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第9話「悪魔族」

1章の最後のエピソードです・・・!

 まだ少しうとうとしているアリシアに、

 

「アリシア・・・!」

 

 と肩を掴んで揺さぶってみる。

 やっと目を開けてくれたアリシアは、五体のブルーオーガを目にしても緊張すらしない余裕のある顔だった。

 トランスフォームした状態でも、あれほどのモンスターは自分の相手にはならないと言わんばかりの顔をしていた。

 一人だけピンチの感覚に陥ったリディアさんは、慎重に狙いを定めて先制攻撃を開始した。

 それを見たアリシアも、首を左右に軽くほぐして戦闘の準備に入る。

 度重なった魔法の失敗で最初からスキルで挑むつもりのようだ。


「アリシア、待て」


 魔力を瞬時にロープのような形で放出する。

 元々、魔力の繊細なコントロールは苦手だった。

 不器用な形でロープと呼ぶには無理があるが、敵を縛るという役目は果たせたのだから、よしとしよう。

 ギザギザな荒縄のような形をしてる魔力で、三体のブルーオーガの手足を同時に封じて動きを止める。

 顔を歪めて力を込めているようだが、巻きつけられた魔力のロープは微動だにしない。

 四肢を封じられた三体のブルーオーガは、地面に縛り付けられたまま、無力にもがくだけだった。

 

 ドカーン!

 

 後ろではリディアさんが残り二体のブルーオーガの岩の棒を必死に躱しながら、しんみりと反撃の矢を撃っていた。

 しかし、元々一体のブルーオーガですら、中級冒険者のリディアさんには手強い相手だ。

 踏ん張ってはいるが、ブルーオーガ2体じゃ、リディアさん一人では歯が立たないだろう。


「なんで止めたのよ、お兄ちゃん!」

 

 アリシアもそれを知っているのか、行動を止めた理由を促す。


「『お母さんってなに?』って訊いたこと覚えてる?」

「・・・覚えてる」

「それの答えを出せそうだから。少し待ってみて」

「・・・・・」


 じれったそうに見えるアリシアは、一旦俺の言葉を信じてそれ以上は前に進まなかった。

 むろんリディアさんを死なせるつもりはない。

 リディアさんが怪我をする寸前、ギリギリのタイミングで助けるつもりだ。

 幸い、リディアさんは戦闘に全神経を集中させていて、こっちがどうブルーオーガと対峙しているのかまでは気づいてないみたいだ。


 俺が思う一般的な母親の意味・・・。

 それは、我が子のためなら何でも出来て、何でも犠牲にしてみせる・・・そういう存在だ。

 自分が経験したモノとは程遠いが、せめてドラマ、アニメ、映画などで扱われるお母さんのイメージはああいうものであろう。

 百聞は一見にしかず。

 俺がダラダラと説明するより、実際に見ておく方がいいだろう。

 これが母親だと。


 遠距離攻撃がブルーオーガのバリアによって塞がれる。

 リディアさんは背負われてる少年から刀を渡してもらう。

 少年はおずおずと刀を渡し、ガクガクと身体が恐れわなないていた。

 かつて冒険者をやっていたというリディアさんの発言を証明するかのように、リズミカルにブルーオーガの岩砲弾を避ける。


 岩砲弾が少年の頭上をギリギリで通り過ぎていく。

 リディアさんの腰をかがめるのが少しでも遅れていたら、少年の頭ごと砲弾に吹き飛ばされていたかもしれない。

 リディアさんもそれを悟ったらしく、唇を強く噛みしめる。

 猛ダッシュで一体のブルーオーガに突進。

 地面に叩きつけられる岩の棒の一撃を躱し、ステップを止めずに無理して更に突っ込む。

 見事に背後を取ったリディアさん。

 ブルーオーガの足首を後ろから斬りつける。

 不気味な悲鳴。

 片膝をついて躓く1体のブルーオーガ。

 動きを止めず。

 駆除するべく。

 そのままもう一度えびらから矢を取り出す。


「『スパイラル・アロー』!」

 

 背後から狙いすました矢が撃たれる。

 風切り音を出しながら頭蓋骨めがけて飛んでいく。

 命中された矢は螺線の衝撃波を発生させ、ブルーオーガの頭はそのまま爆ぜてしまう。

 広範囲に舞い上がる血飛沫。

 ブルーオーガはだらりと地面に倒れる。

 

「あれがお母さんって事だ。以前までは1体さえ倒せなかったのに、今や子どもを・・・」

 

 ドーンッ!!

 

 子供を守るためなら何だってできる。

 いつも以上に強くなれる。

 そんなことを言おうとした瞬間、残り一体のブルーオーガの重いパンチがリディアさんの横腹を強打する。

 その僅かな瞬間に防御の姿勢を構えるが、呆気ないほど空中に跳ね返される。

 布地で固定されていた少年も、芝生の上に弾かれて転がった。


「もう待てない・・・!」

 

 アリシアは今まで見た事のない速さで意気揚々と岩の棒を振るおうとするブルーオーガ―に突撃していく。


「スキル『パンチ』・・・!」


 握りしめた拳をブルーオーガの足首に向けて繰り出す。

 しかし、学習でもしたかのように。

 左足を引きずっている奴は、硬いバリアを重ねて展開する。


 カーン!!

