表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の生命火  作者: 清水花
8/11

半年後

 過ぎゆく年月は歳を重ねるほどに早くなる。


 茶々丸が家族になってからおおよそ1年と半年が過ぎた夏の終わり、雲ひとつない見事に晴れ渡ったその日、柴丸は静かに永眠した。


 仔犬の頃から大きな病気や事故もなく育ったという柴丸は、家族みんなに見守られ安らかに眠りについた。


 16年と半分、柴丸の寿命だった。






 もともと覚悟はしていた。


 食事もほとんど摂らなくなりお気に入りのクッションの上から1歩も動こうとしなかったから、僕達家族はお別れが近いことを察していた。


 母さんや海未は毎日泣いていた。


 父さんも僕も自然と口数が減り、家の中に重苦しい空気が漂っていた。


 茶々丸もそんな柴丸の変化を感じ取ったのか、隣に寝そべり1日中心配そうに見つめていた。


 そしてとある日の夕食の際、母さんの提案で柴丸にありがとうを伝えようという話になった。


 すると海未が柴丸が家に来てからの思い出をみんなで振り返りたいと言い出し、仔犬の頃から何枚も撮影した思い出の写真を見ながら僕達家族の歩んだ軌跡を辿ることにした。


 僕達は思い出のアルバムを手に柴丸のもとを訪れ、柴丸を中心に囲って何気ない日常や旅行先で撮影した写真1枚1枚を見ながらそれぞれの思い出を語った。


「あ、見てこれ、これは柴丸のお母さんと兄妹達なのよ。柴、みんなのこと覚えてる? 柴が1番最初に父さんのもとにやってきて抱っこされたのよね、父さん一目惚れしちゃってすぐにこの子に決めたって言ったのよ」


「ああ、今でもはっきり覚えてる。雷に打たれたみたいにビリリっときてな、帰りの車の中で名前は何にしようって母さんと話したんだ」


「あら、これがみんなで撮った最初の1枚じゃないかしら?」


「母さんに抱っこされてるの、私? 何で泣いてるの?」


「柴のこと怖いって言ってたのよ」


「はっはは、全く吠えてもいないのに何でかな? 湊はすぐに仲良くなったな」


「うん、なんとなく覚えてる。すごく可愛いって思ったんだ」


「これは柴が1歳くらいの頃ね、散歩の途中ですごく吠えてくる犬にびっくりして怯えてる時よ」


「そうそう、それからあの家の前を通るのを嫌がるようになって、散歩のコースを変えたんだ」


「これはドライブ旅行に行ったときの写真。柴はもともと大人しい子だけど、珍しく車の窓から顔を出して興奮していたな」


「ええ、そうだった。公園を散歩してたらすれ違う人達がみんな可愛い可愛いって撫でてくれて、喜んでいたわ」


「あ、このクッション、こんな昔からあったんだ!」


「そうそう、駅近くのホームセンターがオープンした時に買ったんだよ。湊がこれが良いって選んだの、覚えてるか?」


「そうだっけ? 覚えてないよ」


「すごい歴史あるクッションなんだね」


「そうね、ずっとこのクッションと一緒だったものね」


「あ、おじいちゃんとおばあちゃんも写ってる!」


「家に遊びに来てくれた時の写真だな」


「僕の高校入学の時の写真だ」


「これは私が中学生になった時の写真!」


「あ、茶々丸が写ってる。僕が連れてきてすぐの時だ」


「うわ、こんなに小さかったっけ?」


「早いもんだな、時間が経つのは」


「そうね、本当に」


「ーーーー柴、家に来てくれてありがとうな。お前のおかげで本当に楽しい思い出がたくさん出来たよ」


「ありがとうね、柴。あんたに出会えて私は本当に嬉しかった、ありがとう」


「柴、大好きだよ。私が落ち込んでる時もそっと励ましてくれて、ありがとう。ありがとう。たくさんの思い出をありがとう」


「柴、子供の頃からずっと一緒に遊んでくれてありがとう。僕は毎日楽しかったよ。それに茶々丸に優しくしてくれてありがとう。たくさんの楽しい思い出を本当にありがとう」


 ありがとう柴丸。本当に大好きだよ。


 僕達は家族みんなで柴丸を撫で感謝の思いを伝えた。


 柴丸は静かに眠るように、息を引き取った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