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第6話 グラスキングダム

グラスキングダムは隊商の行き交う国である。

草原の国の名のごとく広大で肥沃な土地は人々に馴染み深いものなのだろう。魔物が徘徊を始めたこのご時世でも人の出入りは途絶えない。一歩アーチから踏み入ると賑やかな街の空気が流れてくる。王都は外壁都市の犠牲の上にこのご時世でも平穏だった。


「外壁都市とは、うってかわって平和だな」

「所詮むこうは〝壁〟だからな」


ラングたちはメインストリートに立ち並ぶ市を横目に歩を進める。とはいえ賑やかさの裏には気づけば確実にものものしさが見受けられる。兵士達はそこら中に配置されているようである。


「ラング、あの生き物は何だ?」


そんな中で時々レダークは世間知らずの片鱗を見せる。

そういって指差したのはグラスキングダムの守護獣ソル・ブレイクを模して造られた魔法生物であった。

 守護獣とはこの世界の六つの大国にそれぞれ一体ずついると言われる象徴的な存在だ。大抵どこの王都にもその複製品がちらほらうろついている。


意味は特に無く『守護』の名にのっとった験担ぎと国同士の張り合いの賜物だろう。ちなみに城から放たれているもので、近くには必ずそういう関係者がいるともいわれている。

ラングはそれが事実であることも知っていた。レダークは道脇の日だまりにいた猫のような黄色い生き物を抱き上げてまじまじと見ている。


「サーベルキャットとツインテールウィドゥがまじってる」

「魔法生物っていうより合成魔獣だな」


ずばり種別を言い当てたレダークの言葉に一抹の不安を覚えるラング。

元が魔物で大丈夫なのかね。


「精神構成操作は魔法でやってますから大丈夫ですよ。」


ちりりん、猫のように鈴をつけられたレプリカはレダークの手を離れそう言った人物の足元へ駆け寄った。


「はじめまして、ランギヌス様。わたくしは宮廷魔術師ウォルドと申します」


白い皮のローブに身を包まれた青年が黒いブーツをひいて一礼をする。


「貴殿のお噂はかねがね……」

「で、何か用?」


短く用件だけ言え。

ラングの無言の訴えを聡明なる宮廷魔術師は理解したようにひとつ頷いた。


「城へ御出でください。王がお待ちです」

「行ってみたいか?」


昼も近いし気まぐれにレダークに尋ねるとあっさりイエスというので誘いに応じることにする。殆ど物見遊山のノリだ。


「早かったな」

「何がです?」

「みつけるのが」


今まで通ったどの国より早い。ラングはウォルドにそう言った。招致を受けたのはそのタイミングの良さもあった。

だいたい通る国々で良く声は掛けられるがいざ次の街へ出発という時に呼ばれても行く気になどならないものだ。その点、到着してすぐだと町や周辺の様子も知れて意外と便利である。


「今朝方、他のパーティと宿で騒いでおられたでしょう。昨日の騒ぎで外壁都市に逗留した者がしっかり聞いておりまして」


……こいつ意外にくえないやつだ。


それがウォルドの人格を垣間見た感想。間違いなければにっこり笑って嫌なことも言ってくるタイプだろう。なんて思っていると想像通りの笑顔でなお訂正した。


「ああ、一方的に騒がれていたんでしたっけ」

「賑やかな人たちだったね」

「あのパーティのリーダーは確かエクシードさんでしたね?」

「随分詳しいじゃないか」


一介のパーティまで覚えているなんて。確かにこの宮廷魔術師は無駄に記憶力がありそうだ、とラングは値踏みする。


「いえ、それがここらじゃ有名なんです。不幸な勇者に有能な王国騎士、それに守銭奴の坊主」


歯に衣きせぬ毒舌ぶりにラングは大笑、レダークは苦笑した。


「せいぜい悪く言われないようにオレたちも気を付けなくちゃな」


心にも思っていないことを言う。


「『愚勇者』以上にそんな言葉があるんですか?」

「さぁ?」


今度は実直なウォルドとレダークのそんなやりとり。そんなことをしているうちに日は落ち、城へと到着した。実はここから王族のプライベートエリアに入るまでがまた長かったりもする。王の居所まで連れて行かれるのもおそらく間違いないだろう。


「さて、では道々用件をお話しておきましょうか? 憶測ですけど」

「充分だ。簡潔に頼むよ」


簡潔に、といわれてウォルドは少し首をひねる。


「黄金竜を倒してください、ですかね」


なぜか語尾は疑問形だ。


「黄金竜、というと……東の山脈に住んでいるという?」


レダークの眉が曇る。すでに依頼を受けることへの反対の表情だ。


「実は……いえ、待ってください」


再び考え込む。今までの会話に反してマニュアル通りにしゃべるのはどうやら苦手らしい。


「最終的な依頼は西のアビスルートに行って魔界の王を倒してくれ、なんだと思うんですけど」


おいおいおい、いきなりラスボス(?)倒せって?

とはいえ王国の頼みなんていつもそんなものだったので別に大した感銘は湧かない。


「アビスルートから魔界? ……魔界なんて初耳だけど」


ラングがつっこむ前にレダークが尋ねた。アビスルートとはグラスキングダムの遥か遥か遥か西方、大陸の終わり、幻の岬に現れる異界への路、と言い伝えに唄われている、はず。

確か、異界であって魔界ではなかったと思うのは記憶違いか?第一魔界なんていかにもで……


「それって勝手にここの王が言ってるだけとか」

「えぇ、アホなんです。その辺は見逃してやってください」


……。そう嘆息した様にあまりにも苦渋が見えてさすがのラングもそれ以上は追求しなかった。

さて、しかしこれでは話が見えない。


「はじめから話してくれないか? ありがちでも憶測でもいいからさぁ」


そうラングが問い返したのはいつもの『勇者よ、魔王を倒すのだ!』という何言ってんだお前は、的なお願いに加え、妙におもしろおかしい具体的な話題があったのにつられてのことである。


「要するに、王は最近の魔物の悪行を元凶から絶とうと考えております。まぁそのあたりはどこの国も似た感じで……ランギヌス殿のほうが身にしみていらっしゃるでしょう?」


確かに。どこにいっても勇者としてすがってくる人間は絶えない。それは国でもおなじこと。そもそも勇者が魔王を倒すなんてベタな伝説が悪いんだとラングは多少なり憤慨している。


「で、その元凶がアビスルートの向うにいるって?」

「『魔界』ですから」


再び嘆息。要するに異界を魔界と推測するのは妄想半分、証拠はない。調査もおそらく無い、アホといった由縁だ。最も様々な伝説が各地でかなり信憑性を得ている世界であるから仕方の無いことなのかもしれないが。そういう意味では過剰な反応からしてウォルドはかなり現実思考派なのであろう。

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