厄介事
「コルドさんから?」
アレクが何でとばかりに聞かれるが、
「今日薬瓶を取りに行った帰りに広場の詩人の前で会いまして」
「あのオッサン相変わらず芸術だなんだでふらついてんのかァ?」
「それで?頼み事って?」
厄介事の匂いを感じたジンから内容の催促をされる
「端的に言うと、帝国上層部の調査。ですね」
短くそれでいて危険である事がわかるように口に出す。
「へぇ、コルドさん的にも納得はいってないんだ」
アレクは少し感心したように言うが、あれでも大隊長だ。力だけでは登れない地位にいる人だ。
「みたいですね。」
「クロちゃんはもうそれに返事したのかしら?」
「いや、皆さんの意見を聞こうと思いまして」
依頼の内容だけなら、そもそもやろうとしていた事だけに簡単だ。ただ、
「ただ、コルド大隊長が敵か味方が不明な状況なんです」
「なるほど、クロウくんはコルドさんが敵側の勢力である可能性を考えているということだね?」
ジンからより直接的な話が出るが、その通りだ。
極論、先輩方も疑う必要があるのだが、51中隊の時は大抵の時間をこの人達と過ごしている。それを疑っていると身が保たないので先輩方が実は敵でしたという展開なら諦めるしかない。
「コルド大隊長は不明の用件で居場所がつかめない事が多かったですからね。しかも探索法術を使っても見つからないなんて事もザラにありましたし」
「諜報の際に内容を知る人物を増やす事は得策では無いですし、わたくしは断るべきだと思いますわね」
−エレナ先輩は否定派か
「僕も辞めといたほうがいいと思うよ。」
珍しくアレク先輩から意見が発信される。
「ちなみに理由を聞いても?」
「上官に提出するならそれなりに形にしなきゃいけないからね。仕事増やしたい?」
アレクらしい意見だと苦笑するが、この先輩が少し心配してくれてるのだと思うと嬉しくも思う。
「それは確かにそうだね!じゃあ僕もお断り派かな!」
否定派が3人か、
「サリア先輩とユーグリット先輩は?」
「アタシはどっちでもいいわよ!どっちにしてもその案件にはあまり関わらないでしょうしね!」
「まぁ確かに熊女にそんな繊細な仕事は出来ねぇなァ」
「兎ィ…!!」
「まぁまぁ、ユーグリット先輩はどうなんですか?」
「もう過半数が否定してんだから断るだろうけどよ、俺は受けるべきだと思うぜ」
−ユーグリット先輩は賛成派か
余程の理由でもあるのか憂いを帯びた顔をしながらユーグリットが続ける。
「少なくとも上官だからなァ。媚び売るに越したことはねェ」
「…」
随分と素直な意見である。
コルドが敵だった場合に依頼を受けるデメリットはコチラの状況が筒抜けになってしまう事だ。これは大きなマイナスであり、命に直結してくる。
対しても味方だった場合のメリットは強力な"零度将軍"が仲間になることだが、あれでいて自分の正義を持ってる人だ。調査後からでも引き込めるだろう
「じゃあ今回の依頼は断ろうと思うよ。俺もそうしようと思ってもましたし」
少なくとも今は水面下で息を潜めているべきだ。敵が誰かもわからない状況だし。
帝国暦562年6月10日
いつものように訓練終わりの溜まり場となっている中隊長室で、薬瓶を用いた訓練の報告を呼んでいると、サリアから実戦形式の訓練を行いたいとの要望が入る。
「とは言ってもウチは100人程ですし、隊も役割毎に分けてるのでどうやってやるんですか?」
それに民間兵達もまだ合流して日が浅い。直ぐにやるべきことでは無く、もっと練度を上げてからやろうと思っていたのだが、
「日の浅い内に各隊の連携を深める必要があるわ!慣れてからだと仲は深めにくいのよ」
そういうものなのか。学校時代はブランタークと後2.3人くらいしか交流を持っていなかったのでよくわからなかった。
「でもクロウくんが言う通り編成はどうするんたい?」
ジンも同じ事を思ったらしくサリアへ問い掛ける。
「そんなのアタシ達6人と戦わせればいいじゃないの!」
当たり前の様に言い切るサリアをみて少し頭が痛くなる。
サリアが言うには俺達6人に対して、副隊長をリーダーに据え隊を引かせるらしい。
「スバルに指揮権を持たせて、その下に各隊の副隊長って感じかしらね」
実戦経験のない人にぶっつけ本番とは如何にも可哀想ではないのだろうか?
「経験が無いからよ。早いうちから積ませてあげたほうが本人達の為よ」
サリアの言うことにも一里ある。
「まぁ確かにそうですね。やってみましょうか」
机の箸で体を震わせるスバルを横目に話を続ける。
「ただ、本気でやると意味が無いので、ギフトと纏化は禁止にしましょう」
「それでいいんですか?」
スバルがキョトンとしながら聞いてくるが
「当たり前だろ?入隊したてに本気でやっても意味を見出す前に終わってしまう」
すると、少しムッとしたのか顔をほんのり赤くしながら、
「こちらは100人近くいるんですよ?狙撃手も治癒士も数が違います。それに攻撃部隊だって別ければ複数箇所からの攻撃も可能なんですよ?」
「そうだね。でも、それでも。だよ」
はっきり言って相手にならない。
「1番等級の高い法術を禁止にしてようやく形になるかの話だ」
それをすると流石にプライドが折れてしまい訓練に影響がててしまうだろうからやらないが。
「わかりました。絶対鼻を明かしてやりますよ」
なにやらスバルにも熱が入ってくれて何よりだ。
隊の仕事が終わり、スバルが帰るとアレクが話しかけてくる。
「クロウは意地が悪いね」
あぁ、スバル煽ったことか。
「でも事実でしょう?」
「ん。それでも圧勝だね」
あくまで訓練だ。コチラが圧勝する事が目的ではない。
「訓練だし、何か少しでも驚くような連携を見せてくれるといいね!」
とジンが言うが、実際その通りだ。
今回の戦争では戦力に絶対的な差がある。
その中で如何に自分で考えて活路を開くかが問われる場面もあるだろう。その時に指示が無かったので戦死しました。では話にならない。
「そうですね…とりあえず実践訓練は10日後に、ムスリム山で行いましょうか」
さぁ、頼もしい副隊長達は一体どんな事を魅せてくれるのだろうか?
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。
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