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洗脳




この国では16歳になる年に〈祝福〉を受けスキルを授かるのが習わしだった。


神様からの〈祝福〉を受けて得るスキルは様々なものがあったが、中でも〈聖剣〉〈叡智〉〈奇跡〉〈神業〉の四つは聖なる権能と呼ばれていた。


代々〈聖剣〉のスキルを授かった者は"勇者"と呼ばれ、"魔王"から世界を救うとされている。


そしてーーー今代の"勇者"となったのがアルバート・アレクセイだった。


「アルバート!おめでとう!」


エリザベスがアルバートの元へと駆け寄り、抱きしめていた。


「ありがとうエリザベス。君も〈叡智〉を得られたようだね。これからよろしくね僕の"賢者"様」


「ふふ...なによ、あらたまって」


エリザベスは恋する少女のように頬を赤らめ、クスクスと笑っていた。


二人を眺める俺の手に痛みと熱が帯びる。

気付けば手に巻かれた包帯は真っ赤に染まっていた。


「では御二方はあちらへ。今後の大切なお話があるので...」


二人は王国の役人に急かされると聖堂を出て行ってしまった。






「ーーー最後のひとりに〈祝福〉を与える...トッド・クレイン、前へ」


俺は名を呼ばれ、司祭の元まで歩いた。


聖堂の中に集まった民衆は俺を見てヒソヒソと声を上げる。


きっと会話の内容は碌でもない事だ...気にしにない事にしよう。



「どうせ、クソみたいなスキルなんだろ?!」


遠くからガイアスの悪態が聴こえる。

その声に呼応するように周りから嘲笑が起きた。


司祭は怪訝そうな顔をしていたが、構わずに〈祝福〉を続けた。


「では汝に祝福をーーー」



司祭が俺の頭に手を翳す。

なんだろう...暖かい感覚がした。


「これは...まさか...いや、しかし」


「??」


〈祝福〉が終わったのだろうか...司祭は明らかに困惑していた。


「うむ...トッド・クレイン。其方に授けられたのは〈洗脳〉のスキルとなる」


聖堂にいた民衆が騒めく。


そりゃあ、そうだ...よりによって俺に与えられたのが〈洗脳〉とは...な。


〈洗脳〉とは、他者の脳と精神を支配して、意のままに操る凶悪なスキルだった。


〈洗脳〉も〈聖剣〉程では無いが、稀有なスキルであり、ここ数十年確認されていないとされる。


そして〈洗脳〉は忌み嫌われる力だった...何故ならこのスキルを授かった者は、歴史的な独裁者であったり快楽殺人鬼であったりと碌なものでは無かったからだ。





「ーーー殺せ」


誰かがぽつりと言った。

その言葉は伝播して聖堂を支配する。



「コロセ!」「コロセ!」「コロセ!」と呪詛の言葉が俺に向けられる。


司祭は場の異常な空気を察すると、そそくさと逃げ去ってしまった。


聖堂の祭壇には俺一人が取り残される。


「村から出て行けー!!」


誰かがそう叫ぶと石が飛んで来た。

石は俺の頭部に当たり、そこから血が出る。


俺は暫くの間、呆然としていたが、我に帰ると聖堂を逃げるように立ち去った。





「ハァ...ハァ...」


出来るだけ人目を避け、帰路へと着いた。


ーーーしかし、


「トッド君?」


「ーーーワッ!」


ひとりの女性が俺に声を掛けてきた。


「なによ!失礼ね...!私は魔物か何かですか?」


「ご、ごめん」


そこには顔見知りのシスターのリゼがいた。

ロゼは俺が驚いたのが気に入らないのか腰に手を当て頬を膨らませて怒っていた。


「そんなに慌ててどうしたの...?あっ...もしかして、またガイアス君?あの子は本当にーーー」


「ち、違うんだ!」


「そ、そうなの?なら良いんだけど...」


リゼは腑に落ちないような様子で俺を見る。


「あ、そういえば...今日は〈祝福〉だったのよね?トッド君はどうだった?私は用事があって観に行けなかったから...」


〈祝福〉は娯楽の無いこの村の数少ない行事だ...だから村人達も物見遊山で聖堂に集まっていた。


(リゼに見られなかったのは幸い...かな)


「お、俺のスキルは大したモノじゃなかったよ...聴くまで無いかな」


「えーもったいぶらないでよ。逆に気になる!」


「あは...あははははは....本当聴いても仕方ないよ」


「ふーん。まあそういう事にしてあげる!」


リゼは俺に気兼ねなく話してくれる数少ない存在だ。


〈洗脳〉を授かったと言えば、きっと離れていくだろう。


(そんなのは嫌だな...)


俺はリゼを見る。


「なに...かな?」


リゼが首を傾げる。


「い、いや...なんでもないよ」


俺は顔が熱くなる。

リゼと話すといつもこうなってしまう...上手く自分の気持ちが伝えられないのだ。


俺は素朴だが明るい彼女に惹かれていた。


もしかしたら恋...というよりも、感謝に近いかもしれない。


彼女を見ると不思議と元気になるし、暗い気持ちも救われたからだ...リゼがいなければ俺は自ら命を絶っていたかもしれない。


「もう帰るよ。母さんと妹も待ってるし...」


「そっか...うん!また明日ね」


「うん...また明日」


リゼは明るい笑顔で俺に手を振った。

この笑顔とリゼの『また明日』で俺は明日を迎える事が出来るのだ。


俺の足取りは不思議と軽くなり、家と向かった。




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