一章その3
紙に書いてあった集合場所に行くと馬車が三十台程用意されている。
「こんなに沢山...」
驚いていると隣から声をかけられる。
「えぇ、本国の方から船団が来ますからね。」
リベルだ。
「なんでお前がここに......」
そう思ったがリベルは一応俺の上司だ。重要そうな任務だから来るのはおかしくはないが。
「いや、それよりも船団ってなんだ?」
本国、船団。どちらも聞いた事がない。
「あれ?言ってませんでしたっけ。この時期になると毎年本国の方から船団が物資を持ってくるんですよ。」
「どうして?」
リベルの話からはいまいち本国のメリットが思いつかない。
「ほら、あっちには魔物がいませんから。魔物由来の物質と交換する為ですね。」
「ふーん。」
正直言ってつまられそうだ。つまらない程平和な方がいいのだが、せっかく兵士になったのだからヒーローになる機会が欲しい。
「ふーん。ってなんですか。せっかく私が教えてあげてるんですよ。」
リベルがこちらをジトっと見ながら言う。
「まぁ、少しは役に立ったかな。それよりもほら、そろそろ行かないとまずいんじゃないか?」
俺が指を指した先には馬車の集団が今か今かと待ち侘びていた。それを見たリベルは少しあたふたしながら出発の令を出した。
結局その後港に到着するまで、俺は魔物の一匹ともすれ違うことなく馬を操るだけだった。魔物が居ないのはいい事なのだが、自分の名をあげる滅多にないチャンスが何もないまま終わるのは寂しい。
港に到着すると船団が見えてきた。軽く数えてみても10隻はいる。そして一つ一つが50mはあり、巨大な水車のようなものが付いているのが見えてきた。それは、今まで日本で見てきた船から見たらおもちゃのような船だったがこの世界にも慣れてきた自分には日本にいた頃に見たアメリカの艦隊と同じくらい凄く見える。
それに見惚れていると、突如中心に巨大な水柱が立ち、船が吹き飛ばされ粉々になった。
それをみた他の船が水柱に向け砲撃を行うが次々に破壊されていく。その度に空に投げ出される人影が見えては形を変えていく。その様は今まで見てきたどの戦争映画よりも残酷で非現実的に見える。そして、全ての船が沈み砲撃音が止んだときそれは姿を現した。大型の触手を多数持つ巨大な化け物言わばクラーケンがそこにいた。
「リベルどうなってるんだこれは?!」
そう叫びながら俺は血相を変えリベルがいる馬車に突っ込んでいた。
「あっ、」
そしてそこに、リベルはいた。
しかし、まるで地獄でも見てきたかのように怯えている。
「分からないんです。魔物は海にいないはずなんです。こんなのあり得ないんです。こんなこと、こんなこと!お父様お母様お兄様あっ、私は、またっ、つっ、うああぁ」
リベルは壊れたように泣き出した。
リベルがこの光景に何を思ったのかは分からなかった。こういう時はやさしい言葉の一つでもかけてやるべきなのだろうでも俺は見ていられず馬車を出た。あくまで俺は部外者で優しい言葉を見つけられる程彼女もこの世界も知らない。
もう一度海を見るとさっきの惨劇など嘘のようにすっかり静かになっていて化け物の姿は何処にもない。
波打ち際に目をやると千切れた腕が少し赤い波に打たれ木片などと共に岩に叩きつけられている。ほんの少しの布を纏いふらふらと赤い路を海に引きながら傷ついていくそれを俺はただただそれを見つめることしか出来ない。
最近忙しくなってきて中々投稿出来ずにいますが、完結まで付き合ってもらえると嬉しいです。