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第1話 人狼の森

『勇者』と呼ばれる存在がいる。

魔王が現れ世界が混乱を極めたときに現れる……なんてご都合主義な存在。まるでおとぎ話のような伝説が語り継がれるその国でラングはその言葉が嫌いだった。


なぜか。


それは彼がその『伝説の』勇者だったからである。

今時、他人に頼ってあわよくば救われようなんざ……奇特だ。

そんな独立心でもって彼は王侯貴族や豪商からの誘いを断りまくり今や『愚勇者』呼ばわりされる始末だったが、どこ吹く風。そうして今日もある地方領主の魔物退治の依頼を足蹴にして彼らはここにいる。


「やっぱり森を抜けるのは無理があったかな?」


相棒のレダークが空を見上げて呟いた。折しも今夜は満月だ。木漏れ日ならぬ木漏れ月光が暗い緑の地面に淡く斑に影を落としている。ワーウルフの住む森、そうと知りつつ彼らが夜半にここにいるのには訳があった。


勇者伝説を熱望する神官の小娘がおっかけよろしくラングを探し出しては『魔王討伐の旅』に着いてこようとするのだ。無論ラングがそんな目的で旅をしている訳もなく、しかしこれがいくら聞かせても信仰心の賜物とやらで一向に諦める様子がない。

毎度のことながら今回も領主の依頼を断ったところでみつかって、要するに彼女のある意味追撃をまく為に敢えて宿を夜に抜けだしたのである。


それが満月の晩だったことは単なる偶然だ。領主の依頼はお察しのとおりワーウルフ退治だったのだがそんなことは彼らにとって大した興味にもならず、早く次の街へ行ってしまおうというところだった。


「それよか眠い!」


今ごろならベッドで熟睡って時間なのに。

ラングに危機感はない。レダークも月夜におびえて、というより今日より明日なら良かったのに、という程度の様子だ。


ウォォォー


月がざわめく。獣が吠えた。

そんなことだろうとは思っていたが……

じっと黙り込んだ二人の周りに何者かの気配があつまってくるのに大して時間はかからなかった。

人間だ、人間だ……ざわめく音はやがて声となる。狂暴な殺意。好奇心、困惑、同じ言葉に様々な意味が混じってみえるのは気のせいか?


「まずいぜ、ホントに来やがった」

「噂どおりこんなところに住んでいたんだな」


レダークの口調は驚きを含んではいたが相変わらずどこか悠長である。

ザンッ!

茂みの中から月下に現れたのは四頭。いや、四人、というべきか?威嚇の為か興奮しているのか背の毛は細く無数の針を逆立てたように鋭く銀に輝き、そのせいでおそらく元は人間の男と同じ程度の大きさだろう体格は倍にも見える。いずれにしても黙って通してくれる雰囲気ではない。ラングはあの女神官を思い出し舌打ちをした。

だからああいう手合いとは関わりたくないんだよっ

茂みの中からさらに数頭がこちらを伺っている。四頭の人狼が何事か顔を見合わせ低く唸りあった。瞬間だった。


「人に仇なすワーウルフめっ! ぼっ、僕が相手だ!」


はあ?!


声の方を反射的に振り返ったラングの目が点になった。黒い髪の少年が剣を正眼に……震えていた。


「しっかりするのよっエクス! ここで引き下がったら勇者として恥ずかしいわよ!」


おや。

勇者、という言葉にレダークとラングが顔を見合わせた。僧侶風の十字のエンブレムの描かれたローブを纏う女が後ろから声援を送っている。騒がしい挿入者に人狼の気は完全に逸れた。

逃げるチャンスではあるがついでに二人の気も一緒に逸れてそれどころではない。

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