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猫の生命火  作者: 清水花
5/11

仔猫の名前

「可愛いー、ほらほらっ、いっぱい飲んで、可愛いー」


 2階の僕の部屋で妹の海未が仔猫にミルクをあげている。


 そのすぐ側では母さんが心配そうに見守っている。


 仔猫が家に来てからたったの3日しか経ってはいないが、その成長ぶりは目を見張るものがある。


 出会った当初は身体の大部分が毛の生え揃っていないピンク色が目立っていたが、今は多少毛が伸びてきておりトラ柄模様などもはっきりと見てとれるようになってきた。


 そんな仔猫の成長がとても嬉しいと感じる。


 僕が仔猫の成長ぶりをまじまじと観察していると、1階から僕を呼ぶ父さんの声が聞こえてきた。


「ーーーーなと、湊、ちょっと手伝ってくれ」


 僕は1階へと降りて玄関の方へと向かう。


 玄関にはホームセンターの買い物袋を手に下げた父さんが立っていた。


「おお、悪い悪い、荷物下ろすの手伝ってくれ」


「うん、いいけど、なに?」


 僕は言いながらサンダルを履き父さんの後を追った。


「ちょっと大きなものなんだ」


「大きなもの?」


 DIYで使う木材か何かかな? なんて考えていると父さんの車へと案内された。


「これこれ、1人じゃさすがにな」


 開かれたバックドアから父さんが何かを取り出そうとしている。


 中を覗いてみると長方形のダンボールで包装されたものだった。


 その表面には【3段キャットケージハンモック付き】と書かれている。


「えっ? 父さん、これ」


「ちょっと良いやつ買ってきたんだ」


 そう言いながら父さんは照れたように笑う。


「まだ赤ちゃんなのに」


「すぐに大きくなるぞ、本当にすぐだ。あと玩具なんかも買ってきたから」


 父さんはとても生き生きとそう口にする。


 仔猫を飼うのがたまらなく嬉しいようだ。猫アレルギー持ちだとはとても思えない。


「ありがとう、父さん」


「ほら、そっち持ってくれ、せーのっ」


 僕達は2人がかりでケージを運び終え、その他の荷物も全て裏口へと移動し終えた。


「ふぅっ、ありがとう、助かった」


「すごいいっぱい買って来たんだね」


「選んでると楽しくなってきて、ついな」

 

 裏口にずらりと並べられた荷物の山に柴丸も少し興奮している様子だ。


「さて、後は組み立てるだけだ」


「手伝おうか?」


「ああ、ドライバー持って来てくれるか?」


「うん」


 僕がドライバーを取りに裏口から出ようとすると、柴丸はいつものクッションの上から立ち上がりのそのそと父さんの近くまで歩いた。


 どうしたのかな? と思い僕が観察していると、柴丸はお行儀良く座り大きな鼻息をふんっとひとつ漏らした。


 たぶん、応援してるぞって事なのだろう。


「おー、よしよし、ありがとうな柴」


 父さんは柴丸の頭を撫でた。


 どうやら想いは伝わったようだ。


 僕がドライバーを届けると作業はスムーズに進みほんの10分くらいでケージは完成した。


 数箇所ネジを締めただけなのに、すごく立派なケージが出来上がった。


 出来上がったケージを芝丸のケージの隣に置いてみる。


 新築のケージに柴丸も興味津々の様子で熱心に匂いを嗅いでいる。


 仔猫がこのケージを使うのはまだまだ先なんだろうけれど、あの目覚ましい成長ぶりからすると父さんが言うように本当にすぐその日が来そうである。


「よーし。うん、いいじゃないか。可愛らしいデザインだな」


「早く使えるようになると良いね」


 僕と父さんは裏口を後にして居間へと戻った。







 居間に戻ると母さんと海未がテレビを見ていた。


「あの子は?」


「今お腹いっぱいで寝てるー!」


「そっか」


 僕と父さんもこたつに入ってくつろぐ。


「ケージの方はどうだったの?」


「すごく立派なものが完成したよ、父さんのおかげだ」


「早く使えるようになってくれるといいんだがな、芝もきっと楽しみに待っているよ」


「それにしてもお父さんよく許可したよね、アレルギーなのに何で?」


「ん? うーん……、可愛かったから、かな?」


「可愛いかったから、って……それでアレルギー出たらどうすんの? 直接触れなくても抜け毛でアレルギー出たりするんじゃないの?」


「うん、そうなんだ。だから父さんも色々調べてみたんだ。アレルギーは猫の品種によって強く出たり少ししか出なかったりするらしくてな。もともと父さんのアレルギー自体も軽いもんだし、なんとかなるかなって……現に今のところ何の症状も出ていないし」


「へぇ、じゃあ父さんとあの子は相性がいいって事なんだ!」


「はっはは、だといいな」


 本当に、本当にそうあってくれたらいいのに。僕は切実にそう願った。


 父さんだけがあの仔猫と触れ合えないのはあまりに可哀想である。


「あ、そうだ!」


 と、海未は一段と大きな声でそう言った。


 僕達は海未の方へと意識を傾ける。


「あの子の名前は? 飼うんだったら名前つけなきゃ!」


 海未ははしゃぎながらそう口にする。


 でも、確かにそうだ。家で飼うのなら名前をつけてやらないと、いつまでも仔猫と呼び続ける訳にはいかない。


 恐らく全員がそう思い、家族揃って天井を見上げる。

 

 海未がいの一番で口を開いた。


「そうだなー、背中が茶色でお腹が白いからカステラとかどうかな?」


 カステラ? 海未を除く全員が小首を傾げた。


 数秒の間をとって、母さんが控えめに口を開いた。


「きな粉ちゃんってどうかしら?」


「可愛い!」


「悪くないな」


 海未と父さんは中々の好感触のようだ。もちろん僕も悪いとは思わない。


「湊、お前は何かないのか?」


 父さんに促され僕は自身の中にあるベタな名前を戸惑いつつも口にする。 


「柴丸の妹分だから、茶々丸(ちゃちゃまる)なんてどう、かな」


「茶々丸!」


「あら、いいじゃない」


「ふむ、柴丸も喜ぶかもな」


 と、僕の予想に反してかなりの好感触のようで、仔猫の名前は茶々丸に決定した。


「茶々丸、起きたかなー⁉︎」


 海未は居間を後にして仔猫の、茶々丸の様子を見に行った。


 白井家の新たな家族、茶々丸が誕生した瞬間だった。




 


 


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