生き抜ける
「なんとかなります」
と非常に心強い言葉を貰ったとはいえ、まだまだ公爵令嬢。
男の子がいなければ長女へと力は集中するが、長男は存命だし長女に至っては他国にまで名前を響かせる常勝将軍。
ハイビスカス家は何代か前の国王の弟の血筋であり、非常に優れた薬術と政の手腕が評判の貴族家だ。
長男のフルス・ハイビスカスはダリア王国の将軍を務めてはいるが、次期総帥の有力候補であり非常に強力な火魔術の担い手だと聞いている。
対して長女のリリス・ハイビスカスはフルスよりも広く名を轟かせている常勝将軍。
稀有な未来視系のギフトを有しているらしく、燃えるような赤髪を振り回し高度な水魔法を使うことから炎水姫と呼ばれるほどの女傑だ。
しかし、そこへくるとマリーの話は全くと言っていいほど聞こえてこない。
それはそうだ。
帝国で薬術師のメイドをやってるのだから。
そんな彼女とエルミナス教国が抱える治癒魔術の真髄を操る人物でもあるルナとどんな繋がりがあるのだろうか。
「ちなみにルナ・ブライトとはどんな関係があるんですか?」
頭の中の相関図を明確にするためにも素直に聞いてみる。
答えてくれるかはわからないが、何かに役立つときも来るだろう。
「私も治癒魔術が使えるのですが、それが判明した時に治癒魔術を教えていただき、それから定期的に連絡を取る間柄ですわ」
治癒魔術が使えるというのも驚きだが、貴族社会で定期的に連絡を取り合うというのはもっと驚きだ。
貴族には2タイプ存在する。
都市や首都に居を構える直下貴族と、基本的に領地で過ごす辺境貴族の2タイプだ。
直下貴族に関してはある程度移動すれば直接家にも行けるし、大抵の職場が城の為顔を合わせることが多く、辺境貴族に至っては隣の領地と多少の交流を持つくらいだろうか。
例外としてあるのは寄親子の縁を結んだ貴族の交流くらいなものだろうか。
それが今回は他国の直下貴族同士での話なのだから驚きだろう。
「貴族同士で定期連絡なんて珍しいですね」
少々失礼な事が口から漏れ出してしまうが、
「たまたま貴族らしくない2人が仲良くなってしまっただけですわ」
と何の気無しに言葉を返される。
マリーによれば、ルナと連絡を取るのは月に2度ほど。
2日前に手紙が到着したのでそろそろ返信をば、と考えていたところだと言うのだ。
流石に出来過ぎた話だとは思うが、誰かの手引だとしても損することも無いだろうと喜んでその手に掴まってしまう。
「マリーさんにお願いしたいのは、俺の部隊とルナの部隊を合わせるように頼んでほしいんだ」
「合わせると言うのは戦が始まる前にでしょうか?」
「それは流石に間に合わないだろうから。軍場でかち合う部隊、というか、クロウ部隊対ルナ部隊の戦場を作りたいんだ」
早い話がマッチポンプを行いたいのだ。
恐らく、明日手紙を出したとして着くのは戦が始まってからだろう。
つまりは、俺の部隊と戦っていた部隊からルナの部隊が横取る形になるのでこれも通るか怪しい話だ。
ルナの権力は教国内では相当に強い。
なんせ次期聖女である。
一番ルナが通しやすいのは、神に逆らう元同級生をせめてもの情けで自ら鎮めてあげたいとか言う事だろう。
そこら辺も文に記載してもらう。
後は適当に戦うふりをして帝国内の眼を誤魔化せればいいだろう。
死傷者の人数は上手いことやるしかない。
「その内容ですと、最悪終戦後に処刑されてしまうのでは?」
マリーの言う事も尤もなのだが、
「終戦後は俺が洗脳されていた事にすれば、悪くても俺だけの処刑だろう」
「そこまで命を張る理由を聞いてもよろしいですか?」
「宣言したからだよ」
「宣言?」
初日の不安そうな顔を見下ろしながらしたあの挨拶は、正直言って式を高めるためだけに言ったつもりだった。
しかし、今では鎖の様に巻き付いてしまっている。
それが嫌なわけではない。
死なすつもりなど毛頭なければ生きる方法に妥協するつもりもない。
だが、この鎖のせいで部下より遅く死ぬ事が恥に思えてきたのだ。それだけは嫌だ。
「クロウ君。君らしくないですね」
それを聞いたブランタークが話に入ってくる。
「君はもっと人を人とも思わないような使役をする人だったのに」
「なんだそれ。そんなこと思われてたのか?」
ブランタークに言われると結構キツイ。妻からのビデオレターの様だ。
「君だけじゃないが、我々は指の隙間から救える命を零すんだよ。知ってても、手が届く範囲でも全てを救うことが出来ないんだ」
それもわかってる。
だからできる事はやろうとしているのだ。
「マリーさん。お願いします。力を貸してください」
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。




