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手向けの花  作者: 三四
木に縁りて魚を求む
27/34

文明

 ??歴?月?日


「ほんでここどこだ?」

 辺りを見渡すと荒廃した大地と乾いた空、それと僅かばかりの枯木があるのみでそれ以外には何も見当たらない。

「なんも無いとこだけど、魔力濃度だけはめちゃくちゃ濃いな」

 基本的に龍脈へと近付けば近付く程に魔力濃度は高くなり、龍穴ともなれば超高濃度の魔力に晒され抵抗の術を持たない者だと身体を蝕む程になっている。何事も過ぎたるは毒となり得ると言う話だ。

 濃度だけでいえば帝国首都イスガルの5倍ほど高く、龍人の国ブレスコリアより少し低いくらいか。

 恐らくドア自体に仕掛けられた転移魔法で飛ばされたのだろうが、こちらとしては一刻も早く戻らねば戦争が始まってしまう。

 手塩をかけた部下たちや愛すべき先輩方をみすみす殺させる訳には行かない。まあ、そう簡単に死なないだろうが。

 魔力濃度から現在地を推測するに丁度龍脈と帝国の中間くらいだろうか。

 あの魔法が転移であれば時刻に変わりはないだろうから、太陽の位置としてもその辺りだろう。

 さて、術者の目的はなんだろうか?

 隊長格を不在にして優位に戦を進めることだろうか?

 いや、元々敵国に取って多少の被害は出るだろうが楽な戦には変わりない。わざわざイスガルに潜入し、俺の家を調べ、更には二重で術式を書き込むなんて手間を掛ける必要は薄いだろう。

 とすれば、あり得るのはブレスコリアに置き去りにしてきたアノ女だろうか。

 無理矢理引き戻そうとしたが座標設定をミスった?

 今の所はその説が濃厚だが、こちらはブレスコリアに向かう必要は無く帝国へ戻りたいので恐らくの方向へと歩きだす。

「久々の休みだしゆっくりしていくか」


 どれくらい歩いただろうか?

 恐らく2.3時間は歩いただろう。

 人通りは少ないだろうと思ってはいたが、日の高いこの時間にすれ違うどころか人の気配すら感じない。

 そろそろ高台でも見つけて探し回ってみるかと思っていたところで、少し先から物音が聞こえてくる。

 低い唸り声のような、何か獣の声のような音だ

 ともかく人に合わねば場所が判明しないので音のする方向へと向かってみることにする。

 道中で小さな川を見つけたが、まさに清流といった透き通り具合で小さな魚が泳いでいた。

 その川の先に音の正体が集まっている。

 のだが、アレはなんだ?

 真っ黒な円形の物が見えるだけで2つ、その円の上には人が入れそうなドアが付いた箱だろうか?そして、驚く事にその箱には()()な硝子が使われているのだ。

 ガラスの透明度があそこまで高いものは城くらいでしか見たことがない。

 そのような高級品をふんだんに使っている割に、箱からは魔力を練り上げたときに内側から聞こえるような重い音が響いてくる。

 遠くから伺っていても人とは話せないだろうしと思い謎の箱へと近寄ると、突然箱についていたドアが開かれる。

「こんにちは」

 35くらいだろうか?

 やや痩せ型のあまり覇気を感じられない男が出てくるなりコチラへ挨拶を投げてくる。

「こんにちは。すみません。初めて見るもんでして、これは何という魔導具ですか?」

 敵意も感じられないので、情報を集めることにする。先ずはここは何処なのかよりも先にこの箱への興味が勝ってしまう。

「初めて?車が?」

 不思議そうに返されるがその()という物は見たことがないのだ。

 この地域ではよく見かけるのかも知れないが、

「えぇ、クルマというのを初めて見ました。これはどのようなものなのですか?」

 返事が返ってくるならもっと知れるかも知れない、機会があればあるだけ掴もう。


 あれから30分程質問攻めにしてこの車という物を教えてもらったのだが、驚くべき事がいくつかあった。

 先ず、この車は魔道具ではないという事。

 魔力は一切使っておらず、この地域では魔力の常識すら無いのだ。

 ではこの車は何で動力を賄っているのかと言えばモーターという物らしい。

 根気よく質問攻めに付き合ってくれたユウジさんはその専門家ではないので、そのモーターが何なのかはよくわからないが回るものらしい。

 そして、この車は人や物を箱にしまい、モーターを使うと馬より早く道を駆けるのだ。

 途中で乗せてもらったのだが、揺れも少なく椅子は快適。馬よりよっぽど良かった。

 この地域では魔力の常識がない代わりにこういった機械工学が発展しており、他にも色々な物があるらしい。

 ユウジの話を聞いていると、もしや今いるこの場所は反対側の様な気がしてきた。

 文明の発展具合に差がありすぎる。

 以前にこの星クラウガルドは楕円の形をしていると説明したのだが、実は太陽も2つあるのだ。帝国やブレスコリアがある面に浮かぶのがアムの星、そして反対側に浮かぶのがイムの星という。

 空を見上げても違いなどはわからないがいつもと大きさが違う気もしてくるし、アムとイムでは法術の発展が全く違うのだ。

 アムでは法術を一般的なものにする動きが強く、情報に関しても割とオープンだったのだが、イムでは一部のものが法術を独占していたらしい。

 行ったことがないのであまり知らないのだが、海洋連合が多く使う不思議な法術はそのイムから持ってきた技術だとかなんとか。

 流石に星を半周近くしないと行けないのは骨が折れるなと考えていると、ユウジからお誘いの声がかかる。

「よかったらウチくるか?そろそろお昼どきだし飯でも食おうか?」

 嬉しいお誘いだ。

 ココは車の快適な移動とご飯に甘えるとしよう。

 考えるのはその後でも遅くはないだろう。

拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。

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