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「どっちも魔械に関わるなら、詩乃ちゃんは理工系にいくのかな?」
「……算数苦手なやつがいけるのかよ」
拓斗が小さく呟いたのを、詩乃ちゃんは聞き逃さなかった。詩乃ちゃん自身もその言葉を否定しきれないようで、頬を掻いて小さく笑った。
「そうなんだよねぇ、さすがに両方はやりすぎかなぁって思ってるっ」
(となると、部活は調理研究部かぁ)
実は私も、少しだけ気になった部活が調理研究部だった。いつかはお母さんみたいに、料理が上手になりたいと思っていたから。
「……調理研究部、私も気になってたんだよね」
言葉にした途端、詩乃ちゃんはパッと目を輝かせて私の手を掴んだ。
「えーっ! じゃあ一緒に入ろうよっ!」
その期待に満ちた笑顔を見たら、頷きたくなる。だけど私は委員会でも気になるところがあった。
「んー、でも環境整備委員会も気になるんだぁ」
紫の賢者の示す“終わりと始まり”。草木を植え、花を育てて、そして落ち葉を掃き、また新しい芽を迎える。その流れみたいに、賑やかに過ごした学園のイベントや、演習を終えた競技場、その場を整えてまたいつもの静寂を取り戻す。
その営みは、心が洗われる気がする。そんな委員会に、私は惹かれていた。
「そこってあれだろ。『お片付け委員会』だろ」
拓斗が頬杖をつきながら、淡々と言い放つ。
私は口元に手を添えて考えてみた。確かに言われてみると、言い得て妙な例えだと思った。
「あ〜、確かにそうかもね。でも、片付けってスッキリするから、私好きだよっ」
私は笑いながら返した。
「……そうか、変わってんな」
拓斗は呆れたように眉をひそめたが、その口元は少しだけ和らいで見えた。
「莉愛ちゃんっ莉愛ちゃんっ! 一緒に入ろうよぉ! 一緒に料理しよっ!」
詩乃ちゃんが机に身を乗り出して、半ば抱きつく勢いで迫ってくる。
「う〜ん……」
返事を濁した私の胸の中は揺れていた。詩乃ちゃんと同じ部活に入れば、きっと楽しい日々が待っていると思う。だけど委員会との両立なんて、私にできるのか。
そんな私の迷いを見抜いたのか、優ちゃんがふっと柔らかく口を開いた。
「そんなに難しく考えないで、やってみて難しかったら、辞めてもいいんじゃない? 辞めちゃダメなんてルール、ないんだから」
「んー、いいのかなぁ」
自分でも心許なく返す。
「いいのよっ」
優ちゃんは腕を組みながら言い切るように微笑んだ。その笑顔は、胸の奥に溜まった迷いをスッと消してくれる光のようだった。
私は小さく深呼吸をして、決心を言葉に変えた。
「……じゃあ……両方やってみようかなっ」
「わぁーいっ!!」
詩乃ちゃんは弾けるように声を上げ、そのまま勢いよく私の腕に抱きついてきた。まるで子どもみたいに嬉しさを隠せない様子に、私も釣られて笑顔になる。
ふと横目に映ったカナタは、驚いたように目を見開いて私を見ている。
(両方やるなんて、思ってなかったのかな?)
