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02

「それでは、これからペアと役割りを発表します。スクリーンに映し出しますので、自分の名前を探してください」


 先生の澄んだ声が響き、同時に義足の金属が澄んだ音を立てた。


 次の瞬間、教室前方のスクリーンがふわりと光をまとい白い幕に淡い揺らぎが走る。文字がひとつ、またひとつと浮かび上がり光の粒が宙に舞った。


(わぁっ)


 胸の奥がじんと熱を帯びる。スクリーンに流れる名前を追っていくうちに、心臓の鼓動が速くなった。


 そして——


(——あったっ!)


 操導者の列に浮かんだ私の名前。そのすぐ隣、操縦者の列に並んでいたのは——詩乃ちゃんの名前だった。


 胸の奥がふっと熱を帯びる。思わずスクリーンをジッと見てしまう。隣にある名前が、こんなにも安心をくれるなんて。


(詩乃ちゃんとペア!)


 文字はただ静かに光っているのに、私には眩しく見えた。


 詩乃ちゃんの方を見ると、目をキラキラさせながら私を見つめていた。私と目が合った瞬間、小さく、だけど力いっぱいに手を振ってくれる。


 その様子が何だか可笑しくて、思わず小さく笑いながら私も手を振り返した。ほんのひと時のやり取りで胸が温かくなり、私はまたスクリーンを見る。


(自分の名前は見つけたし、次は優ちゃんやカナタの名前、探してみよっか)


 光の粒が舞い、次々とクラスメイトたちの名前を映し出していく。


「……おっ! あった。……優とかぁ」


 後ろの席から玲央くんの声が上がった。思わず後ろを振り向く。


「えっ、本当っ?」


「うん、ほら。真ん中の下から二番目」


 玲央くんが名前の場所を教えながらスクリーンを指差している。そこには操縦者の列に優ちゃん、操導者の列に玲央くんの名前が並んでいた。


「本当だぁ」


(そっか、優ちゃんは玲央くんとなのか)


 胸の奥にふっと納得のような感覚が生まれる。残るはカナタ。


(じゃあ、あとはカナタか。どこだろう?)


 私はスクリーンを目で追い、最初の方から一つずつ名前を見ていった。そして——


「あ……」


 列の最初の方にカナタの名前を見つけた。その隣に浮かび上がっている名前を確認した瞬間、息が止まる。


(えっ!?)


 そこに並んでいたのは——拓斗。


(まさかのこの二人!?)


 思わず胸の奥で呟いてしまう。


 最近になって私は、拓斗って意外と話しやすいんだと気付いた。だから一緒にいる時は自然に会話もできる。


 だけど、カナタと拓斗は違う。初等部の頃のぎくしゃくした雰囲気ほどではないにしても、どこかよそよそしい。


 言葉を交わせないわけじゃないけど、どんな距離感で接すればいいのかお互いにまだ掴めていない感じ。


 ギスギスしているわけじゃない。でも、確実に空気の端っこに「距離」がある。


 あの卒業式の日、カナタは拓斗に「中等部でもよろしく」なんて挨拶をしていたらしい。だから、てっきり悪い印象なんてもう残ってないんだと思っていたけど……


 スクリーンに浮かぶ二人の名前が並んでいるのを見つめながら、胸の奥に小さなざわめきが広がっていった。


 そっとカナタたちの席の方へ目を向ける。


 拓斗はジッとスクリーンを見上げていた。その横顔は硬くて、何を考えているのかまるで読めない。ただ淡々と名前を眺めているだけのように見えるけど、心の奥までは分からなかった。


 一方のカナタもまた、肘をついて頬杖をつきながら視線をスクリーンに注いでいる。その仕草は何気ないものに見えたけど、少しだけ目が大きく見開かれていて何となく驚いているように見える。


