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喪失

3話



「ーーーおかえりなさい」


家の扉を開けると妹のミィナが出迎えてくれた。


「起きて...大丈夫なのか?」


「うん!今日は調子が良いんだ」


「それは...良かった。はい、薬」


「いつもありがとうね、お兄ちゃん」


ミィナは幼い頃から病弱だった。

医者からは定期的に薬を飲まないと衰弱し続け、最終的には死んでしまうと言われていた。


しかし、この薬はとても高価なモノで、俺はそれを買い続ける為に働いていた。


「私もはやく元気になって働くね!」


「無理するなよ...ミィナ。金は兄ちゃんがどうにかするから心配するな」


リゼと出逢う前までは、ミィナは俺にとって唯一の心の支えだった。


ミィナは誰よりも優しく、温かい子だ...俺とは似ても似つかなく、可憐で儚げな少女だ。


村の男達からも一目置かれていて、あのガイアスですら気にする程だった。


「トッド...帰ったのかい?」


部屋の奥から母さんが出てきた。

母さんは内職で裁縫の仕事をしていた...文字通り、朝から晩までだ。


母さんの頬は痩せこけ、白髪も疎に増えてきた。


「トッド...〈祝福〉はどうだったんだい?」


「いや...」


「ふん。その様子じゃあ大したスキルじゃなかったようだね...稼ぎの足しになれば良かったものを」


「お母さん、そんな言い方無いんじゃないかな...」


「ミィナ、お前も人の心配してる場合じゃないよ。来年はお前が〈祝福〉を受けて、少しでもその身体をどうにかしな!」



ーーーばたん、と母さんは扉を乱暴に閉じて部屋に戻った。


「気にしないでお兄ちゃん...お母さんも疲れてるだけーーーごほ」


ミィナが咳き込み、その場に膝を付く。


「大丈夫か、ミィナ?!」


「大丈夫...だよ。でも少し部屋で休むね...あとでお兄ちゃんの〈祝福〉教えてね」


ミィナは俺に心配掛けまいと、強がりを言っているようだった。


「〈洗脳〉...この力で金を稼げれば」


俺の脳裏に邪な考えが浮かぶ...凡そ〈洗脳〉で出来る事など、悪事以外に無い。


俺がこの力で"なにか"したら、それこそ、この村に居場所が無くなる。


「少し疲れたな...」


俺も部屋に戻り休む事にした。






ーーー次の日


仕事場の農園では、他の村人達が俺を見て何やら話し込んでいた。


傍目から見ても決して良い話では無さそうだ。

俺は自分の仕事を終えると、さっさと帰宅する事にした。



家に帰る道中に、ガイアスルビーとその取り巻きの男達と遭遇した。


「トッド...テメェをぶっ殺す!」


ガイアスは村人達の目も気にせずに、突然殴りかかって来たのだ。


「うがッーーー」


ガイアスのスキル〈剛腕〉で殴られた俺は簡単に宙を舞い、地面に叩きつけられた。


その光景を見た村人達が騒めき立つ。


「な、なんで...俺が何をーーー」


強烈な痛みで上手く声が出せない...がガイアスは構う事無く、俺の胸倉を掴み身体を持ち上げた。


「テメェ...〈洗脳〉を使ってルビーを襲っただろ?」


「ーーーは?」


俺には身に覚えの無い事をガイアスは口にする。


「とぼけるな!」


ガイアスの拳が俺の顔面に飛んでくる。


「がは...ほ、ほんとうに、なにも...」


「嘘よ!昨日の夜、私に〈洗脳〉を使って...そしてーーーイヤァァァァァァァァァァッ!!」


ルビーは俺に怯えた様子で叫ぶ。

その様子を見た村人達が俺に罵声を浴びせ始めた。


「う、嘘だ...俺は何も」


「テメェェェェェェェェェ!!」


ガイアスは怒りで我を失ったのか、次々と拳を俺に叩き込んだ。


「ひ...や、やめ...てく、れ」


「お前はよ、ルビーが『やめて』って言ってやめたのか?あ?」


「だから、お、れじゃ...」


俺は男達の背後に隠れるルビーに視線を向けた。

ルビーと俺の視線が交わる。


すると彼女はーーー笑っていた。


俺の視線に気づいたルビーはまるで悪戯がバレた子どものように舌を出していた。


ああ、やはり嘘か...


薄れ行く意識の中でガイアスの怒号とルビーの笑顔だけが鮮明に残った。





ーーー意識が戻ると、村の道端に俺は捨て置かれていた。


辺りは薄暗くなっており、夜になり始めていたようだ。


「かえろう...」


俺は家に向かって歩いた。






ーーー俺の家が燃えていた。


それを囲むように村人達が立っていた。


「うわぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ!!」


俺は走る、ミィナ!

ミィナが中にいる!!


「ど、退いてくれ」


俺の声に気づいたのか、村人達の視線が俺に集まる。


「この悪魔」


「お前なぞ、死んでしまえ!」


「殺せ」


世界の憎悪を一身に背負った気分だ。


俺が、俺達が何をしたっていうんだーーー。


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