お空に帰ろうとする我が子
襖を開けると、この秋で6歳を迎える我が子が、勉強机の上を漂っていた。
両腕を広げ、まるで楽しんでいるかのように、私に向かって歯列を見せている。
まったくもう、この子ったら――。
放っておくと、知らないうちに宙に浮く癖が治らない。
その時点で気づいたら足首をつかんで引きずりおろせばすむ話なんだけど、それでも気づくのが遅れたら、またたく間にお空に向かって飛んでっちゃう。
油断も隙も、ありゃしない。
この子が他の子より特殊だったのは、この点だった。
小さいころから、突然ふわふわ宙を舞い、いちいち見守ってやらないと危なっかしくて見ていられなかったのだ。
家の中なら天井が邪魔してなんとかなるけど、外で遊ばせようものなら、きっと手の届かないところまで飛んで行ってしまい、取り返しのつかないことになる。
このことについて、何度も夫と議論を重ねた。
――もし、最悪そんなことになったらどうするの? 四六時中、この子を見張っているなんて無理よ。
――そのときはそのときで、あきらめるしかないさ。それがこの子にとって、運命だったんだと。
――よく簡単に、運命のひと言で片付けられるわよね!
せめてあと1年、7歳まで、無事に育ってくれたらいいんだけど。
まだ身体も心も未熟だから、いつなんどき、またぞろ宙を浮かび、お空の方へ、糸の切れた凧みたいに飛んでっちゃうかもしれない。
私の心配は尽きない。
昔の人は言ったらしいね。――7つ前は神のうち、と。
だから病弱で、運に見放された子は、神さまが帰っておいでって、手招きしてるのかもしれない。
せっかく生まれてきたのに、早くこっちへおいでって、なんだかおかしな話だよね。
了