第3話【暴風剣(テンペストソード)】
『犯人の使用トレイトは火、雷、闇属性。全員が「中位級」と見られます』
「へぇ〜全員が中位のトレイト持ちで銀行強盗なんてなんだか珍しいねぇ〜」
「中位の能力が使えるのなら普通に暮らせるくらいだからな、馬鹿なことして人生を無駄にする奴くらいしか銀行強盗なんて真似はしないだろう」
この世界は「初級、中級、上級、特級、究極」という順番に「特性」の強さが分けられる。
中級のトレイトは一般的な戦闘ができる程の能力だ
ちなみに究極の中の最上級が俺たち「六星魔術師」だ
「で、どうする?こっちから仕掛けようにも民間人が人質になってる。無理な突撃は無理だよ」
「そんなこととっくに解決方法は出してある」
「早!」
「だいたい事件の概要がある程度分かっているのなら現場への移動の時に色々な方法を考えておくものだろ」
全員が中位トレイト使い、銀行強盗となると必然的に人質を取っていると予測できる
だがこの脳筋バカことシルフィはなんでも物理で解決しようとする。今回は人質を取られているとわかったから無理な突撃をしなかったが見えていなかったら今頃敵のど真ん中で竜巻起こしてぶっ飛ばしているだろう
「まぁまずはあの真ん中に居る男が浮かせている火の玉をお前の必要最小限の竜巻で消し飛ばす、その隙を見て俺が縄で横2人を縛り上げるからシルフィはその隙に中央の男をなんとかして倒してくれ」
「まぁまぁ強引だけどいいや。じゃあ作戦開始だよ」
そう言ってシルフィは自分の手のひらにギリギリ見える位の竜巻を発生させた
これでもハムスターくらいなら飛んでいく程の威力を秘めているのだからすごいものだ
シルフィが竜巻に息を吹きかけると竜巻は速いスピードで男の火の玉に向かって行って消し飛ばした
その光景を見て動揺している隙に俺は間合いを詰めて両サイドの男2人を水の縄で縛り上げた
「シルフィ!準備は出来たから思いっきり暴れろ!」
「了解!!」
「クッソ!!こいつら邪魔しやがって!!」
男はシルフィに向かってかなり大きめの炎を放った
が、シルフィは風で作り出した剣で炎を真っ二つに切った
あの風の剣はシルフィの代名詞であり最も得意とする戦術だ
『暴風剣』 風の最上位能力の『暴風(テンペスト』を形を変形させて剣のようにすることでとてつもない速さで剣身が回転するまぁ恐ろしい武器である
まず最上位の能力を『変形させよう』という考えがもう脳筋なのだがそれを持って振り回す光景は馬鹿一択である
放った炎が綺麗に真っ二つにされた男は驚愕していた、そして首元に刃の先を向けられ勝ち目がないと思ったのか両手を上げて自首した
「あ〜あ、せっかくの紡ちゃんとのランチタイムがおやつタイムになっちゃったよ〜」
「今回は俺が奢ってやんだから文句言うんじゃねぇ」
「そうですよ、また今度行けばいいじゃないですか」
「はぁ〜紡ちゃん優しい、マジ天使」
「天使は敵の脳内に直接情報を流し込んで気絶させるなんて戦法しないと思うんですけど」
「正直あれは私もドン引きする」
紡は自分で戦うことは無いのだが唯一俺と一緒にいる時に悪人に絡まれる時に戦線に出る時がある
そういう時に紡は「精神遠隔感応」を使って敵を戦闘不能まで追いやるというほぼ拷問のようなものをする
それは『六星魔術師』のメンバー全員が「あの人を敵に回すと1番戦死する可能性が上がる」と言わせる程だ
「…紡はずっと俺たちの味方でいてくれよな」
「ん?そりゃあもちろんそのつもりだよ、あたしは『学園防御委員』の管理塔で貴方のサポートなんだから」
「ああ、これからもよろしくな」
そう言って俺が拳を突き出すと紡は少し遅れてから自分の拳を俺の拳にコツンと当てた
「はぁ〜いいね〜信頼しあってて。私にもそんな相手欲しいよ」
「居るじゃねぇか」
「え?」
「あいつだよ、あのクール野郎」
「無理無理無理、あれとだけはコンビを組もうとは思わないね」
「お前どんだけあいつと価値観合わねぇんだよ」
俺たちが言っている「あいつ」とは『六星魔術師』のメンバーの1人だ。性格は知的でクール、脳筋でうるさいシルフィとは正反対な人物だ
「だってさ〜あいついっつも私の行動に『無理やり過ぎだ』とか『そこはもっと作戦を練ってから行動しろ』とかうるさいんだもん」
「それは明らかにあいつが正しいわ、お前は気がついたら突っ込んで敵陣のど真ん中で『暴風剣』ぶん回して殲滅してるのしか想像出来ないからな」
「私ってそんなイメージなの?え?違うよね紡ちゃん…」
「え?あ〜うん、ノーコメントで」
紡がニコッと笑いながらシルフィに返答するとシルフィは落ち込んだように肩をすぼめた
「ま、まぁ!その戦闘スタイルが『シルフィさんっぽい』って事ですから!」
「そうかな…」
「はい!敵の中で暴れて殲滅する姿はとてもかっこいいですよ!」
「そ、そうだよね!やっぱりそうだよね〜私はこうでなくちゃ。よし!それじゃあご飯に行こ〜!今回はちょっといい物でもいいよ〜」
敵陣で少し長めの風の剣をぶん回し敵を殲滅する姿を見た人達はみんな口を揃えて『暴風の狂戦士』と呼ぶのだ