一章 デイブレイクその1
...夢...夢を見ていた気がする...長い夢を、
〜〜〜
2006年4月9日
その日はよく晴れていた。
「おーい、ハジメ!次行くぞ!次!」
「まって下さいよぉ、タカハシさんまだ電話できてないんですよ。なんでテレホンカードが使えないんですか。」
俺は公衆電話を使おうと探すがない。
「見せてみな、ってこれicテレカじゃねぇか⁉︎よくこんなの持ってるなぁ。」
「えぇ、上京する前に母から使わないからって渡されたんです。」
「そうか、残念だけど都内でもこれを使える場所は少ないしそもそも廃止されたらしいから諦めろ。」
「そんなぁ〜。」
俺は渋々現金で公衆電話を使い会社への連絡を済ませた。しかし、戸惑っている間に次の仕事は迫っていた。
場所は水道橋のビルだ。
「そういえば新庄引退するらしいな、まだ出来そうな気もするけどもう歳なのかなぁ。」
タカハシさんが東京ドームの方を眺めながら呟く。タカハシさんは野球が好きだからかよく野球の話題を振ってくるがゲームでしか野球をやってない俺は中々ついていけない。
「まぁ、あの人は面白いですし芸人にでもなるんじゃないですかね。あ、ほらあそこのビルですね。」
気がつくとビルまで来ていた。路地裏に入り口があり、狭い通路とショボいエレベーターがある都会らしいビルだ。
俺達がビルに入ろうとした時、携帯電話の着信音がなった。どうやらタカハシさんの妻かららしい、仕方ないので俺は先に行くことにした。
「しっかし、都会のエレベーターは狭くて慣れないな。あッ?」
俺は名刺入れを確認しようと胸ポケットに手を入れたがそれにより名刺入れはエレベーターの外に落ちてしまった。すぐさま俺は名刺入れを拾おうとする。しかし運が悪かった。
「チッ、早く開けよ、えっ?ガッ⁉︎⁉︎」
エレベーターは古いからか俺の体が半分出たところで扉がしまってしまい、安全装置も働かず上に登り出した。
最後に見えたのはそれに気が付いたのか慌てて駆け寄ってくるタカハシさんだった。
だがそれさえ見えなくなり俺の体は強く打ち付けられ、気を失った。
次に目が覚めたとき俺は平原にいた。怪我はしてないし服装もビルに向かった時のままだった。見渡しても山が見えない関東らしい場所ではあったが、明らかにおかしいのはこの平原がどこまでも続いていてどこにもビルなどない、まるでアニメで見たような平原だ。
「ンッ?なんだあれ」
辺りを見渡していると牛のような動物がいた。しかし牛と言うには強そうだし、闘牛とは違い角が額に一本生えてるというヘンテコなのだった。
まぁ、ああいうのには関わらない方がいいだろう。
とりあえず、動かないことには何も起こらない。そう決心した俺は歩き出した。
程なくして川が見つかった。大抵川沿いに進めば何かあるだろうから俺は歩いた。しかし何も見つけられないまま海まで来てしまった。もしかしたらsfのように人類が滅びて何万年も経っているのかもしれない。一瞬そう考えたが、そもそもコールドスリープも何もない時代に死にかけた人間がいきなり完全に復活して最後の人類になると言うのはいくら何でもあり得ない、ならここは死後の世界なのだろうか。
色々と考えてみたがどれも納得できるものではなく諦めた俺は寝た。
翌朝、俺は誰かに呼ばれて目を覚ました。
「あっ、生きてたんだ!よかった〜。」
そう言っている相手は金髪蒼眼の少女だった。
「すまないけど、誰?」
「私はリベル・エレクトリッシュ・ウェルト。リベルって呼んでね。」
目の前の少女は中々の大物のようだ。初対面の人にフルネームを伝えてくる高そうな服を着た日本語ペラペラの外人の少女など余りいないだろう。
「日本語、上手だな。」
俺は褒めたつもりだったが少女は首を傾げながら言った。
「ニホンゴ?わからないけど、ありがとう。」
「うん?日本語を知らないのか?Japaneseも?」
「うん。」
俺は困惑した。今どきヨーロッパで日本語を知らない国があるとは思わなかったのだ。
「じゃあ何語を話しているんだ?」
