幼子三日会わざれば刮目して見よ③
今回少し短いです。
「サリー副隊長。予定より前に出過ぎではないでしょうか?」
隊員の1人がサリーへ不安そうに声を掛けるが、
「大丈夫よ。まだ支援を受けられる範囲だもの」
なんの気なしに呟きながら前へと進むが、森の中だけあって視界も悪い。
「少し止まって」
手信号で隊員を止めると魔力を練り始め探知魔法を広げ始める。
−大分近付いてる筈なのにここまで反応がないって事ある?
訝しげに顔を傾げながら探知を続けるサリーだが突然、
「全員戦闘態勢!仮想敵はエリス隊長よ!」
と叫ぶと後方の景色が歪み、その隙間からエリスが現れる。
「あら?どうしてバレてしまったのでしょうか?」
以前ブランタークが少し触れていたが、この世界に生きる生物は基本的に大なり小なりの魔力を有している。
それは龍であれ人であれ虫であれ同じ事だ。
クロウやエリスが得意とする影魔術には、探知や探査の法術を掻い潜るための潜伏という術がある。
これは自身を影で覆い、レーダーから逃れるための術なのだが2つ欠点がある。
1つは影を媒体にするため光が無ければ発動が出来ないというもの。
そして、もう1つは、
「魔力反応が消えすぎよ」
影で覆った部分がぽっかりと穴が空いたように魔力反応を消し去ってしまう事だ。
「周囲に魔力反応のある生物はいなかったと把握してますが…」
不思議な表情でエリスが問いかけると
「私の魔術を散布してるのよ」
とサリーが答える。
「あぁ、なるほど。これは1本取られましたね」
反省を感じながら棒立ちのエリスが呟く。
−なんであんな棒立ちできるのよ
エリスの姿を見ながらサリーの内心は焦りだすが、それもそのはず。
サリーが周囲に散布したのは毒魔術。
自身の隊より外に向けて風魔法で障壁を作り、その向こうに温度で作用する毒を振りまいているのである。
毒に込めた効果は麻痺の術式。
本来であれば涼しい顔をして立っていることなど出来ない筈なのだ。
「ねぇ、このまま行かせてくれない?」
「それを許すと思います?」
一応言ってみたセリフだが通るわけなどない。だが、行かねばならない理由がある。
「好きな彼に会いに行きたいのよ。乙女心わからない?」
「クロウ君の事を言ってます?」
「だったら通してくれるのかしら?」
クロウに好意があるのは本心であり、1小隊内では周知の事実だ。
サリーが副隊長へ就任するために、隊員全員を事前に組み伏せ、副隊長ヘ立候補を伝えたのだ。
この健気な恋心はエリスにもしっかりと伝わったようで、
「死ね」
と衣服に仕込んだ短剣を一斉に投げ込んでくる。
数は30程だろうか、コチラは隊員1人1人に的を合わせており、突如向かってくる短剣に反応できない者が大半。
「あら?アンタも恋敵?」
自分に向かってきた短剣を自身の黒い短剣で叩き落とすと、広げていた魔術の効果を切る。
サリーの問い掛けには応えず術式を構築する。
「氷結」
エリスが地に手を付けると周囲が凍りつき瞬く間に氷の世界へと変わる。
「暴風」
続けて風魔法を行使し荒々しい風が生まれ、温度の下がった氷の世界へ冷気のナイフが吹き荒れる。
「めちゃくちゃするわね」
サリーも負けじと風魔法で対抗するが、2等級では火力が足りない。
周りにいた隊員もいつの間にか倒れ、残るは1人となってしまう。
「クロウ君に余計な羽虫がつくのはいけない事ですわ。しっかりとお話をする必要がありますね」
のっぺりとした笑顔で魔術を強めるエリスに対し、
「うっさいわね。恋するのがダメなんて事あるわけないでしょう!」
と強がってはみるが、差は歴然。
次の手を考えてはみるがここまでの差だといい案も考えつかない。
−一発くらい入れたいんだけどね…
突然、エリスの後ろで氷が弾け飛び、温かい空気が一気に流れ込む。
「あら?どなたでしょうか?」
振り返るエリスの首筋を剣先が掠め、思わず距離を取る。
「アン!」
サリーが叫ぶ先には5小隊副隊長であり、エレナと同じく箱庭出身のアンの姿が。
「肯定。サリー副隊長。援護します」
短く言葉を投げかけるアンの足元には紫の雷が迸っていた。
拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。
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