表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手向けの花  作者: 三四
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
10/34

幼子三日会わざれば刮目して見よ①

 時間は遡るほど30分前。

 5人程隊員を引き連れたアンは戦地となる場所の中ほどを指差し、

「そこ」

 と指示された隊員達は地面に魔術を埋め込みその場を去っていく。


 時を同じくして高台を位置取ったイーグ達狙撃班、

「おーおー。隊長さん達がよく見える。風もないし絶好のヒット日和だなぁ」

「イーグ副隊長。全員配置に着きました!」

「サンキューシラナキ」

 調子のいい様子で礼を言うと、

「アン達も仕掛けは終えたみたいだな」

 と、眼下を見下ろしながらそう呟き、隊長陣地からは花火が上がる。

「さて、魅せつけてみるか」


「上がりました!2班は目標に向かって進軍。3班は2班の援護へ。」

 伝達のギフトを通して投げられた指示を受け、シア達は前へと動きを進めるが、一筋の稲光と共に眼前に影が降りる。

「コチラシア。目標と会敵。このまま戦闘に入ります」

 土煙が晴れると茶髪を揺らした笑顔のサリアが姿を現す。

「あら、シアじゃない。相変わらずクロちゃんの読む力は正確ね!」

「シア隊長!!」

「はしゃぐんじゃないわよ。にしても30人規模とはまた大層ね。速攻でも仕掛けるつもりだった?」

「作戦を答えるわけないでしょう」

「馬鹿正直に答えない位には役から離れてるわね。いいわ。来なさい。全員指導してあげるわ」

 全身から紫電を迸らせながら大斧を肩に載せ、相手を挑発する姿はまるで悪役の様だが良く似合う。

「…っ‼胸をお借りしますね」


「3班は距離をとれ!」

 短い言葉を交わした直後、足先の小さな動きを見つけたシアは後方の部隊へ指示を出し、自身の武器を構えようとする。

 瞬間、サリアが肉薄し斧を振るうと大きな爆発音と共に土埃が舞い、一拍あり紫の稲妻が周囲を走る。

「クソっ。3班は雷の射程より外に身を置け!近付くな!」

 煙を掻き分け、中から飛び出して来たシア。

「ふぅん。流石に射程はバレてるのね」

 再度得物を肩に担ぎ直しながら感心した顔のサリア。

「流石ですね」

 と言うシアの肩には小さくはない傷が入り、手を伝い指から血が滴っている。

「でもなんで」

 サリアの言葉を遮るように八方から迫ってきた隊員の攻撃を斧の一振りでいなすと、

「コイツ等は倒れてないのかしら?」

 と、余裕の表情で語りかけてくる。

「それも答える訳はないでしょうに!」

 シアが答えるが内心は焦りに染まっている。

 それも今の攻撃である程度の傷を与える予定だったのだが、結果は見ての通り。

 いなされた上に2名ほどは飛ばした先の衝撃で意識を刈り取られてしまっている。

「まぁ足りないなら火力をあげるだけなんだけどね」

 纏う雷が紫から赤へと色を変わり、目に見える稲妻も線が太くなる。

「招雷」

「3班!用意を!」

 シアの指示で動き出した者達は両手を前に突き出して術式の構築を始め、即座に結果へと移行していく。


「緋々・絳鞭ヒヒ・コウベン


 サリアの術式が完成する直前にコチラも構築が完了し赤い稲光がシアの眼前に迫りくるが、全身を打つ衝撃に身を耐えると周囲一体が黒く焦げ上がりあちこちから煙が立ち上る。

「耐えきるなんて思っても無かったわね。意外としっかり策を練ってきてるじゃない!」

 嬉しそうに話すサリアとは対象的に額に汗を浮かべるシアは、

(土法術師を集めた絶縁魔法でも魔力が低いものは通してしまうレベルの術式。更には紫の稲妻よりも射程も伸び、ギリギリで構築していた3班は壊滅か。残っている者は4名程。同じ術式が来れば壊滅もあるな)

 と悲観的な様子。

「シア副隊長!」

 隊員の1人が叫びかけてくるが、

「大技だ。連発は出来まい」

 そう判断し術後の隙きを狙い仕掛ける。

「甘いわね」

 近付いたと思いその眼に見たのは笑う口元。

「招雷」

 咄嗟に魔力の膜を張るが、周りの隊員までは僅かに時が足りない。

「緋々・絳鞭」

 三度目の爆音。

 顔を上げた先には傷一つ無い上官の姿。

 法術で拓けた隙間からの光を背に浴びるサリア。

「ふふん。7等級如きを奥の手になんかしないわよ」

 作戦は失敗。

 本来ならココで降参でもして国へと連れて帰られるのだろうが、今は訓練。

「では、続きと行きましょうか!」

 憧れに対峙できる喜び。横に並び立つ為の意地。

 高揚した気持ちを手にし振るい慣れた斧を構える。

「良い顔ねシア」

「副隊長失格ですね」

「そんなこと無いわ?貴方がアタシを倒れさせれば貴方の勝ちよ?」

 あのサリアがその可能性を感じてくれている。

「僭越ながら挑ませて貰います」


 金属同士のぶつかる音とその度に散る火花。

 その度に発生する衝撃が離れた木花を揺らす。

「水壁!」

 シアの目の前に水の壁が現れサリアの武器が僅かに減速する。

「あぁ、うざったいわね!」

 破壊力を落とすだけではなく水を使う事で雷魔術も使用がしにくくなる。

 サリア程の力量があれば多少のリターンダメージを覚悟で落とす事も出来るのだが、

(常に自分とアタシの足元を水魔法で繋げてるわね。ほぼ100%の雷魔術が帰るように水質も弄ってる?)

 シアの術式改築で100%に近い純度に変えた水は電気をよく通す。更に中に着ている服は土魔法を利用し50%まで抵抗率を上げている。

 それを着ていても元来の抵抗力は魔力量が影響するのでシア以外は倒されてしまったのだが。

「あーめんどくさいわね!」

 大振りの攻撃で体を弾かれたシアはサリアと距離をとる事になり、次の手を伺おうとするが、

 −…⁉

 何かに気付き攻撃に向かうシア。

 変わったのは色。

 赤から白に。


「白神の鳴動」


 視界を埋め尽くすほどの稲光が周囲を覆い、一呼吸置いてこの日一番大きな音が地を揺るがす。

 焦げる匂いと魔力の残穢。

 晴れたその場に気を失い横たわるのは副隊長。


【シアが戦闘不能となりました】

 互いの隊へと駆ける定形魔法がこの訓練で両隊長格を通して初めてとなる脱落者を知らせる


「手は悪くなかったわよ。相手が悪かっただけね」

 そう言い残すと倒れた者の息遣いだけが静寂に響き渡る。



拙い文章でしたが、ココまでお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字等があればご指摘を、また、応援ブックマーク等の評価も是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