受難②
明日は8時投稿です。
それから先輩方へ、龍人族であること、実家がブレスコリアで伯爵家の立場にある事を説明し、ついでにスイハの素性に関しても説明しておく。
スイハの本名はスイハ・オウリアといい、実家であるヴァルコック家の側付きを代々努めている家の次期当主候補だ。当主候補と言っても名ばかりで、恐らくはお兄さんが次期当主となるだろう。
ここまで説明してようやく先輩方からの敵意が消えた訳だが、当のスイハそんな事はなにも気にせず、ただ横で聞きながらうんうんと頷くだけだ。
「と言う事で、これからクロウ様の身の回りは私がお世話しますのであしからず!」
と、話が終わるやいなやビシッと手を立て宣言し始めるスイハ。
「いや、なんでそんな前向きなのかわかんないんだけど、俺は帰らないからコッチにいる事になるんだよ?」
スイハとしても向こうに家族も知人も居るだろうし、正直無理強いするつもりも無かったのだが、
「いえいえいえ!私の居るべき場所はクロウ様が居る所。それを叶えるためにコツコツと周りの評価を勝ち取り、実力を磨き、文句をぶつける者共を黙らせてきたのですから!」
と食い気味に迫られては国に返す等選択肢から消え失せた。
「あの」
エリスがスイハへ質問を投げるが、
「スイハさんはクロウ君のお付きがしたいだけなのですか?」
「そうですね…お付きは最低ラインとしてせめてお手付き…理想は夫婦となる事ですかね…」
等と大きめの爆弾を放り込まれ、言葉を失っていると、
「そうですか…しかし、今のクロウ君は中隊を預かる立場。わたくしの方が的確にサポート出来ると思いますが?」
冷たい視線と口調で部屋の温度が下がる気がする。
横ではアレクとユーグリットが「ねえさん敵には冷たいよな」なんて話しているが、その前にこの空気をなんとかして欲しいです。
「あぁ、貴方もですか!では2人でやりましょうか!」
明るく元気にハキハキと言葉を返すスイハだが、俺からすると全く持って意味が不明だ。
正直世話なんかしてもらわなくても出来るし居るだけ邪魔なことの方が多い。
「ちょっと2人とも待って欲しい。俺としてはスイハには情報網を使って別の方向から敵国の動きを探ってほしかったんだけど…」
「情報網?」
緊張の糸が取れて眠そうなアレクが尋ねてくるが、
「そうそう。こんなんでも、なんでも世界三大執事家の内の一家だからさ。結構顔は広いんだよね。他国の執事やメイドでも一流の所は三大執事家に留学させたりしてるしさ」
と自身の考えをみんなに伝えるが、
「メイド?もしやシェリア様とも面識が?」
なにやらまたエリスの琴線に触れたものがあるらしく厳しい顔になる。
「シェリア…?あー、そういえば父上がよく呑みに行ってる者の名前がそんなんだったな」
「そうですが、では問題はなさそうですね」
なにやらこれ以上の事態にはならないらしい。
やっとの事に安堵していると、今度スイハから問い掛けを受ける。
「それで、龍夜祭には出るんですか?」
その事は手紙の中にもしっかりと記載があった。
四肢が残ってるなら必ず出ろと。
「なんだその龍夜祭ってのは?」
最もな疑問がユーグリットから飛び出してくるが、龍夜祭、別名終末の宴とも呼ばれているものだが、30年に一度行われ60歳を超えた龍達が一斉に空へと羽ばたき、半年かけて自身の力の象徴を持ってくる成人の儀だ。俺はまだ、1回目だから本来は出席する必要が無いのだが、仮にも伯爵家の三男。大きな政には出る必要がある。
ちなみに終末の宴というのは、その時期になると各地で龍の姿が散見するようになるからだ。
本来龍というのは滅多に見ることなど無いのだが、過去にたまたま近くにいた冒険者が目撃しギルドに報告したところ、大騒ぎになったのだ。
その頃は龍人等という種族の存在は今よりずっと狭い範囲でしか知られていなく、ブレスコリアも帝国とは真逆の西の果てにある。
「へー。要するに政治が絡むから顔を出せってことね」
珍しくサリアが1度聞いただけの話を理解できたもんだと感心していると、
「てかアンタ本当は何歳なのよ。16じゃないの?」
と刃先がコチラへ向いてくる。
龍人族は約60年かけて人で言うところの成人を迎える。
だが、成長ペースは初めの20年が早く、その後はゆっくりと成長が進み、60年を過ぎた頃から見た目の変化はほぼ無くなる。
俺は少し童顔ということもあるが、龍人の中では成長が遅い部類で今年で26年目。
「はぁ?年上かよ?」
ユーグリットから驚きの声が上がるが帝国にきて10年程だし、人の文化に触れてからはみんなより後輩だ。
文句はやめてほしい。
「龍夜祭は龍人にとっての一大イベント。流石に出席されないとなるとホーエンハイム様も相当お怒りになりそうですね」
スイハはそう言うが、今は戦争準備中だし、そろそろ戦争自体も始まる。このタイミングで抜けるのは鯛にとっても大きな穴になる。
「とは言っても」
とスイハが言葉を続ける。
「クロウ様の置かれてる状況を知っていればホーエンハイム様も無理にとは言いませんでしょう。探す合間にこの国が無謀な戦を仕掛けようとしている事は耳に挟みましたし」
「だよねえ!」
と救いの光が見えたことに喜びを噛みしめるが
「ただ、ホーエンハイム様も頑固な所があるので、筆次第てしょうかね」
「だよねぇ…」
すぐさま浴びせられる厳しい意見に身も凍りそうになるがどうにかしないといけないのは明白だ。
「と言うことがあってさ」
一通りスバルへと説明を終えると、腕組みをし難しそうな顔でうーんと唸り始めるスバル。
やがて顔をあげると、
「クロウ隊長は家族に会いたい気持ちはないのですか?」
なんて聞いてくるので、
「龍人ってタフだから中々死なないし、そのうち会いにいくよ」
とあっけらかんに言い放つ。
人や獣人は寿命が100年も無く一生が短いので縁を大切にする人物が多い。
だが、龍人やエルフ、魔族等の長寿種はそこらへんの価値観がズレている。
しかも大抵の長寿種は身体の頑強さや魔力量も多いため会えなくなる事もそんなに無いという考え方の者が多いのだ。
「でしたらここに居てくださいよ」
顔を赤らめながら上目遣いでそう語りかけてくるスバルに
「なんだ寂しいのか?」
と聞けば
「違いますよ。クロウ隊長が居なくなったら誰がこの書類の束を処理するんですか。私は嫌ですよ」
と書類を机に押し付けてくる。
まぁオチは見えてたけど一応やってみたくなるじゃん?
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。