困りごとと心変わり
気持ちよかった。
前回と比べて、格段に。
だが、しかし。
「私の勝ちですね。」
「そんな…馬鹿な…。」
結局、負けたくないがために戦力温存は出来ず、使えるものは全て使うことになってしまった。
お父様お母様ごめんなさい。娘はちょっとだけ汚れました。
まあ、最後までした訳じゃないし、バレないバレない。
そんなことよりも。
「不能なんて嘘じゃないですか。 触る前から硬くなってましたけど。」
「………っ!」
公爵様の顔がかあ、と赤くなる。
「もしかして、私の同情を買う作戦でした? そこまでしても、結局負けてて哀れですね。」
「………。」
今度はさあ、と青くなる。
忙しい人だな。
「とりあえず、お帰りいただいてもいいですか?」
部屋の扉を開き、笑顔で帰宅を促すと、
「……ハイ。」
公爵様は、素直にふらふら帰っていった。
扉をばたん、と閉めた後、ベッドにばふ、と倒れ込む。
「…はあ。」
気持ちよかったな。
前回は痛くて、上手いと思ってる男の独りよがりってこういうことかー、なんて冷静に考えていたけれど。
性的な接触に対して、前世の家族のせいで強い嫌悪感を持っていたけど、案外悪いことでもないのかも。
「…どうせ、また来るんだろうな。 プライドが許さない!とか言って。」
公爵様の恥じらう顔や、青ざめた顔。
そして、快感に溺れた顔を思い出す。
「…はあ。」
変な噂が立つことも、親を裏切って男と関係を持つことも、とても困るんだけど。
この関係を、悪くないと思い始めている自分が、1番困る。
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そんな、馬鹿な。
今朝までは間違いなく不能だった筈なんだ。
それなのに。
彼女に触れ始めてからの下半身への熱の集まりようはなんだったんだ?
彼女の身体は特別美しい訳でも、豊満な訳でもない。
別に、好みの顔や声な訳でもないし、特別に扇情的なことをされた訳でもない。
まるで身体が先日の快感を覚えていて、期待しているかのようだった。
それだけではない。
「舌…めちゃくちゃ良かった………。」
前回の比ではない。
腰が溶けるかと思った。
正直、最中に負けを確信していた。
だが、しかし!
今回は完敗ではない!
手だけで済ませると言っていた彼女に、舌を使わせたのだ。
つまり!
次に会う時は、きっと俺の完全勝利!
首を洗って待っていろ、処女の引きこもり娘!!
さっさと勝って、自分の誇りを取り戻したい。
早めに次の予定を立てなくては。
「ーーー…次は、いつ会えるかな…。」
アーサーに、早いうちに手引きを頼もう。
次はもっと、ゆっくりできる時間が欲しい。
彼女に感想を聞いて、改善点を探すのもいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、俺は自分の屋敷への帰路につくのであった。