 

 攻撃は命中したものの、バリアのおかげで、それほど大きいダメージを受けてない様子だった。

 いくらなんでもノーダメージはありえない。

 恐らくトランスフォームの影響で身体能力がかなり低下しているんだ。

 まさかここまとは・・・事前に把握しておくべきだった。

 

「ぐわああぁぁぁー!!」

 

 ってことは、俺の魔力も・・・!

 と思った他途端、ブルーオーガたちの吠え声。

 束縛されていた三体のブルーオーガは魔力の共鳴により、四肢の自由を取り戻した。

 俺とアリシア、倒れているリディアさん、そして隣の少年が、一気に四体のブルーオーガに囲まれていく。

 こうなったらまとめて燃やしてやる。 


「エキスプロー・・・!」

「ダメだよ、お兄ちゃん・・!」

 

 溜めていた魔力はアリシアによって阻止され、霧散されていく。

 

「巻き込まれちゃう」

 

 アリシアは何かを決心した顔で周囲の状況をもう一度見回す。

 さっきから立とうとするけど、立ち直れないリディアさん。

 そんなリディアさんの横で母ちゃんって泣きわめく少年。

 次第に包囲網を狭めて迫ってくる巨大なブルーオーガたち。


 目を瞑ってアリシアが、

 

「トランスフォーム、解除」

 

 と言葉を発した瞬間、アリシアの身体が魔力に包まれ、消えていた二本の黒い角が頭から生えていった。

 感情の揺れのせいか、抑えきれないほどの魔力が全身からみなぎる。

 その凄まじい魔力に、アリシア周辺の風景さえ少し歪んでしまう。

 溢れ出る魔力をその両手に纏ったアリシアは姿を消した。


 ドカーンッ!!!


 つんざく轟音。

 倒れるブルーオーガ。

 顔面が潰されている。


 ドーン!!


 倒れるもう1匹のブルーオーガ。

 胸の中央にぽっかりと空洞ができている。

 狼狽えて撤退を図る残り2匹。


 グチョッ。

 ブチッ。


 両手、両足が切られ、周辺の草原は赤黒く染まっていた。

 魔法を撃ち放てないアリシアは、自らの魔力を拳に纏い、それを直接ブルーオーガにぶつけることで爆発させた。

 確かな攻撃手段であると同時に、自分自身もそれ相応のダメージを受ける諸刃の剣のような戦術。

 もはや正体を隠す気はないアリシアは、魔力を惜しみなく放出させていた。


「リディアちゃん、大丈夫・・・!?」

 

 急いでリディアさん達のとこへと駆け出すアリシア。

 しかし、そんなアリシアを見たリディアさんは、

 

「キャアァ―――!!!」

 

 と甲高い悲鳴を張り上げる。

 横腹を片手で押さえながら、もう片方の手で少年を庇うように、自分の後ろへと押しやった。

 アリシアが近寄るたびに、わなわなと震え、恐怖に顔を歪めながら、地面に這いつくばって必死に後ずさりしていく。

 顔面蒼白になって額からは冷や汗が伝っていた。

 

「リディアちゃん・・・?」

「あ・・・悪魔族・・・どうして悪魔族が・・・」

 

 完全に理性を失ったように見えるリディアさんは、視線を黒の角に釘付けにしたまま何度も「悪魔族」と呟いていた。

 泣きわめいた少年も、黙り込んでがくがくと膝が震えていた。

 俺の予想通り、この黒の角はどうやら悪魔族ならではの特徴のようだ。

 でもなぜ、あそこまで怯える?

 ここは魔神が暴走を起こす50年前のイレクシア。

 しかも、俺はまだ魔神にすらなってない状態だ。

 そんな疑問を抱きながらリディアさん達に詰め寄る。

 

「す、すみませんでした・・・!!こ、この度の無礼をどうかお許しいただけないでしょうか・・・!」

 

 地面に低くひれ伏したリディアさんは恐怖を押し殺してるように、震えてる声で言葉をなんとか紡いでいた。


「どうした、いきなり・・・?」

 

 まだ何も気づいてないようなアリシアは、心配そうな顔でリディアさんの後ろに隠れている少年の額に手を当ててみる。

 

「アリシア様・・・! ど、どうか、わたくしの愚かな息子の悪ふざけだったとお見逃しいただけませんでしょうか・・! 本当にお願い申し上げます・・・!」

 

 地面に顔を突っ込んでいたリディアさんは、草と泥にまみれた顔面をゆっくりと上げた。

 アリシアの言葉に聞く耳を持たず、ひたすら地面に頭を打ち込みながら許しを求めていた。

 

