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まじわる

作者: 宮村



視線を落とし、排水口に目をやると、長い髪の毛が数本絡まっていた。


間違いなくさっきの女だ。やはり僕の目に狂いはなかった。




ついさっき出て行ったその女を、僕は3万プラスいくらかで買った。

僕は基本的に、値段は一番大きい桁しか見ない。金額を前に目玉が右往左往するのは、みっともなくて嫌だ。後ろめたい買い物なら、なおさら。まあそんなことはどうでもいい。


派遣されてきたのは、3万円だろうが3万9千円だろうが、どうでもよくなるような女だった。


例えるなら、フローラルな香りのおしゃれ着用洗剤で洗った便所雑巾みたいな。触ったが最後、手を洗っても臭いが取れなさそうな女だった。もちろん比喩だ。それくらい、僕にとって、触るのも触られるのもごめん被りたいかんじの低俗な女。



僕は気落ちしたのを悟られないよう細心の注意を払って、優しい嘘をついた。



「実は、話し相手になってほしいだけなんです。」



破れかぶれな気持ちで、来客用に買っておいたプレミアムなんとかベルガモットとかいう高級な紅茶を開封した。


それを女は、「タピオカの入ってないお茶飲むの、久しぶりです。」などと、舌を引き抜きたくなるようなコメントを述べて、あっけなく飲んだ。


それから1時間ちょっと、心頭滅却して女の話に相槌をうった。少しでも沈黙ができると、「ホントに何もしなくていいの。」などと、人の気も知らず要らんことを言い出しかねない。




ふと女が腕時計を見て、「シャワー借りてもいいですか。」と言った。「いいけど、どうして。」「何もしないで帰ったと思われないように。」


あっそ。悪かったね。




律儀にタイマーが終了時間を告げ、女は機嫌よく帰って行った。


速攻で、女に使わせたティーカップをポリ袋に入れ、頭の高さから落下させた。カップが床に着地する瞬間、そういえば不燃ゴミの日は来週だったと気づき、頭の中が砂嵐になった。


で、一連のモヤモヤを洗い流すべく、シャワーを浴びていると、右の肩がヌルヌルし始め、徐々に身体が溶けて、足下にミルクティーみたいな色の水溜りができ、うわ、まさか排水口に流れるんじゃないよな、と思って視線を落とし、排水口に目をやると、長い髪の毛が数本絡まっていた。


間違いなくさっきの女だ。やはり僕の目に狂いはなかった。


幸い溶けた僕は、粘り強く足下に溜まって、排水口との距離を保てている。安心し、冷静さを取り戻した僕は、シャワーを止めないと、僕が溶けちゃったあと、水道代を払う家族に申し訳ないなと思って、蛇口を閉めた。


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