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手向けの花  作者: 三四
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
20/34

指令

すみません。最近バタバタしていて更新できてませんでした。

本日からしっかり更新していきます。

 帝国暦562年7月9日


「ウォォォオオオオオ!!!!!!」

 隊舎の一角に構えたトレーニング室で朝から全力トレーニングに勤しんでるわけだが、決して業務を投げ出し頭がおかしくなったわけでもなく至極真っ当な理由がある。

 先日話にも出た"龍の涙"なる秘薬を作るべく汗を掻くことに努めているわけだ。

 龍の涙とは龍人族に伝わる秘薬で、効果としては疲労回復や自然治癒力上昇、魔力回復時間の短縮などサポート戦時中や訓練時にはめちゃくちゃありがたい効能盛々の物だ。

 だが、何故今なのかと言われると原料の問題があった。

 以前説明した通り、原料は岩亀の甲羅と月夜草に電気羊の胃、そして龍人族の汗が必要なのだが、この汗が2人分。つまり2種類いるのだ。

 つまり、スイハがやってきてようやく龍の涙作りに着手出来るという訳だ。

「ハイ!スイハさん!足が止まってますよ!!」

 何故がサングラスを掛け、鞭を手に持ったスバルが管理する形でかれこれ4.5時間はランニングマシーンを走らされている。

「オェ…吐きそう…」

 正直5時間だろうと通常であれば走り続ける事は造作もないのだが、魔力で身体強化をしてしまうと代謝を落とすという欠点がある。ので、今回は法術無しの状態で走り続けているのだが、やはり普段から身体強化に慣れている者であればある程地獄をみるらしい。

 軍に所属している身として、まだスイハ程の状態までは行ってないがしんどいのはしんどい。

「はぁ…はぁ…。なんで…スバルさんは…あんな…ノリノリなんで…すか…」

 息も絶え絶えに語りかけてくるが、喋ると余計疲れるぞ。

「知らん…」

 直接の部下の指示で延々と走らされ、汗だくになりながらスイハに返事を返していると、

「そろそろ休憩にしましょうか」

 とスバル教官から救いの声が入る。

「あ゛〜相当集まったんじゃないですか?」

 喉を水で湿らせながらコチラへ問いかけてくるのが、汗に濡れた服と身体が光を反射し、眩しい身体が目に入る。

 いくらスイハと言えど、俺も男。ドキッとした感覚をアドレナリンのせいにして抑え込み、返事を返す。

「まぁ、隊の人数分ならそこまで量もいらないから十分かな」

 流れた汗は体から落ちるとランニングマシーンを伝い容器へと取り込まれる。そして、汗は100倍ほどに希釈し涙へと調合されていく。

「終わりました?」

 待ちくたびれたとばかりに椅子から腰を浮かせたブランタークが聞いてくる。

 龍の涙を調合すると決まってからブランタークの元へと依頼を出したのだが、龍人族の秘薬と聞いてテンションが上がったコイツはわざわざ朝から待機していたのである。

「だから時間かかるって言ったろ」

「龍の涙と聞いたらジッと待ってるだけなんて出来ませんよ。それにクロウ君が年下に強制的に走らされる姿も見れたので」

 ブランタークの軽口には静かに中指を立て返事をするとして、規定の量が集まったので後は門外漢だ。

 ブランタークへ素材を渡し、中隊長室へ戻ろうとすると扉が開く。

「クリエ君。今からいい?」

 大隊長コルド。俺の上官がご指名のようだ。



 スバルとスイハに後のことを任せ、コルド大隊長に着いていくと大隊長室へと通される。

「まぁ、そこら辺に楽にしてくれ」

 等と言われるが私物が散乱しており楽に出来そうな場所など一箇所しか見当たりない。

 随分と豪華なソファだが、コルド大隊長の事だ。相当なものだろう。

「この値の張りそうなソファに腰を下ろしていいので?」

「はっはっは。そりゃソファなんだから腰を下ろすものだろう」

 朗らかに笑いながら返事を返されるが、貧乏根性の俺は高そうなものに触れるというだけで緊張する。皇帝陛下にお目通りする事よりもだ。

 とは言っても座らなければ話も始まらなさそうだし、さっさと座ってしまう事にする。

「それで、わざわざ場所まで変えて何のようですか?」

「まぁまぁそんなに焦るな。紅茶でも飲むか?」

「いいえ。結構です。遠回しにしようとしてくる時は大抵厄介事ですので、早めに伺いたいですね」

 少し冷たい言い方にはなるが、こうでもしないと本題に入るまで相当な時間を無駄にすることになる。

 例え上官であってもこの人にはこの程度無礼に入らない。

「そうかそうか。では早速本題に入るか」

 甲斐あって早々に話しを始めてくれるらしい。今度はどんなお願いをされるのやら。

「クリエ君。他の中隊長には明日伝えるつもりだが、10日後から戦が始まる」

 突然の話に面を食らってしまう。

「おや?随分と大きな驚きのようだね」

 固まっている俺を見てコルド大隊長が声を掛けてくるが、

「いえ、正直個人的な話だと思ってたので、職務の話が飛び出してくるとは思わず…」

 絶対に個人的なお願い事だと思っていた。

 イゼン頼まれた諜報を再度頼まれるとか、コルド大隊長の趣味である美術品を取りに行ってこいとかそんなもんだと。

「ワシだって偶にはキチンと仕事をする」

 偶にではなく常に仕事してください。大隊長。

 しかし、10日後か…

 思っていたより若干早いか。お偉い様方がやっぱりやめたと言うかと霞程は期待していたのだが、そりゃするか。

「さしあたってだがな。クリエ君には教国の西側を担当してもらいたい」

 教国は南と北、西側の3箇所に関所を構えている。

 コルドによると、北と南をソレゾレ2つの中隊が、そして西側を我々14中隊が単独で受け持つことになるらしい。

 色々と調査している身としてはやりやすくなるので、有り難いが気でも使ってくれたのだろうか?

「わかりました。話はそれだけですか?」

 そうと決まれば備品の確認やら具体的な策を練らねばならないし、魔視の薬瓶も増やさねばならない。

 ブランタークが過労死しなければいいけど。等と考えているとコルドから、

「随分とあっさりしてるのぉ」

 と声を掛けられる。

 別に元々やると言ってた戦が始まるだけだ。

 特段焦る事もない。

「それだから毒蛇などと呼ばれるんじゃ」

 コルド大隊長が何か言うが声が小さくよく聞こえない。

 どうせ何か皮肉だろう。

 指示を受けた後は策を講じるだけだ。

 大隊長室を背にした俺は自分の隊舎へと向かう。

 さて、どうやって生き残ろうか…

拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。

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