「リディアさん、誤解があるようだけど・・・」

「容顔を拝見したにも関わらず、ご尊名を存じ上げなくて申し訳ございません・・・!せめて息子だけでも・・!!」

 

 もうダメだ・・・。 

 完全に頭が暴走してる。

 気が気でない状態だ。

 俺は悪魔族だけど、中身は人間です・・・なんて子供じみた言葉を信じてくれるような状況では、もうなくなってしまった。

 以前みたいに普通に会話をするのも不可能だろう。

 ならばなぜここまで恐れるのか、「悪魔族」というのはどんな種族なのか、せめて役立つ情報源として利用するしかない。


「トランスフォーム、解除」

 

 頭から爪先まで魔力に覆われ、ほの明るく光っている。

 消えていた頭上の黒い角が再生されていく。

 この世界で俺は、表向きには悪魔族の姿をしている。

 中身は普通のプレイヤーですなんて言ってもこの先、誰も信じてくれないだろう。


 絶え間なく目に飛び込んでくる雨滴のせいなのか。

 あるいは、理由もなく恐れられているせいなのか。

 それとも、土砂降りの大雨でできた水溜まり映る悪魔族の自分の姿が目に入ったからなのか。

 形容しがたい不機嫌さに襲われる。


「俺は・・・悪魔族のアシュタロス。素直に答えるとしたら命までは取らない事を保証しよう」

 

 威圧するつもりで少しばかり魔力を放出させ、地面と周辺の木々を揺らす。

 魔力を感知できないリディアさんでも、今ので魔力の強さがある程度伝わったはずだ。

 

「か、感謝いたします・・・!」

 

 草の葉と泥で顔が汚れているリディアさんは、そんな事はどうでもいいかのように、しばらくの間、何度も感謝の言葉を発していた。

 リディアさんの話によると、人間族には古くからの言い伝えがあるらしい。


 今から200年前、イレクシア歴1000年に起きた第一次天魔戦争。

 悪魔族の魔王は、ついに初代魔神へと神化した。

 神化を成し遂げた初代魔神はみなぎる力を抑えきれず、イレクシア世界を支配するべく、戦争を起こした。

 初代魔神の命令に従い、全魔族は集結して攻撃を開始したとの事だ。

 イレクシア世界の平和を望んでいた天使族の首長である天神は、人間族と亜人族と連合し、魔族に勇敢に立ち向かった。

 その結果、偉大なる天神は邪悪な魔神を含めた、戦争の主犯である全ての悪魔族を絶滅させる事ができたのだ。

 しかし、イレクシア世界は既に魔神によって五割以上破壊され、もはや生命体が住めない環境となってしまった。

 天神は最後に自らの命、つまり生命力を捧げてまで、イレクシアを再び生命体が住める環境へと復元させたらしい。

 残りの魔族は瓦解し、今や各魔族の勢力も大分弱っているとの事だった。

 確かストーリークエストで、なんとか戦争ってやつを見た覚えがあるような、ないような・・・。

 道理でここまで恐れるわけだ。

 まさに世界を滅ぼしかけた種族が目の前にいるのだから。

 

「ア、アリシアはそんな怖い事しないし・・・」

「佐用で御座います・・・!」

 

 リディアさんと少年の目は完全に恐怖に支配されていて、俺たちが何を言おうとも、そのまま耳に届く気配はなかった。

 これ以上の会話は無駄だ。


「下がっていい・・・」

「本当に感謝いたします・・・!」

 

 横腹の辺りが赤い血液で滲んだリディアさんは、もう一度少年を背負ってローブのような布地でしっかりと固定する。

 治癒系の魔法を持たない俺には、ただ見ていることしかできなかった。

 急所を外し、命に別条がないことが、罪悪感に苛まれる俺にとって唯一の救いだった。

 深くお辞儀をしてから振り向きもせず、大粒の雨に打たれながら森の奥へと姿を消していった。

 アリシアは何も言わずに、消えていくリディアさんの背後を眺めていた。

 

「アリシアとお兄ちゃんは皆から怖がられるんだ・・・」

 

 ぽつりと声を漏らしたアリシアの目から雨の粒が伝って地面へと流れ落ちる。


「お兄ちゃん・・・これがお母さん・・・ってことだよね?」

「・・・そうだね」


 少し複雑な顔になったアリシアはしばらくの間、押し黙ってしまった。

 アリシアの母親は、はたしてどういう人なんだろうか・・・。

 激しく草原を叩く雨はアリシアと俺の会話を遮っていた。

 

「アリシアのお母さんも、ああしてくれるかな・・・?」

「あぁ・・・」

 

 俯いたアリシアは、切なさのこもった声で独り言のような小声を零す。

 その質問に、独り言に、偽りになりかねない返答をしてしまう。

 

「結局お名前・・・当てれなかった」

 

 地面を向いてるアリシアの顎先からいくつかの雫が追加で落ちていく。

作品に書かれた以上に、アシュタロス君は罪悪感を感じています・・・!

いよいよ、本格的な旅が始まる2章開始です!

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