。唯一の良心だった真琴に存在を拒絶され、逆上した悠久は彼女から生き血を啜って強殺するが、摂取した血を介して自分を殺した不気味な子どもへの真琴の呪詛を感応した悠久はそれ以降生き血が飲めなくなってしまう。

 真琴を殺してしまった罪悪感を引き摺っていたずらに日々を過ごしていた時、偶然現世で出会った平輔に感銘を受けて、悠久は彼のために働くようになった。

 一言で表すと天使の顔をした悪魔、ある意味で最も吸血鬼らしいウツセミ。イメージカラーは自然界における警戒色である黄色。徹底して面の皮の厚い邪な心を持った存在として描いていますが、少年らしい葛藤も抱えた人物としております。

 最終決戦の執筆に取り掛かるまでは決戦の最中に悠久には死んでもらうつもりでしたが、やっぱりこの手のキャラクターは生き延びさせて罪を償わせるべきと生存させました。できればもっとドロドロとして醜さを描きたかったキャラクターで、当初の予定よりもソフトな描写になっております。

 丹を巡って来栖との三角関係も思案していましたが、無駄に尺が伸びるだけなので割愛しました。これは来栖を巡って真理亜と丹の三角関係を削除したことも同様です(笑)


真琴まこと:悠久が人間だった時に唯一好意を抱いていた少女。悠久がウツセミに転化した後、成長した姿で彼女は悠久と再会したが、常識的に悠久が本人ではなくよく似た他人と思っていた。

 懸命に自分が失踪した悠久本人だと主張してくるのを見て薄気味悪さを覚えた真琴は、心ない言葉を悠久に向けてしまう。その一言に悠久が受けた精神的な打撃は大きく、激昂した悠久に強引に血を吸われて失血死してしまう。

 ここまでの描写だと酷い女に思えますが、真琴に悠久への悪意はそれほどなくむしろ悠久の話を信じることの方が難しいでしょう。不幸な擦れ違いと悠久の自制心のなさのせいで命を失ってしまった、可哀想な女性です……



ハライソ:作中で言及しなかったが祓祚という漢字表記も考えていた。邪悪なものを祓って、幸せ(≒祚)を招く組織という意味。


伴天連ばんてんれん:剣気と同質の攻撃用に転換した生体エネルギー聖火の発動が可能な使徒と呼ばれる存在の筆頭に挙げられる青年。キリストを彷彿とさせる長髪をした顔は怜悧冷徹な表情を浮かべており、淡々と組織の目標である吸血鬼の駆逐に従事している。

 体の厚みは一回り小さいが上背は来栖と並ぶほどの長身で、長い手足を巧みに使った格闘も得意としている。天連に限らずハライソの使徒は神から受ける愛の力によって聖火の出力を増幅しているが、天連の聖火の威力は仲間内でもずば抜けている。撥と同様の拡散状態で放つにも関わらず、天連の聖火は剣気を一点に集束させてエネルギー効率を高めた斂と互角の出力を誇る。

一言で表すと主人公のライバル、イメージカラーは金色。イメージカラーが示すように作中において人間の中では最強です。冷静さを欠いていたとはいえ来栖に劇中で唯一黒星をつけたことが示すように単独での戦闘力は来栖を上回っています。丹の存在によって合を発動することで爆発的に剣気を増大させられる点が、天連にも叶わなかった平輔を来栖が倒せた理由です。

名前の由来は宣教師の日本での呼び名バテレンの当て字、伴天連から。最初は伴を『ばん』ではなく『ともの』と読ませることも考えていましたが、語呂のよさを選んで今の読み名にしました。

 天連だけでなくハライソのキャラクターたちは来栖や丹の対立が明確で、敵として扱ってしまったせいかあまり内面を掘り下げることが出来ませんでした。しかし天連の年齢は二十代半ばと決めているので同級生や学校の先輩として登場させることはできず、戦闘以外での関わりも持たせづらいために多分現行よりも心理描写が増えることはないでしょう。

 主人公と似て異なるスタンスの強敵ともとして描けた分、天連や使徒の面々に関しては書き足りないとは思っていません(笑)


安倍真理亜あべまりあ:ハライソに在籍している女子高生。前線で戦うのではなく、実家の財力や人脈を駆使し使徒や衛兵のバックアップを務めている。吸血鬼に対抗できる能力を持つ来栖をハライソに勧誘しようとしているが、彼が裏で吸血鬼と繋がっていることも察知しており組織の障害となるのであればその排除も厭わないと思っている。

 好みにうるさい常時が見惚れるほど整った容姿をしている。持ち前の美貌に加えて縦ロールの髪やメリハリの利いたボディラインで豪奢な印象を与え、御門の名士の令嬢の名に恥じない風格を漂わせており、通学している芳志社女学院の生徒の羨望を受けている。

 だがその内面は前述の通り打算的で冷酷さも抱えており、吸血鬼と殲滅し人間の理想郷を創造するという組織の理念を妄信している危険性が目立つ。天連が捕縛した来栖の尋問を自宅の地下室で行い、本来始末すべき対象でない人間の来栖や葵に躊躇いもなく拳銃を突きつけることでその危険性が証明されている。

 戦闘力に乏しい分、明晰な頭脳を駆使した作戦立案を行っているが、予測を裏切る来栖やウツセミの行動や自身の策に溺れる失態などで失敗も多い。

一言で表すと打算的なビッチ、謎の女。イメージカラーはペールイエロー、聖母の発する柔らかい後光をイメージしています。もっとも真理亜の場合、聖母を彷彿させるのは名前だけで発するのは瘴気でしょうが(汗)

