神、悪魔、天災、人
その光の矢は明らかに殺意を持っていた。
どんな法術であれ技術であれ殺意を不断に含んだ攻撃というのは当てることが難しい。
何故か
意思というのは時に言葉より物音より視覚よりも明確に目に見えてしまうものなのだ。
光の速度は音の速度の約30万倍。
時速で言えば10億kmを優に超える。
見てから避けるなんて芸当が出来るはずがないのだが、それは所謂手元が分からない時の話であり、何処をどのタイミングで狙うかが判ればズラす事くらいは可能になる。
とはいえ、尾を穿かれ、全力で逃げに徹したとしても相手は光。
射程から外れることなど叶わぬというもの。
ならば法術の担い手を探す事が最重要項目となるのだが、
「発射点が遠い」
恐らく発射点の高さはココの40倍ほどの高さだろうか。
視線の主が居るのもそのあたりだろう。
当然その高さまで上がれるすべもない。
であれば今回は尻尾を巻くのが正解だろう。
しかし、
「腹立つなあ」
安全な位置から一方的に、という状況が腹立たしい。
幸いにも敵は光。
正体が判れば対処は出来る。
せめて一矢報いてやろうと少しの間思考を重ねる。
「超高度光線対象αに命中!」
「損傷は?」
「ハッ!胴体中心を狙っておりましたが尾に命中しました!」
「照準がズレたのか?」
「いえ!恐らくは何かしらの手段で察知し、ズラしたと思われます!」
「そうか。初めての化物であるし未知の手段は持っていて当然か」
指示を下す司令官らしき人物が帽子のつばを掴み直すと、苦虫を噛み潰したような表情で目の前に広がるモニターを見つめる。
映るのは人化を解いたクロウの姿。
「超高度光線第2射を充填しろ。準備が出来次第対象に向けて掃射しろ」
「ハッ!超高度光線第2射充填開始します!」
慌ただしくキーボードを叩き始める姿を横目に、司令官らしき人物はクロウの姿を見つめ続ける。
「この化物は悪災か善災かどちらを運んできたのだろうな」
小さな声で呟いた言葉は誰に拾われるでもなく周囲の喧騒に溶けていく。
相手が光で良かった。
影で対処出来るからだ。
この速度で実体のあるものであったなら為す術もなくやられていただろう。
しかし対処は出来ても反撃までは出来無さそうだ。
敵本陣も同程度の高さにあるとしたらその位置までの攻撃手段が限られる。
うーんと頭を捻っているとまた上空から嫌な感じが射し込む。
「まぁ、初撃で一発しか打てない大技を使うわけないよな」
−どうするかなぁ…
「とりあえずは…」
呟くと同時に術式を展開する。
周囲に仄暗さが立ち込めクロウの輪郭がボヤけ始める。
「転化・影装」
言葉と同時に術式へと魔力が流れ込みクロウの体がより一層夜と成る。
一瞬のときを経て再度光の矢がクロウ目掛けて飛び込んでくるが今度は避けない。
立ち込めていた仄暗き霞が周囲に散らされ姿が消える。
巨大な龍の胴真ん中を撃ち抜いた光が収束すると傷一つ負っていないクロウが姿を現す。
「これ中は空洞か。ならイケるな」
「対象αに命中!霧晴れます!」
「対象αの姿を確認しろ!確認するまで気を抜くな!」
「ハッ!」
「どうだ?」
「!?…対象α損傷箇所無しです!」
「馬鹿な!我が国の最新技術が内包された超高度光線だぞ!?」
帽子の男が驚愕すると周りの者たちもざわめき出す。
曰く、神の遣いなのでは?
曰く、悪魔なのでは?
曰く、天災なのでは?
曰く、
「我々を滅ぼしにきたのか?」
そう呟きながら帽子の男がモニターを見上げると、口角を上げた凶悪な黒龍と視線が交差する。
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。




