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『自分』を武器にして  作者: 帰村 典
プロローグ
2/9

彼は自らが力であると語る

目覚めると見知らぬ空間に居ることに気づいた。

厳密に言えばこの場所の名は知ってはいるが決して普通の人類が生存できる場所では無い。


「あー、宇宙に出るとは…夢か死んだかの2択か。」


人は驚きすぎると冷静になるかの様に思考放棄するらしい。

全く、その通りだ。


「迷える魂よ、目覚めましたか?」


その声は俺の後ろから聞こえた。

振り向くと何も無かった空間に椅子に座る女性が存在していた。


「俺の夢にしては女の趣味が普通だな。」

「夢ではありませんよ、貴方は1度死んだのです。」

「死んだ、ね。」


記憶は鮮明に残っている。

俺は死んだ、と言うか死ぬ選択肢を選んだ。

享年27歳の独身男性、死因は出血多量によるショック死だろう。


「それで、死者に何か用かな?地獄への案内なら要らないよ。」

「いいえ、貴方の人生は理不尽に満ち溢れ困難を極めました。常人では気が狂う様な人生で最後もあんな事に…」

「はっ、やかましいわ。」

「なので貴方に幸福に溢れた、素晴らしい人生を与えようと思います。」


幸福に溢れた人生、それを俺は幾度となく目指して焦がれて、欲した。

人は生きていれば幸も不幸もある、そんな風に言うけれど俺は決してそうは思わない。

目の前の女の言う通りで理不尽は最早俺の隣人で、事ある毎に俺に襲いかかった。

最早懐かしい人生の感想だ。


「なんだ?俺を生まれ変わらせるつもりか?」


冗談混じりに、嫌味ったらしく呟くと女は笑顔を浮かべてこう言った。


「はい、その通りです。」

「は?」

「何を隠そう私は女神、貴方の人生のマイナスは未だ拭い切れてません。

しかしこれからは恵まれた環境で、貴方の能力を必要とする人々の元で第二の人生が始まります。

ですのでどうかご安心を。」


それから女は俺に色々な話をした。

世界渡しと呼ばれる生まれ変わり方の事、魂の話、そして第二の人生についての事。

このまま行けば俺は人類を超えた力を備えた超人として生まれ、自らが望む未来を描ける環境を与えられると言う。

話をする自称女神は終始笑みを浮かべ、優しく語りかけて来た。

とても素晴らしい話、だから俺の答えは直ぐに出た。


「ではこれから世界渡しを行いますがよろしいですか?」

「あぁ、お断りだ。」

「…何ですって?」

「断る、以上!さぁ、地獄へ連れて行くが良い。」

「ちょちょちょ!待ってください!異世界ですよ?未知の力が使えるのですよ?幸福は約束されるのですよ!?」


この手の人間は五万と見てきた。

そう、宗教や趣味の押し付けをしてくる輩だ。

自分の幸福は世界が示した物と錯覚する存在、女神だが何だか知らんが俺は真っ平御免だ。

押し付けする側も何もせず幸福を得ることも同程度に嫌悪対象、つまりは単純に嫌いなのだ。


「他人の幸福は自分の幸福に非ず、それだけだ。」

「それは困ります!貴方みたいに不幸値が高い魂がそのまま堕ちることは推奨されてません!」

「んじゃどうしろって言うんだ?俺だって譲れ無いぞ?」

「それは…」


まさか死んでまで他人に振り回されるとは思わなかった。

しかしこのまま行っても所詮は平行線、どこか妥協点を探さなければ…

こちらの要望と相手の要望、その落とし所は…この辺りか?


「なら提案だ。その世界渡り、だっけ?それはやってやるよ。」

「本当ですか!?」

「ただし条件がある。」

「条件?」

「簡単だ。飛ばせる世界の中で最も過酷な環境は何処か解るか?」

「調べますね。」


女神は目を瞑りその辺が円上の何かが動き続ける。

よく分からないが多分あれは漫画とかに出てくる魔法陣とかなんだろう。


「出ました。」


少しして、女神が結論を出す。


「国家世界と呼ばれる場所になります。

そこでは各国家の力、つまりは財力、人口、個人の強さ、政策等の総合力が競われています。」

「なんだ、地球と同じじゃないか。」

「問題はその世界の受け入れ先は最下位の国家になりまして…端的に言えば詰んでいる国になります。」

「…ほう。」

「正直、能力を付与して送っても難しいレベル…それをなんの能力も無しで行くのは流石に…」

「決めた、そこに今すぐ送ってくれ。」

「はい!?」


壮大なフリをありがとう、女神様よ。

大変盛り上がる内容だ。

最高じゃないか、最下位からの下克上なんてさ。


「無理です無理です!あの世界はただの村人や子供ですら魔法や能力を使います!

それに詰んだ国家、人間以外にも強力な種族の国もある!

ただの人間が出来る事なんて何もありません!」


ほうほう、どうやら女神様は能力無しでは生きる事すら難しいと申しますか…


「上等だ女神ぃ!俺がその国を1位にしてやる、ただの人間が他の猛者達の国を喰らう様を指を咥えて見ていやがれ!」


啖呵を切る。

我ながら直ぐに頭に血を上るのを直したいがこればかりは怒る。

この女神は地球の、さらには人類子可能性を軽視している。

だから見せてやるのだ。

ただの人間?上等じゃないか、見せてやる人類の底を。


「そこまで言うのなら、賭けをしましょう。

なんの力も無くこれから飛ばす国を1位にしたら貴方の勝ちです、私が頭を下げましょう。

しかし国家或いは貴方が死ぬようであれば貴方の負け、大人しく私が定める力を受け入れて下さい。」

「おいおい、それだと俺だけ得してねぇか?」

「それで良いんです!私は貴方に幸福になってもらいたいのです!」

「ははっ、変な勝負だな。」


意地の張り合い、幸福の衝突。

こうして俺の第二の人生が決まった。

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