Let's going doping
扉をくぐると既に5名の小隊長は席についてコチラを待っている。
何故先程説明したとおりの出来る人物を新任の中隊長が戦力として保有できるのかと言うと、8割は本人達が問題なのが原因だ。
ジンとアレクは女関係。サリアとエレナは命令無視の独断専行。ユーグリットは上官への暴力沙汰。と、上も持て余していた人材を新任の中隊長が欲しがるチャンスを上層部が逃す訳が無い。
あとはコルド上官に口添えをしてもらい、厄介で優秀な人材をゲットという事だ。
「にしてもよォ。こんな無謀な負け戦を仕掛けるような皇帝陛下様だったかぁ?」
ユーグリットが不満と疑問を表すように声を投げかける。
その点は俺も含め全員が感じているのか、小さな同意の声が聞こえる。
「何にしてもだけど、決まったことだし、まずはクロウ中隊長が言った通り生き残ることを目標に鍛錬を進めないとね!」
ジンが"中隊長"と弄りながら話を振ってくれたので、俺は腰を下ろしながら話を始める。
「現状の帝国の状況からおさらいしていくけど…」
現在我がホーン帝国は周辺3国である、東のエルミナス教国へ1大隊を、南の海洋連合国へ2大隊を、そして西のダリア王国3大隊をそれぞれ割り振り一気に侵略を発表した。
法術としての進歩は最先端を行く帝国だが、同時に3国への侵略は無謀であり、意図が読めない。
まるで負ける事を前提に戦を仕掛ける様なものだ。
「でもあの皇帝陛下ってそんな頭悪かったのかな?」
「年取って野心が出たんでしょ!人間そんなもんよ!」
アレクが毒を吐けばサリアがその毒を更に強める。
−一応軍内だからもう少し抑えてほしいんだけどなあ
「エレナ先輩」
「なにかしら?」
品のある話し方で返事を返されると少し縮こまってしまう。
「145小隊ですが、ウチの外部へは全員俺の部下という形を取りたいのですが」
「あら、どうしてかしら?」
「正直、俺にはこの戦の意図が読めないんです。それに帝都待機の上層部との顔合わせすらしてないんですよ?」
今回の辞令は大隊長からの読み上げを受けているが、それより上の幹部勢とは一度も顔を合わせていない。
もっと言えば、俺にはどうもあの皇帝殿がこんな無謀な戦を仕掛けるとは思えない。
「つまり、わたくしの小隊では敵国と自国の双方の諜報をしろと言うことかしら?」
「それは随分と危ない指示だね。クロウくん」
エレナからは疑問が、ジンからは指摘が入るが構わない。
「なんでそんな事するのよ?」
一旦サリアは置いておこう。
「そもそも、俺達が前にいた5大隊自体が窓際というか、形だけの部署になってたのはみなさんも知ってると思います。」
大隊長以下を問題児のみで構成した元5大隊、通称塵の山は軍内でも孤立しており厄介部隊として有名であった。
「そして、今回の編成では各中隊は8から10部隊、そしてその下の小隊は各3から4部隊程しか人数がいません。敵は国家、数は数万の規模を相手にですよ?」
1大隊あたり約2000人程で国家へ侵略しろとのお達しだ。
いくら帝国軍の法術の練度が周辺諸国に比べて優れてるとはいえ、正直裏を気にしないほうがおかしい。
「なので、上層部への諜報もしたいんですが、あからさまな諜報部隊を創るとマークもされやすくなります。なので、中隊長預かりの部下として機能している体を取りたいんです」
中隊長預かりとなれば、軍内での監視も付きにくい。
「わかりました。そのような意図であればその対応が良いですね」
「クロウって意外と考えてんだなァ!」
「寂しがり屋の兎と一緒にするんじゃないわよ!」
ユーグリットが感心したように口に出すとサリアが噛みつく。見慣れた光景だ。
「あぁ?なんだ熊公やんのかァ?」
2人の熱が上がりそろそろ止めようかと思っていると
「2人ともクロウにまた"落とされる"よ」
アレクが仲裁に入ってくれたのだが、随分と俺を脅しの道具として使ってくれるらしい。
「「…」」
何かを思い出し黙る2人を見て少し心配にもなるが、
−まぁ、落ち着いてくれるならいっか。
「あはは!2人ともアレは随分と堪えたみたいだね!」
「ジン。うるせえェ」
アレクの言う"落とす"とは以前2人への憂さ晴らしで影魔術を使い、3時間ほど影の中の虚無へと閉じ込めたのだ。
それがよっぽど記憶に残っているらしい。
−何かあったら交渉材料として提示しよっと。
「それで、クロウくんの言う『生存』の為に僕達は何をしたらいいのかな?」
優しい笑みを浮かべながらジンが聞いてくるが、このイケメン顔を見るとあながち部隊を解散に追い込んだ噂も間違っていないのではないかとすら思える。
さて、今回俺の下にいる小隊長は癖があるが、実力がそれ以上に飛び抜けている人達だ。なので多少の無理は通してもいいだろう。
なにより、俺に中隊長を押し付けた義理もある事だし。
「って言ってもよォ、エルミナスに比べて練度も戦力も兵力も勝ち越せる所がないぜェ?」
「何言ってんよ兎。アタシがいるじゃない!」
「サリアさん。1人では手の届く範囲は限りがありますわ?」
サリアにエレナが正論をブチ当てるが、サリアは−でも−とあまり腰を引かない。
「わざわざ、隊員の適正配置までしたんだ。考えはあるんでしょ?」
アレクに話を振られたので答えを言うが、戦争までの猶予はそんなに長くない。
「そうだな。先ずやるべき事は」
出来る事も限られているのでこれしかないのだが、
「ドーピングだ」
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。
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