毒霧の蔓延するこの空間で、唯々ひたすらに、ひたすらに
精神的に来ているなぁ。
食事の際の、相手の口元、食べ方、箸の先をなめる行為、そしてその舐めた箸で大皿から料理を取り分けるそのおぞましさ。
虫歯に侵されたその腔内で、歯周病に侵されたその腔内で。
いつからだろうか、
次第に目の前の世界が薄紫に、灰色に、脱色されてゆくのは。
声は水越しにぼやけつつ木霊して、周りに透明ビニールのカーテンが現れる。
怪物というよりはどろどろ溶けたモンスターで、人皮を被ったそれが眼前に。
胃肺はその巨手に握り締められ、狭くなった喉元を傷つけながらも言葉を吐く。
椅子よりぶら下がる、腕と脚。背もたれに触れる、背骨と肩甲骨とが、
次第にぎこちなさを増してゆき、言う事を聞かなくなっていく。
誤魔化なくてはと、頭から体躯へ、吐き気を堪え、指令を出しては操縦してゆく。
「あぁ、離れたい。逃げ出したい。無になりたい。」
毒霧の蔓延するこの空間で、唯々ひたすらに耳を塞ぎ、目を閉じて。
揚げ足さえも見せないように、ひたすら殻にこもっては、僅かなさざ波さえ立てないようと行動し、漏れ出る自分の匂いさえ、薬を使って誤魔化して。
このままでは張り裂けるからと、手慣れた自己暗示で感覚を麻痺させ、脳神経を無理やり焼き切り、落ち着きへと変えてゆく。
自分が擦り減るその喪失感さえ、冷徹なデジタルに、ただの情報へと灰色に。
いつまでこの生活が続くのだろうか。