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女神リベラ

 光に満ちた世界の中に隆志はあった。暖かい「感じ」ではあるが、五感からは何も感じられない。意識だけがここにあるといったほうがよい。


 「ここはどこなのか、夢なのか。」

 夢にしては結構リアルな感じがする。

 「それとも、あの世に来てしまったのか・・・。」

 不安が頭をよぎる。


 ・・・光の中から声がする。それから光が集まったかと思いきや、神々しい人のような存在へとその形を変えていった。


 「異世界の者よ、私は女神リベラ、タイタニアと呼ぶ世界において意思を司る神である。」


 「異世界・・・だと?」

 異世界と聞いて直ぐに思い浮かんだのは、異世界ノベルであった。

その種の作品を何作か読んだことがあり、アニメ化されているのもあったか。その異世界に、まさか自分が来てしまうとは。暫し、驚きが感情を占める・・・。が、すぐに冷静になった。


 「最近、異世界物やファンタジーを読み過ぎたのか。いや、そんな時間そもそもなかった。休日も疲れていたから、寝ている事が多かったし、まあ夢にしては中々の傑作かな。」目の前で起こっている事態を冷静に分析し、解釈しようと試みるものの・・・。


 女神は話を続ける。

 「そなたは、自らが居た世界において命を失い、意識がここへと至ったのだ。」


 「えっ、やはり死んだのか。ここで起こっている事は何だろう。」


 驚きと戸惑いの感情が心を占めた。

 やはり、俺は死んでしまって、この眩しい世界に来たということか。女神の言葉には説得力があり、どうにも納得するしかなかった。

 「異世界の者よ、名は隆志と呼ぶ者であったか、そなたにとって着いた先がここであったのは幸運なことであった。」

 何が幸運であるのだろう、死んでしまったから、もはや幸運もへったくれも無い。女神は何を思っているのだろうか?


 女神はさらに、

「私はそなたを、再び現世へと送り届ける力を持っている。」

 え、現世に戻れるというのか、絶望と諦観の次は希望が心を占める。これほどの感情の起伏を経験した事は生まれてこのかた一度も無かった。


 女神は落ちつきつつも話を続ける。

 「ただし、条件がある、ここは私の願いを聞き入れてくれぬか?」

 「願いとは何か?」


 女神は応える。

 「私のあるタイタニアの世界が消滅の危機に瀕している、そなたはタイタニアを救う力を秘めている。いや、そなたにしかできないだろう、ここに使命としてそなたに託す、この世界の危機を晴らしてはくれぬか。」


 女神は俺に世界を救ってくれと言ってきている。俺は能力者でもなければ、ただのサラリーマンでしかない、何がどう違って「救世主」になっているのか?何かの冗談か?冗談にしては余りにも面白過ぎる。


 少し気を落ち着けた後、女神に問うた。

 「もし、その、俺が、女神様の言う使命を断ればどうなるのか?」

 「その場合、お前は現世での死は確定する。同時に私のあるタイタニアは消滅、お前の意識は永遠にこの世界に留まり続ける事になる。」


 断れば現世に戻れそうにない、現世に戻るには女神さんの使命を果たすしかない。


 隆志は今更ながらに、現世での何気ない、味気も無いと思っていた日常を心の底から恋しいと思った。当たり前の日常がとても大事な事であり、尊いものであることを思い知った。が、ここに来てしまっては簡単に戻れそうもない。

 女神の言うその願いを聞き、タイタニアという世界を救わない事には現世に戻れない、ならばその世界を救うしかない。俺はまだ死にたくはない。いや、ここへ来ている時点で死んだも同然ではあるが。


 「隆志よ、時間の事は気にせずともよい。ここタイタニアに平和が戻れば、そなたを元の場所、元の時間に送り届けよう。急な申し出で混乱しているのは承知しているが、ここは私の使命を果たして欲しい。」


 女神の嘆願を受け入れるしかなかった。


 「突然の事であり、また大変な使命を受け入れた事、このリベラ、直々に感謝する。」険しかった女神の表情が、ようやく穏やかになった。


 「隆志よ、そなたにはアステリア国の見習い魔術師であるアストラガルという人物でタイタニアに送り届けよう、年齢は17歳で身体的には申し分の無い人物である。案ずる事は無い、その世界にそなたの身のある事に矛盾の余地は無い、考える必要も無い。今まで居た世界では、お前は隆志であり、これから暫く居る事になるこの世界ではアストラガルという者である。アストラガルという人物は紛れもなくタイタニアの世界に居る人物である。決して、お前のために造られた存在ではない。」


 「タイタニアで経験を積んでいくことで、様々な能力のあることを思い出していくだろう。また現世において積んできた経験も必ず、意味を成してくるだろう。そなたを異世界に放擲することはしない、また改めてそなたに出会うことになるだろう。」


 女神はそれから一歩、隆志に近づき、隆志の頭を軽く押さえた。心地の良い感覚が体中に広がっていく。

 「これからそなたが迎えるであろう苦難に対し、少しばかり、立ち向かうための助力を授けた。悪しき者たちの術中に囚われぬように。」どうやら女神の祝福を受けたようだ。


 そう言い残すと、女神の姿は消え、元の光へと戻った。と、同時にここでの隆志の記憶も薄らいでいく・・・。


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