蜘蛛の糸
若干短いです。
ユウジに誘われてお昼御飯に随伴させてもらいながらこの地域の話を聞くことにする。
連れてこられたのは先程の荒れ地から車で30分ほどの小さな町のハズれに位置するユウジの邸宅へと案内された。
街からは少し離れているらしいが、土地も安く、独り身なのに広い家を求めて一軒家を購入したそうだ。
道中で何人かの現地人を見かけたが、皆一様に車に乗っており広く普及していることがわかる。
「ここら辺は結構栄えてるの?」
見知らぬ土地ともなれば土産話にもなるし自身の知識保管もできる。色々な話を聞かせてもらうとしよう。
「そうだなぁ」
ユウジはこの地域の生まれ育ちらしく、自分の生まれ育った街の話を聞かれ上機嫌そうに話を始める。
「この街はそこまで大きくないが、工業が盛んだな。さっきの車の部品なんかもこの街が国でシェアトップを取ってるんだ」
この街はキョウチュウと言う街らしく、ホニィという国に属しているらしい。
これだけ魔力濃度が濃い中で法術は一切見たことも聞いた事もないらしく、厳しい情報統制が敷かれているのかと思えばそもそも法術という文化がないのだと言う。
法術を使わないという国は僅かだが存在していたが、知らないという国は初めてだ。昔ながらに人の腕で技術を発展させてきたのだろうが、俺からすれば法術を使わずにアレだけの移動速度と快適性を再現出来るのであればそれこそ法術だ。
しかも、聞けば技術の均一化もなされており、且つ、工業組合に入れば誰でも制作が可能だと言う。もはや未来文明なのではないか?
「ところでクロウはどこの生まれなんだ?」
と問われたので、龍人で有ることを伝え驚かせようと
「ブレスコリア生まれで今は帝国で軍人やってるよ」
と少し得意げに答えたのだが、ユウジから返ってきたのはいささか不思議な返答だった。
「ブレスコリア?聞いたことない街だな」
自分で誇るようだが、ブレスコリアは相当有名だ。
もちろん帝国も魔導技術で有名だが、ブレスコリアはその比ではない。
隣接する国でなくともブレスコリアの名前は必ずと言っていいほど聞く。子供をしつける際に、悪い子のもとにはブレスコリアから龍がやってくると言い聞かせるのだ。
そのブレスコリアをユウジは街と言った。
これはつまりブレスコリアを全く知らなく、ホニィの中にある街だと思ったのだろう。
童話が入ってこない程閉鎖的な国?転移された地点が既に国内だったから何もなかったのか?
それに、会話が出来ているのは魔力を言葉に載せているからだと思っていたがユウジは法術を使えない。魔力に載せてるとはいえここまでスムーズな会話が出来ているのが疑問になってくる。
帝国内での言語ではない。ならなぜ会話が成立している?知らない法術の類となると、魔力を直接操作する技術だが、それはイムの半面にあると聞いたことがある。
果たしてこの場所はアムの半面で間違いないのだろうか?
「なぁ、ユウジ。ここはアムの半面だよな?」
アムとイムの半面は世界共通の概念の筈だ。
「アム?何だそれ」
「星のどっち側かって話だよ」
違う。
頬を冷や汗が伝う。
異世界に転移されたのか?
「あぁ、それならコッチは北半球だな」
キタハンキュウ…?
得心がいったとばかりに返事をするユウジの顔を驚きの表情で見つめる事しかできない。
文化が違い、文明が違い、星が違う?
異世界まで転移されたとなると帰還は容易ではなくなる。
吊り下げされた一本の蜘蛛の糸を掴もうともう1つ質問を重ねる。
「もう1つ。この星の名前は?」
「星?クラウガルドだろ?」
蜘蛛の糸は何とか掴めたようだが、何が違うのだろうか。
その後もいくつか質問をしてみたのだが、ユウジが知らなかった事は主神エーテルや700年前の出現暴走など、一般的に常識とされている部分も一部あり、帝国などの情報は面が違うからだろうか全く知らなかった。
逆に共通認識の事といえば、星の情報と唯一知っていたのはダリア王国の存在だった。
但し、3000年続くダリア王国はココ10年の間に新しく建国された国として。
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。




