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デート

俺は考えた。

こんなに執着する理由があるとすれば、間違いなく。


()()()()()()からだ。


なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。

俺は別に、彼女のことが好きなわけじゃないんじゃないか?

抱けそうで抱けない、手に入りそうで入らないところで焦れに焦れているから、執着しているだけかもしれない。

きっとそうだ!

そうと決まれば話は早い。


「というわけで、抱かせてくれないか。」

「馬鹿なんですか?」


夜会から数日が経った。

あんな別れ方をした後なので、屋敷に入れてもらえないだろうと長期戦を考えていたが、アーサーにすんなり通された。

アーリアには、彼女の部屋を開けた瞬間に舌打ちをされたが。

しかし、俺はめげない。


「だから、君に男を教えてきたのは俺なのに、他人においしいところだけ盗られるのは癪に触ると言ってるんだ。」

「…はあ。 そうですか。」

「君だって、俺が押し掛けてくるの迷惑だろう? 一晩俺に抱かれるだけで君は自由になれるぞ。」

「そう思うなら押し掛けてこないでください……。」


彼女は呆れたような顔をしてため息をつき、読んでいた本を閉じた。


「わかりました。」


ーーー…えっ。 いいの?

俺は内心焦る。

正直、ふざけるなと一蹴されて終わりかと思っていたのに。


「い、いいのか? 君は貴族の娘なんだぞ? そんなに簡単に身体を許していいと思ってるのか!」

「自分で申し込んできたくせに何をおっしゃってるんですか。 結婚する殿方との初夜に、初めてらしく演技しますからご心配なく。」


彼女は扉の前に立つ俺に数歩近づいてくる。


「その代わり、私もお願いがあるんですけれど。」


彼女は首を傾けて、蠱惑的に微笑んだ。




==============



「買い物?」


あの後突然彼女に引っ張られ、馬車に乗せられ街に出てきた。


「はい。 先日のパーティーで、何人かの殿方からお誘いを受けまして。 アクセサリーと靴を購入したいのです。 先日のドレスは結局兄と一緒に選んだので、今度こそ、私に合うものを見繕ってくださいな。」


他の男の誘いに使うものと聞くと思うところはあるがーーー

なんだかデートみたいだ。

先日の夜会以外では彼女の部屋で過ごしてばかりだったので、とても新鮮に感じる。


「街一番人気の装飾品店に連絡してありますので、そこに向かっています。」


とても楽しそうな彼女の横顔を見る。

きっと彼女は、他の年頃の女の子と同じでアクセサリーや靴を選ぶのが楽しみなのだろう。

決して、俺とデートをしているからではない。

そこは勘違いしてはいけない。

わかっているのに、少し頰が緩んだ。


装飾品店に着くと、店員が出迎えにきた。


「ナフィアール公爵閣下、ネルソン伯爵令嬢、お待ちしておりました。 ゆっくりお選びいただけるよう部屋をご用意いたしましたので、どうぞこちらへ。」


部屋に通されソファに座る。

すぐに店員がいくつかのアクセサリーを持ってきた。


「うちの店で最も美しいものを揃えて参りました。 いかがでしょうか?」


青い宝石、透明な宝石、緑の宝石、赤い宝石………順番に見て、1番に気になったものは、ピンクゴールドの装飾をあしらった桃色の宝石のネックレスとイヤリング。


「…この宝石は、君に似合うな。 君の瞳の色に合う、美しい色だ。」


アーリアの耳にイヤリングを着けてやり、彼女の長い髪を耳にかけてやる。

やはり、これが一番しっくりくる。


「そういう言葉は、公爵様のファンの方々に言うと喜ばれると思いますよ。 …というか」


袖を軽く引かれ、彼女に少し寄る。

すると彼女は、俺の耳に唇を寄せて、囁いた。


「情熱的な口説き文句は、ベッドの中でお願いしますね。」

「なっ……!!」


驚いて飛び退くように彼女から離れた。

店員もいるというのに、なんて言葉を吐くんだこの娘は。


「顔が真っ赤ですよ、公爵様。 どちらが生娘なんだか。」


ふふ、と楽しそうに笑う彼女を見て思う。

本当に、悪魔のような女だと思う。

俺を惑わせて、狂わせて、振り回して楽しんでいる、愛しい俺の悪魔。

……愛しい? 俺の?