 ペアの発表が終わり、スクリーンに浮かんでいた光の文字がパァッと小さな音を立てて弾け、静かに消えていった。


 教室にはさっそくざわめきが広がる。仲のいい子と組めた人は嬉しそうに声を上げ、予想外の相手になった人は戸惑ったように顔を見合わせている。


 中にはこれまで一度も話したことのない相手と並んだ名前を見つめて、どう動けばいいか分からず固まっている子もいた。


「皆さん、静かに」


 日向先生の声が空気をスッと引き締める。私たちは慌てて姿勢を正した。


「これから、週に二回、五、六時間目を双輪試走の時間にあてます。作戦を考えるのもよし、魔械(マギア)工学棟で乗り物を制作するのもよし、練磨演武場で練習するのもよし。──ただ今日は初めてですからね。まずは“相手を知る”ことから始めましょう。ペアの人と挨拶して、交流を持ってください」


 先生が軽く頷いて「どうぞ」と促すと、教室の椅子が一斉に音を立てた。みんなが一斉に立ち上がり、それぞれのペアの元へ動き出す。


 私も立ち上がり、後ろの席の玲央くんと顔を見合わせる。そして私たちは自然と詩乃ちゃんと優ちゃんの席へ歩き出した。


 私たちが近付いたことに気付いたふたりは、パッと笑顔を見せて迎えてくれた。


 詩乃ちゃんは椅子に座ったまま、勢いよく私に抱きついてくる。


「わーいっ、また莉愛ちゃんと一緒〜♪」


「ふふっ」


 お腹の辺りに顔を擦り寄せてくる詩乃ちゃんがあまりにも可愛くて、思わずギュッと抱きしめ返す。


「二人共すごいわね。クラスも寮も部屋も一緒で、課題のペアまで同じなんて……」


 優ちゃんが、驚きを通り越して呆れたように溜息を吐く。


「マジで? そんなに一緒なの……!?」


 玲央くんも、ちょっと引き気味な声をあげた。


「えへへ〜、羨ましいでしょ〜っ!」


 詩乃ちゃんは、私に抱きついたまま自慢する。


「まあ、仲のいい奴とそこまで一緒なのは、確かに羨ましいな」


 玲央くんは腕を組みながら、素直に認めるように頷いた。


「ていうか……玲央が“操導者”なのね。何か意外だわ」


 優ちゃんが顎に手を添え、ジッと玲央くんを見て呟く。


「なっ! 俺もそう思う! 乗りたかったなぁ!」


 玲央くんは勢いよく同意して、机に手をドンとついた。


「うーん……でも、優ちゃんって体を動かすことなら大体できちゃうから、そうなったんじゃない?」


 私が口を挟むと、優ちゃんは「まぁね」と得意そうに笑った。


「えー、俺だって運動神経はいい方だと思うけどなぁ……」


 玲央くんは、ちょっと不貞腐れたように口を尖らせる。


「もちろん操縦者もできると思うけど……何ていうか、玲央くんって指示を出したり、リーダー役みたいな立ち位置の方が似合う感じがするんだよね」


 言いながら、初日のことを思い出す。私とカナタと玲央くんの三人で昼休みにお昼ごはんを食べた時。


 あの時の玲央くんは、誰よりも早く行動を決めてみんなが鏡の前で迷っている時も堂々と一歩を踏み出していた。食堂に着いた後も、鏡の番号を確認していたり……


 そういう姿を思い返すと、正直、玲央くんが操導者っていうのは、全然違和感がない。


 寧ろ、操縦者を守るために様々な魔法を駆使している姿を簡単に想像できる。


「え〜、そうかなぁ?」


 文句を言いながらも、どこか嬉しそうに笑う玲央くん。その顔に釣られて私も笑ってしまう。だけど次の瞬間、玲央くんの視線がカナタと拓斗の方へ流れていくのが分かった。


 

ここまで読んでくださりありがとうございます。もし少しでも面白いと思っていただけたら、感想や評価で応援していただけると嬉しいです。

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