事後の後悔
一体何が起こったのか、わからなかった。
ただ、耳に残っているのは彼女の一言。
「痛いんですけど。」
確かに、処女を相手にするのは初めてだったのだが。
「じゃあ次は、私の番ですね。」
その後何をされたか、全く覚えてない。
思い出したくもない。
気持ちよかった。
とても。
ーーー……いやそうじゃなくて!
「お? もう帰ってきたのかよ。 さすがのお前でも、うちの妹は難攻不落だったか。」
馴染みの酒場に入ると、アーサーが寄ってきた。
もうかなり飲んでいるらしい。
「あ? どうしたんだお前。 そんな青ざめた顔して… さては、こっぴどく振られたか?」
振られただけなら、どんなに良かったことか。
しかし、あんなやり方で男のプライドを傷つけられたなんて、口の軽いこいつに言える訳がない。
とりあえず、今言えることは、
「もう、二度と会いたくない…。」
酒を飲む気にもなれない。
早く帰りたい。
「は!? 本当にどうした!? うちの妹、何かしでかしたのか!?」
焦り出すアーサーを尻目に、何も答えず酒場を出た。
あいつの頼み事なんて、最初から断れば良かったんだ。
もう二度と聞いてやるもんか。
さっさと帰って、シャワーを浴びて寝よう。
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「アーリア! お前、ノアに何したんだ? 顔面蒼白で帰っていったぞ。」
酒場で飲んできたのか、酒の匂いを撒き散らしながら不肖の兄が帰ってきた。
「アーサーお兄様こそ、一体何を考えていらっしゃるの? こんな夜更けに女たらしで有名な公爵様と2人きりにするなんて。 非常識だわ。」
私が怒りを露わにすると、お兄様はきょとん、と不思議そうな顔をした。
「えっ…だってお前、この前ゲンジモノガタリを教えてくれただろ? イケメンが夜這いに来るって話。 そういう恋愛に興味があるのかと思って…。」
「それはお兄様が、他国の物語に興味があるとおっしゃったからお話ししただけではないですか!」
その物語が好きだからといって、同じように恋愛したいとは限らないでしょう。
大体、時代背景も文化も違うというのに。
「でも…国立図書館の司書の女の子と飲んだ時にその本のこと聞いたら、そんな本ないって言ってたぞ? ニホンって国だって、聞いたことがないし… だから、本当はお前の想像の中の話なのかと…。」
「っ……それは……。」
一瞬言葉に詰まる。
確かに、此方の世界で日本という国の話は聞いたことがない。
私の妄想だと言われても否定の仕様がなかった。
この世界の人間に、日本の話などするべきじゃなかったのだ。
「だからって、女遊びの激しい男性を妹の夜這いに派遣するなんて、妹想いの兄のすることでしょうか? 変な噂が立ったら、お兄様のせいですからね!」
「ごめん!! お前のことは本当に大事に思っている! 許してくれー!!」
当分お兄様とは口を聞かない。
そう心に固く誓いながら、私は泣いている兄を自室から追い出した。