違う違う! 俺はただ執着しているだけだ!

決して彼女を愛しいなどと思っていない!

頭をふって考えを改める。


「パパラチアサファイアですね。 とある地域では、《一途な愛》や《運命的な恋》の象徴とされているんですよ。」


アーリアは鏡を覗き込んで、自身の耳についたアクセサリーを見つめる。


「公爵様は似合うとおっしゃってくださりましたが……そういう意味では、私たちには全く似合わない宝石ですね。 これはやめておきます。」


アーリアは着けていたイヤリングを外して、店員に渡した。


「そうですか、残念です。」

「でも、青いものと緑のものも素敵ですね。 公爵様、どちらがいいと思いますか?」


彼女はすぐに違う宝石を指差す。

店員が桃色の宝石のアクセサリーを片付けようとするのを、目の前に手を出して制した。


「これを頂けるだろうか。」

「えっ、公爵様?」

「あと、青いものと緑のものも一緒に頂きたい。」

「はい! ありがとうございます。 すぐにご用意いたします。」


店員がアクセサリーを持って別室に下がっていくと、アーリアが俺の服の裾を引っ張った。


「公爵様、私の話聞いてました? それに、3つも買うお金持ってきてないですよ!」

「俺が贈るから金の心配はしなくていい。 話もちゃんと聞いていた。 要らないと言ったんだろう? でも、俺は君に似合うと思った。ーーー…俺が、君に贈りたいと思ったんだ。」


なんでかは、わからないけど。

君に着けて欲しいと思った。


「嫌なら着けなくていい。 持っててくれるだけでいいから……駄目か?」

「……別に、駄目じゃありませんけど。」


彼女は少し俯き気味に、小声で言う。


「……ありがとうございます。」


俯いた顔が、少し赤くなっている。

照れているんだろうか。

ベッドでもそんな顔しないくせに。


「あ゛あ゛………」

「何変な声出してるんですか……。」


顔を手で覆って下を向く。

違う。

決して可愛いなんて思ってない。

惑わされるな。

むしろ俺は今、彼女を罠にかけているところなのだ。

女性がプレゼントに弱いのは経験上わかっている。

彼女が照れているのは、俺の作戦がうまくいっている証拠だ!

毅然としろ、俺!


「それで? アクセサリーの次は靴だっけ?」


緩んだ頬に力を入れて無理矢理表情を作って尋ねる。


「そうです。 靴屋にも連絡を入れてありますので、この後向かいましょう。」


立とうとする彼女に手を差し伸べる。

「ありがとうございます」と軽く礼を述べて彼女が俺の手を握る。

立ち上がった彼女は、そのまま手を俺の腕に回してきた。


「………。」

「どうかしましたか? 行きましょう。」


これは、なんだ?

ああ、あれか。

『プレゼントありがとう。 次に買う靴もよろしくね。』 のおねだりか。

さすが魔性の女。

随分畳みかけてくるじゃないか。

そんな手に乗ってやるものか。

………。


「………靴も……俺が贈るから。」


悪い女に騙されてる気分だ。


「え? 自分で出しますよ。 最初から自分で買うつもりだったので。 買っていただく義理もありませんし。」


なんでこの女は俺が歩み寄ると離れていくんだ。

本当に、何がしたいんだ……。

そう思いつつも、腕に感じる温かさをずっと離したくなくて。


馬車までの道のりがもっと長くなればいいのに、と考えていた。


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