その視線に少しだけ胸がざわめいたけど、私は詩乃ちゃんの温もりに包まれたまま笑みを崩さずにいた。
そんな話をしていると、日向先生が教室へ姿を現した。
「皆さん、席に着いてくださいっ。委員会を決めますよ」
張りのある声に私はハッとして、慌てて自分の席へ戻った。周囲を見れば、談笑していた生徒たちも同じように動きを止め、ぞろぞろと席に着いていく。
さっきまで和やかだった空気が、少しだけ引き締まった。
先生は教壇に立つと、生徒たちを一瞥してから言葉を続けた。
「皆さん教室にいますね。説明と資料にも書いてありますが、委員会には必ず入るようにしてください。……まだ皆さんには関係ありませんが、生徒会に選ばれた方は、委員会からは強制的に抜けてもらうことになります」
淡々とした説明が教室に響く。私は机の上で資料に手を乗せたまま、先生の言葉を頭の中で繰り返した。
(生徒会が最優先なんだ)
ぼんやりとそんなことを考えながら、私は資料の文字に視線を落とした。
「今から委員会を決めます。七つの委員会の人数のバランスが悪ければ相談になりますが、基本的には定員は設けていません。なお、学級委員は風紀委員の中から選出されます」
日向先生の落ち着いた声が教室に響く。説明を終えると、先生は薄い板状の魔械機器を操作して、教卓に置いた。
「では、皆さんにはこれから、この魔械板を操作してもらいます。出席番号順に前に来て、希望の委員会を選択してください」
指示と同時に、クラスの空気が少し張り詰めた。初等部の時は挙手制で決めるだけだったのに、学園ではこうして魔械機器を通して選ぶらしい。
何だか大人びたやり方に思えて、胸がソワソワする。
最初の出席番号の生徒が前に出ると教卓に置いてある、魔械板の前に立ち、魔械義肢を鳴らしてから恐る恐る指先を画面に滑らせた。
カナタ、拓斗、詩乃ちゃんに優ちゃんも前へ出て、魔械板を操作していく。その度に教室に静かな緊張感が広がっていった。
ふと玲央くんは何を選ぶのか気になってそっと後ろを振り向くと、机に肘をついて頭を抱えていた。まだ考えているみたい。
(そっとしておいてあげよう)
そう思い、私はまた前を向いた。教室の前の方から魔械義肢を鳴らす音が定期的に聞こえてくる。
そして私の番がきた。少しだけ緊張しながら日向先生のいる教壇へ向かう。
「……はい、では莉愛さん。どの委員会にするかは決まっていますか?」
「っ、はい」
声が思ったよりも上ずってしまい、慌てて背筋を正す。
先生は軽く頷き、優しく微笑んでから促すように言った。
「では義肢を鳴らしてから、生身の方の手で希望の委員会を選んでください」
言われた通りに左手の魔械義肢を強く握ると、金属音が“キンッ”と澄んで響いた。息を止め、右手をそっと伸ばす。
指先で触れたのは“環境整備委員会”の文字。瞬間、魔械板が光を弾けさせ、私の名前と委員会が結びつく。
柔らかな音が最後に鳴り、記録が完了した。
「はい、ありがとうございます。席に戻ってください」
日向先生の声に促されて、私は席へと戻った。その途中、前へと向かう玲央くんとすれ違う。玲央くんは肩をすくめて険しい顔をして歩いて、どこかまだ決めきれずに迷っているように見えた。
席に腰を下ろしてからも、チラリと教卓の方へ目を向けると、やっぱり玲央くんは魔械板の前で立ち尽くし、何度も画面を見返しては眉を寄せていた。静かな教室の空気の中で、その迷いが一際目立っているように感じられる。
暫く迷って、ようやく選び終えたらしい。玲央くんは深く息を吐き、疲れた表情を浮かべながら席へと戻ってきた。
「……随分迷ってたね」
思わず声をかけると、玲央くんは苦笑いを浮かべた。
「いやー、色んな奴に“一緒にやろう”って誘われちゃって……」
何とも贅沢な悩みだな、と心の中で溜息を吐く。私が羨むよりも先に、口からは別の言葉が零れていた。
「モテモテだねっ」
冗談めかして言うと、玲央くんは肩をすくめつつも、口元を緩める。
「困るわ〜」
そう言いながらも、ニッと笑ったその横顔は、やっぱり少し嬉しそうだった。
そして出席番号最後の子が終わると、日向先生は魔械板を操作して、ジッと見た。
「……いいですね、多少のバラつきはありますが……変更する必要はなさそうですね。助かります」
日向先生の一言に、クラス全体からホッと安堵する声が広がった。みんなが希望の委員会になれたみたい。
「では次に、部活動の入部届の用紙を配ります。入部する場合は、明日の朝のHRに私へ提出してください」
キーン、コーン、カーン、コーン——
日向先生が入部届を配り終わると同時に、六時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
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