「ドクパ語だよ。」
聞き覚えのない単語に思わず聞き返す。
「ドクパ?」
「そうドクパ。地域によって呼び方が違うらしいから異邦人のお兄さんにとったら馴染みがないのかな。」
全く聞き覚えのない単語から考えるにどうやらここはヨーロッパじゃないのかも知れない。これ以上この話を続けると不審がられるだろう。
「あ、あぁ、まぁな。それより街とかはないのか?」
「なるほどね、ほらあそこにお城が見えるでしょ?あそこを中心とした街がミュベン。」
言われた方を向くと確かに洋風な城が見えた。だが、余計に訳がわからない。ミュベンやリベルという言葉からしてドイツとかの辺りのヨーロッパなのだろうけど、気候はどう考えても日本のそれに近いし、日本語とほぼ同じ言語など聞いたことがない。もしかしたら俺はちょっとだけ何かが違う世界にあの事故のせいで転移した。そう考えるくらいしか俺は現実を受け入れる手段を持っていなかった。
(ブォーン)
「キャァッ」
しかし、聞こえてくる悲鳴が俺を現実に呼び出した。
「リベルか?何、が...」
振り向くとそこには木に打ち付けられたのか血だらけで木に寄りかかっているリベルと触手?を持つ謎の生物があった。
「な、なんだよこれ......」
触手がこちらに向かってくる。
「くっ⁈」
間一髪で避けるも、衝撃波により体勢が崩れる。
そして、触手は畳み掛けるように残りの触手全てを向かわせてくる。
当然、避けられる訳がない。
「グアッ!」
触手に弾き飛ばされ、とてつもない痛みが体中を駆け巡ったが一瞬で収まった。
うまく動かなくなった首を動かし、下を見ると腹の辺りに太い木の枝が生えている。否、刺さっていた。
それでも触手の化け物はこっちに迫ってきている。
なんとか動こうと思ったが、右手以外は変な方向に曲がり動かない。更に視界もぼやけてきた。もしかしたら死ぬのかもしれないそう思ったが実感が湧かない。もう痛みどころか怖さまで感じなくなってきた。
「また......中途、、はん、、ぱか、よ.....」
声にもならない少しの震えは風に流され止まった。
......
......
hajime:?
hajime:またか。また死んじゃったか。
hajime:目も口も、いや、体の全てが動かない。
???:やぁ、
hajime:また声がする!だが、話しかけることも逃げる事も出来ない。
???:君の考えはわかる。怖がる必要はないよ。あと、君にはまたあの世界に戻ってほしい。
hajime:訳がわかない。とにかくもう死ぬのはごめんだ。それに戻るなら2006年の東京がいい。
???:それは不可能。君が存在できるのはあの世界だけ。でも、かわりに君に死なないですむだけの力をあげよう。強力な力だ。使い方次第では君の望む全てが手に入るさ。
hajime:もういやなんだほんとに楽にさせてくれ。
???:君にその権利はない。君を苦しめたい訳じゃない。ただ与えられた自由を楽しんで欲しい___
......
......
目が開いた!そう思った瞬間目に飛び込んできた景色は触手に吹き飛ばされボロボロになった自分の体だった。どうやら死んだわけではなく一瞬気絶しただけだったようだ。しかし、ただ一つ気絶する前と違う事があった。
右手に銃が握られている。化け物は気絶する前と同じくこっちに迫ってきている。やるなら今しかない。
ハジメが銃口を向けると同時に化け物が触手を伸ばした。
発砲音が響いたのと同時に触手が木を貫き、
土と破片が空をまった。
煙が晴れた時生きていたのはハジメだった。
「はっ、はは!い、生きてるぞ!勝ったんだ!俺は!」
負けた触手は崩れて光になった。
そして、ハジメも糸の切れた操り人形のように地に伏せた。
もしかしたらこの時点で俺の見ていた夢は悪夢に変わっていたのかもしれない。
次回予告
不運も幸運も唐突なもの。そしてそれに抗えるのは準備。
次回「ニューワールド」
紅神空です。
本作は私が1年半程前に書いていた試作型異世界の再編集版みたいなものです。ぜひお楽しみください。