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手向けの花  作者: 三四
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
7/34

3大隊長コルド

「君がこんな所に居るのは珍しいな。普段から訓練時以外は自室に籠もりきりだったのに」


 お茶を啜りながらコルドが言うが、広場で見つかった後に近くの茶屋へと連れ込まれ、こうして男二人でお茶をする運びとなっている。

「まぁ、たまには街の様子でも見ておこうと思いまして」

 いくら上官といえどブランタークへ薬術の依頼をした事は内密にしておこう。

 出されたお茶を一口飲み込みながら、少し久方ぶりに出会った目の前の人物を観察する。


 山の様に隆起した筋肉、赤黒く焼けた肌、歳を重ねたことがわかる白い髪、そして、背に背負った大きな剣についている、コルドの異名でもある零度将軍を表す氷魔術を増幅する青の魔石。

 学校を卒業したあとに元の51中隊へと配属された俺を出迎えたのが当時の大隊長であるコルドだ。

 当時、51中隊には中隊長がおらず軍人学校出の将官候補生として中隊長代理という名目で配属されたのだが、このコルドという男は芸術分野への興味が強く軍に居ることは殆どなく、実質新兵の俺が軍の管理からする事になっていた。

 −まぁその管理も優秀な先輩達が居たからこそなんとか切り抜けられた訳だけど

 配属後に"塵の山"なんて呼ばれている事を知り、なんで俺がなんて嘆く時もあったが、よく考えてみれば学校自体から成績はトップクラスだったが問題を起こした数もトップクラスな事に気付き納得。

 結果論ではあるが、現在ジンを始めたとした小隊長を引っ張ることが出来ているのであの配属は"当たり"だろう。


「どうした?随分な思案顔になっているぞ?」

 少し訝しげに訪ねてくる顔を見て、考えが顔にも出てしまっていたかと緊張する。

「いえ、配属の時を考えてました」

「あぁ、そうか。君には随分と楽をさせてもらったな」

 ニコニコ顔で言ってくれるが、その分俺は相当苦労をしたんだがな。

「自分にはいい勉強になりました」

「そうか?そんな顔はしてないがな?」

 意地悪そうに笑ってくるが、この人は間違いなく"優秀な人"の部類だ。

 自分が責務を投げ出すことでどんな結果になるか等わかっていてやっていたのだから余計に質が悪い。

「そうですね。正直に言うと寝首を掻いてやろうかと思う事も何度かありましたね」

 お茶を啜りながらそんな事を言うと、わざとらしそうに驚きの顔を作り笑い始める。

「そうかそうか。だが、今回の編成は良くやっただろう?」

「…そうですね。悔しい程にスンナリと人員は通りましたし、コルド大隊長が1大隊を受け持つと知って安堵もありましたね」

 少し意地の悪い口調を取りながら本心を伝えるが、

「では、クロウ君。恩義を感じるなら1つ頼まれてくれないかね?」

 なんて言ってくれるものだからあからさまに顔に出てしまう。

「…内容次第ですが」

「随分と嫌な顔をするものだ。2大隊なら処罰ものだぞ?

「それで、なんですか?」

 わざわざ茶店に連れてまでする頼み事だ。碌なものでは無いだろう。


「帝国内部の諜報を依頼したい」




 夕方、隊舎に戻ってくると殆どの隊員が今日の訓練を終えており少し静かに感じる。

 隊舎の扉を潜り中隊長室へ近付くと小さな声がいくつか聞こえ始める。

 −あの人達ココを休憩室かなんかだと勘違いしてないか?

「皆さんお疲れ様です」

 扉を開きながら声を掛けると珍しく5人でなにやら資料を囲みながら議論しているらしい。

「お疲れ様です。クロウ中隊長」

 副隊長として推薦されたスバルが机にお茶を出し、状況を掻い摘んで説明してくれるが、どうやら訓練を各隊で連携し効率化出来ないかの話をしてるらしい。素晴らしい事だ。

「お疲れ様、クロウくん。ブランタークくんの所はどうだった?」

「ジン先輩ありがとうございます。ついでなんて皆さんにも説明しますね」

 議論を抜け出してコチラに挨拶をしてくるジンにコチラへ注目するよう他の先輩方へ伝えてもらい、魔視の薬瓶の効果を説明し始める。

 と言ってもそんなに言う事は多くない。

 効果時間と色の説明、それに薬瓶を使用する訓練の目的くらいだ。


「ふ〜ん。多分あの子達なら良い所10分位が限度ね。相当集中してやらせないといけない様ね」

 −サリア先輩も訓練の事となれば真剣に向き合ってくれるが、エレナ先輩はなんか気になるみたいだな。

 唇に手を当てながら何かを考えていたエレナだが、少しすると口を開き始める。

「クロウ君。魔力の色付けが出来ているという事は未知の敵に対しても有効ですよね?」

「そうですね」

「それは魔物にも有効なのですか?」

「ブランタークが言うには魔力を持っていれば有効って事だから有効なんじゃないですかね?」

 使用テストなどしていないので効果は不確定だが、特級薬術師が言っていたのでほぼ間違いなく有効だろう。

「では、出現暴走の片鱗を掴む事にも有効そうですわね」

「あぁ、確かに」

 出現暴走スタンピードの時は魔物が内包する魔力量が増えたり、持っている属性や性質が違う所謂変異種という個体が増える。

 この薬瓶を使えば確かにそれの前兆を感じる事は出来そうだ。

「出現暴走の時は軍も出るんですよね?」

 不安そうにスバルが聞いてくるが、少なくとも暫くは起こらないだろう。それにこの戦争が終われば民間兵たちは報奨金を渡され元の生活へと戻るはずだ。

「まあ、この徴兵期間中に起きたらスバルにも頑張ってもらわないとね!」

「うえぇ…あまりというかかなりやりたくないですね…」

 嫌な顔をしながら話をするスバルを見て、多分コルド大隊長と話していたときはこんな顔をしてたんだろうなと苦笑する。

「笑わないでくださいよ。戦う事が好きな訳じゃないんてすから」

「いやごめんごめん。少し思い出したこともあってね」

 −まぁ好きで戦いに身を投げたいなら学校に入るなりするよな

 民間兵たちは一応志願兵と言うことになっているが、実際は志願せざるを得ない状況の者が志願している事が多い、志願兵となれば食事も住処も保証されるし一定額の給金も出される。

 中にはシアの様に憧れを持って志願してくる者もいるが稀だ。


「前回の出現暴走が1年と少し前だし、暫くは大丈夫だ思うから今は気にしないで良いと思いますよ。それよりこの薬瓶を使用した訓練を皆さん考えてくださいね」

「ぁあ?なんか案があるんじゃねぇのか?」

「何も考えてないですよ?あくまでこれがあれば取っ掛かりが作りやすいと思っただけなので」

「クロウは最近僕らの扱いが雑だね」

「アレク先輩。信頼してると言うんですよ」

 この人達ならそこら辺は文句を言いながらも上手くやるだろう。


 折角だから伝えておくか、

「ついでなのでもう一点。今日コルド大隊長から内密の依頼がありました」

 厄介そうな依頼事の話でも。

拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。

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