ハイネの背後に潜む影
僕の新しい仕事は、オザキさんが開発している「健康サプリ」の製造の手伝いだった。と言っても、僕が任されるのは単純作業ばかりで、実際に何をしているのか全容は見えない。錠剤を詰めたり、ラベルを貼ったりするだけだ。
「このサプリメントがね、人々の心と体を癒すんだ。タダシ君も使ってみたら?気持ちがスーッと楽になるよ。」
彼の言葉に少し引っかかりを感じながらも、僕は深く考えないようにしていた。ここにいる皆は、「正しい」ことをしているのだと信じたかったからだ。
そんなある日、施設内で事件が起きる。
「ここは狂ってる!みんなオカシイよ!」
女性の叫び声が館内に響いた。その声は切迫感に満ちていて、僕は思わず足を止めた。廊下の先では、若い女性が警備員たちに取り押さえられている。その目は虚ろで、身体は痙攣しているように震えていた。
「そっちを押さえろ!大丈夫、落ち着くんだ!」
必死に宥める警備員たちの声と、彼女の叫びが交錯する。
「彼女は、可哀想なことに最近頻発している強姦事件の被害者なんだ」
突然背後から声をかけられ、振り向くと、そこにはハイネ代表が立っていた。
ハイネ代表――彼は真の会の創設者であり、絶対的なカリスマだ。その中性的な顔立ちに、冷たい青い瞳。白銀の髪が肩にかかる様はどこか聖人のようでもあり、悪魔のようでもあった。
「フフ、私が居ちゃ悪いかい?」
「そ、そんな!ただ、驚いてしまって……」
「嬉しいよ、タダシ君がそう言ってくれるなんて」
彼は薄く微笑み、僕の肩に手を置いた。その一瞬で、僕の体が軽くなるような感覚に襲われた。
「彼女のこと、頼んだよ。君ならできると信じているから」
そう言うと、彼は黒いリムジンに乗り込み、あっという間に姿を消した。
その後、僕たち若い会員が研究所のラボに集められた。オザキさんがカプセルの入ったケースを配り始める。
「これは鎮静薬。まぁ、聞こえは悪いが、睡眠薬みたいなものだよ。あの子のために使ってあげて欲しい。」
「はい!」
僕たちは声を揃えて答えた。
だが、その時、アヤ先輩の様子がおかしかった。
「アヤ先輩?どうかしたんですか?」
「タダシ君……知ってた?さっきの彼女……あなたと同期の理学部の子だって。」
「えっ……?」
アヤ先輩は涙を堪えられず、泣き崩れてしまった。
「僕……ハイネ代表に頼まれたんです。だから、犯人を捕まえましょう!」
そう、僕は思い込んでいた。ハイネ代表の頼みならば、それが正義なのだと。僕の中で真実と嘘の境界線が徐々に曖昧になっていった。
その頃、リムジンの中でハイネは助手の女性にスケジュールを確認されていた。
「次は理生党の代表との打ち合わせです。それから……。」
「うん、大丈夫だよ。」
窓の外を見つめる彼の視線の先、暗雲が立ち込め始めていた。
「雲行きが怪しくなってきたね。」
そう呟いたハイネの顔には、どこか満足げな微笑みが浮かんでいた。