当初の予定ではサブヒロイン的な扱いになるはずだったが、結局メインキャストにもなれなかった娘。『たゆたう』を執筆した後にもう少し真理亜を優遇しようと思ったのに、結局あまり改善できませんでした……

もう1人のビッチなお嬢様千歳に力を注いだばかりに、真理亜の人物設定がおざなりになってしまったことが原因と思います。どうして真理亜がハライソの理念に傾倒しているのかを描ければ、もうちょっと扱いがよくなったかなと反省しています。


天野聖あまのきよし:御門に先発隊として派遣されてきたハライソの使徒、使徒の中では最年少の高校生。聖火の出力は仲間内でも指折りの強さだが、実戦経験が乏しいために未熟さが露見している。

 葵を人質として誘き寄せた来栖と丹を始末しようとするが、聖火と剣気の打ち合いでは分があったものの、来栖に素手での殴りあいに持ち込まれて破れる。その後も参加した紫水小路の制圧作戦で酒蔵の親方のウツセミ潮と交戦するが、聖火を蝕で相殺されると一撃で昏倒させられてしまう。だが天連にとどめを刺そうとした平輔の注意を引きつけ、結果的に自分たちの生還に貢献する活躍を見せる。

 一言で表すとハライソのパシリ、志だけ立派な未熟者。最終的には本部のある東京から御門に左遷された挙句、真理亜のアッシーくんにされた哀れな人。

 個人的には富士見氏族の晨と似たポジションで考えていますが、晨が一応リア充になったのに対して聖の苦労はまだまだ続きそうです(笑)


十文字猛じゅうもんじたける:聖火を用いた遠距離戦を基本とする使徒の中で、接近戦を好む武闘派の存在。人間離れした膂力と頑健な肉体を誇り、身体能力で勝る吸血鬼にも臆さず正面から挑んでいく。

 屈強な体格をしている来栖にすら体格と腕力で勝り、力押しで倒そうとするが斂の一撃を食らって倒されてしまう。紫水小路の戦闘でも猛威を振るったが、緋奈を滅ぼそうとするのに横槍を刺してきた恒に全身の体液を凍結させられて氷の破片として砕け散り生涯を終えてしまう。

一言で表すと喧嘩番長、来栖の初期設定の再利用。十文字といい潮といいパワーファイターはこの作品では憂き目にあってばかりです(汗) 特別悪辣に描写されていないのに、もっとも惨い殺され方をしてしまった十文字に合掌……


神尾欣也かみおきんや:丁寧な口調で喋っているが、腹に一物を抱えていることはその狡猾そうな顔付きで見え透いているハライソの使徒。近接戦闘を好むことは十文字と共通しているが、十文字が力押しの正面突破であるのに対し、神尾は不意打ちや急所を素早く打ち込む技巧的な戦い方をしている。

 信仰心は持っているが自分の嗜虐癖を満たすために都合よく曲解している節があり、教会の人間というよりは享楽的な殺人犯に近い人物である。紫水小路の侵攻の際にゲーム感覚で霧島夫妻を付け狙うが、その救出にやってきた朱美に不用意に聖火を打ち込んでしまったことで彼女に精気を与えて本来の力を取り戻させてしまい、返り討ちにされる。

一言で表すとサディストの小者、ハライソの人間のなかで最も凶悪な人物。こんな人物を採用するハライソの道徳観はどうなっているんでしょうか?


南部遼一なんぶりょういち:ハライソに所属する凄腕のガンマン。銀の散弾を打ち出す散弾銃を愛用しているが、拳銃での早撃ちも相当なものであり、喧嘩自慢の悟郎を瞬殺し忠将すら窮地に追い込んだ。

 ハライソの理念に共感して衛兵として紫水小路の制圧作戦に従事していたが、人間も吸血鬼も問答無用で全滅させろという命令に反感を抱いており、年端もいかない子どもである葵と蘇芳を撃つことを躊躇った。忠将も南部の高潔さに敵として敬意を表しており、蘇芳たちを守るためでも彼を手にかけたことの後味を悪く思っていた。

一言で表すとポリシーのある殺し屋。ニヒルなヒットマンとして、ハライソの人間ではもっとも格好良く書こうとしました。聖火や剣気の使えない人間でも戦い方次第ではウツセミと渡り合えることを描いた凡人の星…といいたいところですが、どう考えても南部の銃捌きは異能の域に達しています(笑)



くいな橋高校:来栖たちの通う公立校、カンナとゴリ田は『たゆたう』にも登場。


天満てんまカンナ:来栖のクラスメイトで丹のお節介な友人。雪人という名前の彼氏がおり、来栖の口から彼氏がカンナの強烈なアプローチに辟易していると語られていることから一応交際はしているらしい。

 不用意な発言が目立つものの、丹のことは友人として大事にしているらしく、来栖のことを悪くいうのも丹のことを慮っての行動である。


盛田もりた / ゴリ田:脳筋の体育教師、保険医の赤城に好意を抱いているが報われる気配はまるでない。来栖をやたらと目の敵にしているのはその腹いせかもしれない。


赤城紗英子あかぎさえこ:セクシーな保険医。真理亜の親戚で、互いに気付いていないが来栖の遠縁にあたる。平輔に現世で襲われる予定もあったが、そのシーンを不要と判断してカットした。

 しかし来栖の遺伝上の父親である弓弦の出自を思いつくことができたので、紗英子を登場させた意味はあったと感謝している。




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