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シガレット[鞍馬、彬]

「そういえば、鞍馬さんは煙草は吸わないんですね?」

 休日の昼下がり。二人で煎餅をぼりぼりとやりながら何をするでもなく見ていた昔の刑事ドラマの再放送。主役の刑事が事件解決の余韻に浸って美味そうに煙草を吸うシーンを見て、御陵先生がぼそりと呟いた。

 あまりに急な質問だったため、俺は不意に吸い込んだ煎餅のかすが気管へとダイレクトアタックするのを易々と許してしまった。

「げぇほ、げほ……っ!」

 むせて咳き込む俺から煎餅を山盛り盛り付けた菓子皿を守るように引き寄せた先生は、指先を唇にあてて考え込む仕草をする。

「鞍馬さん、そういうの好きそうなのに。大人だけの特権、シブさの象徴、かっこいい! みたいに思ってそうだし……」

「……俺のことバカにしてんのか?……げほっ」

 やっと誤嚥から立ち直った俺が先生の手から奪うように菓子皿を取り戻す。その俺の目はひどく据わっていたと思うが、彼女は特に気にすることもなく言葉を続けた。

「だって、鞍馬さん下戸でお酒も飲めないし、あと手っ取り早く大人感をマンキツできることっていったら、煙草と選挙と公営ギャンブルぐらいのものじゃないですか」

「だから、なんで俺が大人感に飢えてる設定なんだよ!」

「飢えてないんですか?」

「ネェよ!」

 勢い込んでそういいながら菓子皿から新しい煎餅を取り上げると、俺はばりぼりとわざと音をたてて噛み砕いた。先生は疑わしそうにこちらを見ている。仕方なく俺はごくんと口の中のものを呑み込んで、言い聞かせるように呟いた。

「煙草なんて幼児のおしゃぶりとおなじようなものだろ。そんなものに大人感なんて感じないね」

「そうですか……。で、本心は?」

 先生の手によってスティック状の煎餅が俺の口元に突きつけられる。俺はそれを咥え煙草ならぬ咥え煎餅にしてキメ顔を作ると、堂々と言い放った。

「煙草なんて吸ったら味覚が落ちる。折角のお菓子も台無しだ」

「鞍馬さん、本当にブレませんね。ある意味、かっこいいです」

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